第19話 魔王討伐

 勇者たちとたもとを分かったアマンドゥス・フォン・ラパンツィスキは、直ちにティアマトと11の怪物から成る武装集団を召喚すると、手分けをして魔王城を探索することにした。


「手分けして魔王城を探索する。おまえたち。頼むぞ」

「「「承知した」」」


 ラパンツィスキ様もサーチの魔法で怪しき気配を探った。


「風よ。我に怪しき気配を知らせよ。アマンドゥスが命じる。サーチ!」


 サーチの魔法では、最大で数十キロの半径の気配を探ることができる。

 転移魔法で数十キロ一気に移動してはサーチの魔法で探りを入れる。これを何度か繰り返し、1時間も経たずに、ラパンツィスキ様は怪しき気配を察知した。


 ラパンツィスキ様は飛翔の魔法で一直線に魔王城へと向かいながら、ティアマトたちを呼び戻し、合流する。


 探知した場所へ着いてみると、禍々しい気配のいかにもな感じの城がそびえていた。

 城の周りには深い水堀が巡らされ、城へ続く跳ね橋は上げられており、門は固く閉ざされていた。


あるじ殿。ここはわらわに任せてくれろ」

「ああ。わかった」


 ティアマトが巨大な雷霆らいていを門に落とすと、門の扉は真っ二つに裂けた。


 魔人やこれらにしたがう魔獣たちが迎撃に出てくるが、ムシュマッヘ(七岐の大蛇)ほか10の怪物たちが次々と粉砕していく。


「炎よ。尖鋭な槍となりて敵を貫け。アマンドゥスが命じる。ファイアジャベリン!」


 ラパンツィスキも魔法で応戦する。


 ティアマトはまだ人型を取っており、強力な膂力りょりょくをもって大剣クレイモアで敵を切り裂いていた。


「殲滅する必要はない。魔王の玉座への道を開くだけでいい。急げ!」

「「「承知!」」」


 途中、魔王の幹部らしき者も迎撃してくるが、ムシュマッヘたちの敵ではなかった。彼らもまた、神に匹敵する力を持っていたからだ。


 そして極短時間のうちに魔王の玉座に迫った。


 魔王は、やはり人型をとっていた。すなわち亜神以上の存在ということだ。


「よく来たな。まずは、ここまで来たことを褒めてやろう。だが、きさまらの命運もここまでだ。魔王に逆らったことを悔いながら、苦しみ抜いて死ぬがいい」

 と言うと魔王はその本性を現した。


 巨大な人型の竜だった。その表面はいかにも固そうな鱗で覆われている。


「ここでおしゃべりをしている暇はない。皆で一斉にかかれ!」

「「「承知!」」」


 魔王にムシュマッヘたちが集団で容赦なく襲いかかる。


 そして、魔王はというと…


 その実力は口ほどにもなかった。


 ムシュマッヘと1対1であれば、まだ様になったかもしれない。

 しかし、11体1では全く勝負にならなかった。


 魔王はムシュマッヘたちにたこ殴りにされ、もはや虫の息である。


「こ、殺さないで…くれ…」

「私の従魔になるのであれば、殺さないでおいてやろう。そして直ちに魔王軍を撤退させるのだ」


「わ、わかった」


 魔王を殺してしまっては、魔王軍はただの無秩序な集団となり、かえって扱いにくくなる恐れがある。

 ラパンツィスキ様は、魔王を従魔にすることで、秩序だった撤退ができると踏んだのだった。


 そして魔王軍は、帝国から、次にホラント王国から速やかに撤退していったのだった。


    ◆


 出征してから、きっかり1週間後。

 ラパンツィスキ様はひょっこりと戻ってきた。


 やはりというか…実はこんなこともあろうかと思ってはいた。


「いちおう聞くけど、本物のアマンドゥス…なのよね?」

「もちろんそうですよ。それ以外の何かに見えますか?」


「魔王は…どうなったのですか?」

「懲らしめてやったうえで私の従魔にしました。その方が秩序だった撤退ができると思ったので…」


 はあ? ティアマトのみならず、魔王を従魔に!?

 この人は世界征服でもするつもりなのか…


 呆れながらも、それを聞いて安心した私は、ラパンツィスキ様に抱きつくと胸に顔を埋め、ラパンツィスキ様成分を心ゆくまで補充した。


 その夜。

 やはりラパンツィスキ様は、いつもどおりお湯張りに来てくれ、マッサージもしてくれた。


 だが、彼には怒られてしまった。


「イレーネ様。また体が凝り固まっていますよ。ちゃんとヨガやストレッチをして、規則正しい生活をしていましたか?」

「やってはいたけれど、アマンドゥスに誘導されてやるのと、自分一人でやるのでは効果がぜんぜん違うのよぅ」


「もう。仕方ないですね…」


 その日のマッサージは強めで、いつもより余計に声を上げてしまう。

 そしてやはりというか、彼には「お仕置き」をされてしまったのだった。


    ◆


 翌日。

 ラパンツィスキ様はお父様に復命した。

 が、魔王は討伐したということにしたらしい。


 従魔にしたなどと知れたら、ラパンツィスキ様は魔王以上の恐ろしい存在ということになり、世間が動揺することを避けたのだ。


 皇都では、英雄がまたやってくれたということで、お祭り騒ぎになった。


 一方で、ビンデバルト大公が強引に押し込んだ勇者たちは行方不明になっており、大公の体面は大きく傷ついた。


 帝国臣民の間では、私とラパンツィスキ様が結婚して、彼が帝位につくべきという議論が再燃することとなった。

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