Vtuberがエロゲ実況してたら…天使が降りてきました

@Simon_hituzikagi

第1話 分かっていたけど…仕事です

「…また、神の怒りに触れてしまったぁあああああ」


羊鍵シモンは、目の間の光景に思わず実況の様に叫ぶ。


小さな実況部屋の中で、轟音を響かせる竜巻。マイクがスタンドから外れて釣りか何かの道具の様に、天井に向かって泳いでいる。あぁ、心配は不要であり、大丈夫な事は知っている。一度は経験した事だから。けれども、苦労して手に入れた『ゴッパー』を見つめてしまう。頼むから、無事でいてくれとシモンは天井を仰いだ。


そろそろ、だろう。


「…話をしに来たよ」


シルクタッチとでも呼ぶのだろうか、優しい動作でマイクが握られる。わざわざ、こんな嗜好を凝らして、降りてくるのは彼女しかいないとシモンは首を振る。


「ありがとう。マイクを壊さないでくれて、けど…」

「ああ、どういたしまして」


身体のラインが分かる程に仕立てられた黒いシャツ。少し大げさに開かれた胸元、そして、ぶら下げられたクロス。ふわふわと空気を感じる黒髪ボブヘアーに、見開かれた少したれ目の大きな瞳。ニヒルと言うには可愛げがあり過ぎる笑顔を浮かべた女性は、それはそれは嬉しそうに空中を浮遊していた。


「けど…やれやれとは言わせてくれるよね」

「そうだね。わたしは、もう少し後に来ても良いのだから…」

「君は、けれども、ボクのもとに来たのだね」

「わたしは、シモン君にたくさん働いてもらって推薦がしたいからね」

「み、御座にですか…」

「傲慢(ごうまん)だと思うかね。シモン君、ねぇ…シモン君」


お気に入りのジーンズなのだろう。前回、あった時と同じジーンズを彼女は履いてきていた。太ももサイドの濃い色と薄くなった前面が、脚を更に細く見せている。


「…ょしょく。だとも思いますけど」

「よく聞こえないなぁ。言い直しておくれよ」

「きょしょく。虚飾(きょしょく)ですよ。御使い…よ」


かぁと顔を赤くした彼女は、ドスンと地面に着地した。尻もちをつく事もなく。子供が高く高度を保っていたオモチャが、物理法則や着地の姿勢を考慮せずに、地面に押し付けられた時に似ているとシモンは小動物の様に鳴いた。笑っている事が伝わらないと良いのだが。


「は、恥ずかしい事、言わないで」


彼女は一歩前に足を踏み出した。カツっと軽い音がする。「わたしは重たくありません」と示そうとする意図を感じ取って、シモンは思わず吹き出した。


「もうっ…」


右手に強めに握られたスクロールが付きだされる。普通に生活をしていたら、お目にかかる事の無い羊皮紙だ。手が開かれる。ゆっくりと、まるで羽の様にスクロールは落下してシモンが慌てて出した両手に収まった。


パチンッ


指を鳴らす音が必要以上に部屋に響いた。一瞬、照明が落ちて部屋が暗くなる。ピッと情けない音がしてLEDの光源が再び部屋に明かりを与えた時には、彼女の姿は無かった。


―インキュベーター業務への復帰願い―


スクロールに目を通したシモンは、ため息をついた。

隅々までを熟読して、サインする。

また、この件を観測してくれる人の為に、記録を残さなければならない。


………

……


いわゆる一周目が終わると御使いが担当となり、御意思を伝えてに来ることがある。その時に、名前で呼ぶ事はマナー違反だと思っている。彼女は、ボクが迂闊にも名前を呼んでしまった事によって、彼女に成ってしまった。


けれども、安心をしてもらいたい。アブラハムの宗教と言えば分かり易いと思う。いわゆる、ヤハウェの神を信仰できていない人に現れる事はごくまれだ。煽っている様に聞こえてしまったら、申し訳ない。信仰心が無い人には、見える事はほぼない事を伝えておきたい。


そして、読んでくれたあなた様には、伝えておこう。

彼女の名前は、「ベルアル」だと思う。君が目撃した時は、「ルシフェル」か「ルシファー」と呼んだ方が良い。


本当は、神々しい独身男性として現れるはずの御使いは、今はボブヘアーが可愛い意識高めの女の子に成ってしまった。これは、日常的に罪を犯すボクが犯した大き目の罪だ。償うには、自分に犯される罪を許していくしかない。


これを読んでくれた あなた様 にも手伝ってもらう為に、ここに記す。


羊鍵シモン

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