第16話 皇位継承問題
ラパンツィスキ様は、私の前では戦況のことを一切語らなかった。自慢話になると思ったのだろうか?
後で漏れ聞こえたところによると、ラパンツィスキ様は大活躍だったらしい。
出征後、直ちに転移魔法で単身戦場へ向かうと、ティアマトという途轍もなく高位の従魔とその配下である11の怪物からなる武装集団を召喚し、ホラント王国軍を襲わせた。
ホラント王国軍は、その強大な力に恐怖した。
特にティアマトは
この世界では、雷は神の怒りの鉄槌であると考えられており、ホラント王国軍の者たちは、神が怒りのあまり神獣を使わせたのだと解釈したのだ。
ホラント王国軍は恐れおののいて占領地を直ちに放棄し、蜘蛛の子を散らすように一目散にホラント王国へと逃げ帰った。
そのわずか1時間足らずの時間で戦況が大逆転し、戦争は帝国軍の大勝利で幕を閉じた。
ラパンツィスキ様は、その功績が認められて、一代貴族の伯爵に叙せられることとなった。
お父様は永代貴族にしたかったらしいが、むやみに永代貴族を増やすべきではないという高位貴族たちの反対にあい、それは断念したようだ。
裏では、様々な政治的駆け引きがあったという。
「なぜ戦功のことを私に黙っていたの?」
「殺伐とした戦争の話など、姫様にする話ではありませんから。でも、今更ですから一つだけイレーネ様に打ち明けておきましょう」
「何?」
「実はマーレの本性はティアマトで、私の従魔なのです」
私は混乱した。
「えっ! どこからどう見ても人間だけど?」
「亜神クラス以上の極高位の従魔は人型をとることができるんですよ」
「そ、そうなのね…」
そうか…
安心してホッとしたが、一方で完全には納得できない自分もいた。
だって、あんな完璧な人型でベタベタされたら、嫉妬もしてしまうじゃない!
◆
帝国は、戦争には勝利したが、皇太子の死という大きな代償を払ってしまった。
当然に、新たな皇位継承者を誰にするかという問題が生じた。
この問題を巡って帝国は3つの派閥に割れた。
一つ目は、次男で私の兄のオトマルを推す一派だ。
しかし、オトマルは宗教かぶれで、それが高じて聖界入りし、今はとある司教区の司教の地位にあった。
彼を皇太子にするには、還俗させる必要があるが、そもそも本人は政治に全く無関心で、還俗を拒否しているという大問題があった。
二つ目は、私を女帝に推す一派だ。
だが、この世界では男尊女卑の考え方が主流で、女帝を忌避する者も多かった。
帝国の歴史上は、女帝も何人かはいるのだが、どれもが次代の男性皇帝までの臨時の中継ぎというパターンだった。
それに私自身が女帝になろうなどという野心は持ち合わせていない。
三つ目は、先帝の弟の孫、すなわち私の鳩子のピエールを推す一派だ。
だが、如何せんピエールはまだ幼少であり、仮に皇帝となった際は
ピエールの父のビンデバルト大公は、政治的野心から自らが摂政となることを狙っており、一番精力的に活動しているのがこの一派だった。
そんな派閥争いを意に介さず、帝国臣民の間では、戦況を大逆転させ、帝国を危機から救ったラパンツィスキ様を英雄ともてはやした。
帝国の臣民たちは、ラパンツィスキ様が私と結婚し、帝位に就くことを期待していた。
だが、貴族の常識的に、これはあり得ない話だった。
伯爵クラスであれば、皇室の者と婚姻を結ぶことも前例がないではなかった。ただ、一代貴族となると話は別である。
身分的に婚姻はあり得ないというのが、貴族たちの一致した見解だった。
ラパンツィスキ様が永代貴族になれなかったのも、ビンデバルト大公が裏で工作していたことが大きかったようだ。
私としては、帝位
ラパンツィスキ様が永代貴族となれず、結婚の芽が潰れてしまったことが、ただただ残念で仕方がなかった。
ラパンツィスキ様本人はどうかといえば、そんな政治的な駆け引きには全く
彼がもし野心家ならば、帝国臣民を扇動し、革命でも起こしていたかもしれない。実際のところ、彼の実力があれば、それもあながち絵空事ではないように思えたのだ。
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