ループ・ザ・館⑫




当然人が三人いなくなれば事件にもなるし捜索活動はある。 三人もの人間が、誰にも気付かれずにこの世界から消えていなくなるなんてことは日本では起きない。

三人が遭難してから数日が経った頃、病室で一人の男が看護師の定期診断を受けていた。 


「お身体の方は大丈夫ですか?」

「はい。 大丈夫です」

「身体の状態は回復へ向かっております。 何かあったらお知らせくださいね」


―――回復、か・・・。

―――喜ばしいことなんだけど、何だかな・・・。


尚斗は捜索隊に山で倒れているところを発見された。 あと一日でも発見が遅れていればおそらくは命を失っていただろう。 部屋から去ろうとする看護師を呼び止める。


「あの」

「はい?」

「テレビをつけてもらえますか?」

「分かりました」


そう言ってテレビをつけてもらった。 ついでにリモコンも持ってきてくれる。


「リモコンはこちらに置いておきますね」

「ありがとうございます」


女性はテーブルの上にリモコンを置くと病室から出ていった。 それを見届けると早速ニュース番組に切り替える。


―――やっぱりまた流れているのか・・・。


丁度よく見たいニュースが流れていた。 


『××山にて遭難していたと思われる○○大学山岳部の遺体が発見されました。 全身に見える打撲から、高所から誤って転落してしまった可能性が――――』


―――・・・転落死、ね。

―――遺体の損傷の具合。

―――そして装備の欠けがなかったことから、事件性はなく事故であったと結論付けられた。


ニュースを見て深く息を吐く。


―――・・・だけど俺にはその記憶がない。

―――それに一つ不思議なことがあるんだよな。


そう思いながらニュースを見つめる。 ただその気になった内容はニュースでは報道されていなかった。


―――高所からの落下により激しい衝撃に見舞われたはずの遺体が、何故か自分と手を繋いでいたと聞いた・・・。


そのために無理心中を疑われたが、そのような事実は捜査の結果否定された。 手を繋いだのが落ちる前ではなく、落ちた後だということが分かったためだ。


―――この報道は既に何回も見た。

―――内容は全て同じで目新しい情報はない。

―――だからもうこれ以上の情報は出てこないということだよな。


静かにテレビを消す。


―――確かに不思議だ。

―――・・・不思議だけど、そういうことなんだよな。


「結局選んだのはアイツの方だったということか」


憶えていて最も印象に残っているのは当然告白のことだ。 更に言うなら、夢のような世界で沙里に言われたこともハッキリと憶えている。 ナースが持ってきた温めのお茶をゆっくりと口に運んだ。

口の中も怪我していて、あの夜感じなかった痛みが今を現実だと認識させてくれる。


―――どうして俺だけ助かったんだろう?

―――どこで遭難したのかは全く憶えていないけど、館内での記憶はハッキリとある。

―――あの時間の巻き戻りは、失った意識の中夢を見せられていたようなものだったのかもしれない。


とはいえ、大貴や沙里とのやり取りはとても夢であったとは思えなかった。 もしかしたら極限状態で互いの意識を共有していた、そんな不思議現象だったのかもしれないがよく分からない。

ただ手に残っていた温もりを今でも感じることがある。


―――大貴と沙里が死んだということは、俺は選ばれなかったということだ。

―――だけど、沙里と手を繋いでいたのは俺の方だった。 


全ては何の意味もないのかもしれない。 だがそう思うには少しばかり経験したことが大き過ぎた。


「いや、気にするのはよそう。 俺じゃなくてアイツが選ばれたっていうことでいいじゃないか。 ありがとう。 大貴、沙里」


ぼんやりと窓の向こうを眺める。


―――二人の葬式は俺が退院した後に行うと言ってくれた。

―――だから退院したらまずは葬式へ出よう。

―――そして墓参りにも行こう。


「・・・俺は大貴と親友になれて、そして沙里のことを好きになれてよかったと思ってるよ」


部屋に飾られている三人が写った写真を見つめた。 そこから窓へと視線を移す。


「あ・・・」


窓から覗く月明かりに、二人が笑顔で手を振っているのを幻視したような気がした。






                                  -END-



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ループ・ザ・館 ゆーり。 @koigokoro

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