第17話:必殺

 死神、死神と言われているけれど、退治屋『タナベ』の本領は回復術。

 『三刻』『二藤』『一薙』を召喚して私一人で行う召喚術はもちろんのこと、隼翔、鈴音、彰隆がいることで使える最大術も回復術なのだ。

「で、なにをどうする気だ?」

 吾良千輝が私に問いかける。

「まずは回復術で周囲の人を助けます。そして喰らった分のダメージをそっくりそのまま相手に返します」

軽くストレッチをしながら答える。

巨大猫は余裕の表れなのか、一歩も動かずただ私たちのほうを見ながら笑うだけ。なんか嫌な感じ。

 それがなんだか気に障る。

「相手に返すって、それもまた返されるにきまってるわ!」

 才波真姫ちゃんが異論を唱える。

「大丈夫。跳ね返された場合は消えるから」

「そもそもアレに攻撃が通るのか?」

「いやだなあ、吾良様。見てください、あいつ。かすり傷を負っているじゃないですか。まったく攻撃がきかないわけではないんですよ」

「……つまり、地道に倒していくと」

「はい。不幸にも攻撃を受けた人はたくさんいますから」

 質問は終わりかな。

 こっちも体が温まったし、そろそろ動くか。

「隼翔、鈴音、彰隆。準備は?」

「ばっちりです、莉子様」

「いつでも行けますわ、莉子様」

「ご随意に」

 三人の返答を受け、呪文を唱える。

 九体の精霊を召喚し、三人の従者に力を与える呪文を。

「契約者莉子の名のもとに、親愛と混沌、破滅と癒し、定めと未来の約定を。『一薙』『二藤』『三刻』『四津森』『五釘原』『六揚羽』『七霞』『八耀』『九仙』、以って、天を地に、血を天に、全てに根差す風となれ」

 倒れ伏している人たちの傷が癒え、痛みや辛さや苦しみが不可視の波となり私にのしかかる。

 この波を私は、三人へと分散する。

 三人は波を、攻撃の糧へと変える。

「退治屋『タナベ』、一の子分、黒薙隼翔。主に降りかかるすべての痛みを敵へと返す!」

 隼翔が高威力の雷撃を放ち、

「同じく一の子分、白藤鈴音。主に降りかかるすべての辛さを敵へと返す!」

 鈴音が地面に触れて地割れを起こし、

「さ、三の子分、戸來彰隆。主に降りかかるすべての苦しみを敵へと返す!」

 最後、彰隆が出現させた刀で直接的へと切りかかる。

 大型猫は前二人の攻撃を見てニタリと笑い、攻撃を跳ね返そうと再び雄たけびを上げる。

グモォオォォォオオオオオ

 だが、跳ね返らない。

 攻撃は跳ね返ることなく掻き消え、残ったのは雄たけびを上げたポーズのまま動きを止める大型猫と、刀で直接切りかかりに行った彰隆だけ。

 彰隆が刀を振り下ろすも、大型猫の表面は固いらしく刃がぽきりと折れた。

「彰隆、撤退!」

 短い文章で彰隆に指示を出し、その場を退かせる。

「すみません、力不足で」

 戻ってきた彰隆が頭を下げる。

「気にする必要はない。けが人はまだたくさんいるからね」

 このあたりに倒れ伏している人たちの生気が戻ってきたことを確認し、少し離れたところにいる人たちのもとへと走る。

 そこでもやることは同じ。

 私が精霊召喚してけがを治し、治した分のダメージを今度はこちらの攻撃に利用する。私は怪我を引き受けて治すだけで、攻撃はできない。ただひたすらにダメージを肩代わりするんだ。

 そして、肩代わりしたダメージが私自身に傷として表面化する前に、従者三人に受け渡す。

 従者三人はその力で妖怪に攻撃する。

「今のは効いたのでは!」

 三か所ほど回ったあたりで、鈴音が喜びの声を上げた。

 確かに今、大型猫がよろめいた。

「よし、この調子で頑張ろう!」

 声をかけ、四か所目へと向かう。けが人が多く出たのが運の付きだ。私の術はけが人が多ければ多いほど完成する。

 五か所目行っては治癒と攻撃を繰り返し、六か所目でも治癒と攻撃を繰り返し、七か所目でも同じで、私はひたすらにけが人のもとへと走り回っていた。

 跳ね返せないと気づいた大型猫が追ってくるが、かえって好都合。

 敵を引き連れ、倒れている人を治癒し、仲間が攻撃する。

「アハ、アハハハハ、アハハハハ」

 めったに使えない必殺技をこうも連発していることがなんだか楽しくて、気が付けば笑いながら走っていた。

 大型猫の跳ね返しは予想以上に広範囲にわたっており、裏山のふもとまでけが人を治癒して回ることとなる。

 結果、どれだけ走り回ったかはわからないけれど、コツコツと積み上げたものが功を奏して大型猫を倒しきるに至った。

 大型猫が消え去るのを見届けた私は、

「ダメ、もう走れない」

 筋肉痛による疲労でその場に倒れ伏し、遅れてやってきた吾良千輝におんぶで連れ帰ってもらうこととなる。

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