久しぶりに会った友達の変わりように驚くけど、変わらなさに安堵もする。

 出不精の俺が、珍しく外出していた。

 場所は駅前にある居酒屋の前。そこで会社員時代の後輩、陰山を待っていた。そして上司にして飲み仲間の花寺も一緒だ。


「よお、久しぶりだな。待ったか?」

「お疲れ様です。虹村先輩。」


 ベージュのスーツ姿の花寺と、冬だというのに背広を脱いでワイシャツ姿になった陰山がやってくる。会社のほうでもデスマーチが一段落したので飲みに行こうという話になったのだ。

 ちなみに今回は、自分の分は自分で出す形式だ。


 花寺曰く「次おごったら、マジで破産する」らしい。

 たしかに陰山は遠慮知らずに飲むため分からなくもないが、果たしてそこまでだろうか。


「おいおい、俺はもうあの会社の人間じゃないんだから、先輩なんて呼ぶなよ」

「いやー。先輩は先輩ですよ。」

「お前、私のことは花寺って呼ぶよな?私、部長補佐なんだけどな。」

「あれ、前は主任って呼んでなかったか?」


 陰山と花寺は掃きだめ部署に飛ばされる前、同じ課にいたはずだ、当時花寺は主任という名ばかりの管理職にいて、陰山を指導する立場だった。

 そういった経緯もあって、互いに軽口を言えるほど仲がいいのだろう。


 居酒屋に入ると、陰山はさっそく度数の高いアルコールを注文し始める。ファーストオーダーで強いお酒を注文したせいで、注文を受けていた店員も驚いていた。

 まぁ、せっかくの席だから好きなものを飲めばいいとは思うが。


「そういえば、鞍井がクビになったの知ってますか?」

「いや、知るわけないだろう。ってか、言ってもいいことなのか?」


 俺が退職するきっかけとなったあの男は、派遣の女の子と取引先の女性と二股をしたらしい。鞍井は取引先の女性を優先して、会社も派遣契約を打ち切ったが、不当であると訴えられたことが原因で、やめさせざるを得なかったとか。


「専務も、USBの一件もあって庇いきれなかったみたいで。今なら、戻れると思いますよ。」

「いーや戻る気はねぇ。今の生活のほうが楽しいんだ。」


 悠がそばにいてくれる。白鯨と仕事ができる。他人の事情にかまわず合理を優先できる。フリーエンジニアは俺にとって天職であった。

 そのことを教えてくれた二人には感謝しなくてはならない。


「まぁ、俺もそろそろ辞めますしね。実家の都合で。」

「そうなのか?ネットワークエンジニアとして優秀だったんだけどなぁ。」


 彼以上に環境構築に優れた人物はなかなかいないだろう。それを失うのは業界最大の痛手といっても過言ではない。


「陰山も実はボンボンだったんだよ。どっかの会社の御曹司様だと。」

「そんな大した会社じゃないですけどね。」


 陰山が言うには、優れたエンジニアの需要が高まったこと、許嫁との正式な結婚が決まったこと、陰山自身のスキルアップができたことなどを含めて実家に引き戻されることになったらしい。


「正確には父の会社ではなく、許嫁の会社に再就職するんです。」

「アニメの世界かよ……。」


 許嫁が年下であること以外何も聞かされていないらしく不安だと語っていた。その不安感のせいで酒の進みが早いのだと言い訳していたが、絶対に違うと思う。


……to be continued

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