可愛い娘のギャップ萌えほどときめくものはない。……かもしれない?

 ポン、という軽快な音と共に、スマホが震える。ラインの通知音で、送り主は、姫蘭だ。


『はるちゃん、明日暇?』

『冬服買いに行こ!!』


 猫のスタンプとと共に送られてきたメッセージを見て頬が緩む。リビングでスマホを見ている量さんに声を掛けると、財布から一万円を寄越して送り出してくれてた。おもわず、受け取れないと断ったが、「いいから。楽しく遊んで来い。」と押し付けられてしまう。


「ありがとうございます。」

「おお、きにすんな。」


 貰ったお金を財布に入れて、『行けるよ!!』とメッセージを返す。5秒としないうちに変身が帰ってきて慌ててしまう。どれだけ慣れているんだ…。


『中学の時の友達呼びたいんだけどいい?』

『もちろんいいよー。』


 姫蘭の友達ということは、その娘も元気な人なのだろうか。と考えながら夕食の準備を始める。量さんが向けてくる視線がなぜか生暖かいものだったが、あえて気付かないふりをした。


 そろそろ寝ようかという頃に、同じ通信制高校に通う光からもメッセージが届いていることに気づいた。内容は、明日の休みに遊びに行こうというものだったが、あいにく、姫蘭との先約がある。

 後ろ髪惹かれながらも、断りの連絡を入れると、『じゃ、また今度だねー。』と返ってきた。

 あまり気にしてないようで助かった。


 次の日、快晴というにふさわしく、九月も後半にも関わらず少し暑いぐらいだ。

 量さんの部屋を覗いてみると、ゲームのコントローラー片手に不自然な体勢で眠っている。きっと機能も夜遅くまで遊んでいたのだろう。起こすのも忍びないので、軽い朝食を作って冷蔵庫にしまっておいた。


 そのうち勝手に食べるだろう。


 待ち合わせ場所の駅に向かうと、なぜか光がいた。


「光ちゃん?」

「あれ、悠ちゃんじゃん。ああ、友達と遊ぶって言ってたね。」

「うん。偶然だね。光ちゃんもだよね。」


 なぜか妙にかみ合ってしまうという偶然に嫌な予感がする。


「そっちの友達ってさ、寝坊で遅れるって連絡来てる?」

「ちょっと待って。……うん、来てるね。」


 ラインを確認してみると、2分前にメッセージが来ており、内容は光と同じ。


「姫蘭って娘知ってる?」

「うん、今日遊ぶ予定だった娘。」

「……私さ、姫蘭と同じ中学なんだけど、同中の友達呼ぶって話聞いてる?」


 私が黙ってうなづくと、小さくため息をついた後笑い出した。それにつられて頬を緩めると、渦中の姫蘭が走って私たちの下へとやってくる。


「ごめーん遅くなった―!!」

「いいけど、マック奢りね。」

「ええー。まぁ、お兄ちゃんからお小遣い貰ってきたからいいけどさー。」


「白鯨さん?」

「そうそう。あれ、お兄と知り合いだっけ。ってああ、そっか…。」

「ん?そういえば二人ってどこで知り合ったの?」


 そういえば、光には私の事情を説明してなかった。量さんは、世間体が良くないから不用意に漏らさないようにしているようだが、二人は大切な友達だ。隠す必要もない。

 生々しい部分は避けて、軽く説明すると、二人して苦い顔をする。


「はるちゃん、苦労してたんだね…。」

「悠ちゃん、今日は楽しもうね!!」


「お姉ちゃんが、何でも買ってあげるからねぇー。」

「お兄さんから奪ったお金で?」

「奪ってないもん。貰ったんだもん!!」


 光の軽口に対してプリプリと怒り出す。そんな二人の様子を見ていると、本当に仲がいいのだと感じた。思わず笑っていると、姫蘭が「なんで笑うの―!!」とほほを膨らませた。


「ってか、それより行こうよ。」

「あ、そだねー。」


 光の一言を起点に、私たちは駅から離れて街の中心にあるショッピングモールに向かう。量さんときているときならば、まっすぐに食料品コーナーに行くところだが、今日は目的が違う。だらだらと当てもなく歩き回って、展示されているぬいぐるみを眺めながら、意味もないおしゃべりを楽しむ。


 いや、意味ならある。それに、意味がなかったとしても、それは悪いことじゃない。


「でさ、はるちゃんはどう思う?」

「あ、ごめん。聞いてなかった。」

「あはは、姫蘭は話が長いからだよ。」


「えー。ちゃんと聞いててよー。」と口をとがらせる姫蘭はとてもかわいくて、なんだか妹みたいだなんて考えていた。いや、実際に妹ではあるな。私のじゃないけど。


「こっちのフリフリ、可愛くない?」

「姫蘭ってホントそういう服好きだよね。」

「だってーお兄ちゃんが可愛いて言ってくれるんだもん。」

「でた、ブラコン。」


 ツインテールで器用に顔を隠すが、その頬は赤く染まっている。

 そもそも、別にフリルの付いた服でなくても、彼女のお兄さんは褒めてくれるような気もするが…。そう思って、あえてシックな服を試着するように勧めてみる。


「ええー。めっちゃ黒いじゃん。うわ、ウエストほそーい。」

「姫蘭ちゃんなら、着こなせると思うよ。髪下ろしてみたら?」

「でも、そのツインテ自分で出来ないんだよね?解いて大丈夫なの?」


 ヘアゴムを外してから、「やっちゃった……」というような顔をする。まぁ、普通のツインテールだったら、私達で結べるだろう。なんなら、少し遊んでみてもいい。


「ど、どうかな?」


 仄暗い色のハイネックニットに、ひざ下まであるロングスカート。見慣れたツインテールを下ろした姿は新鮮で、恥ずかしさで目元が下がっていることもあって深窓の令嬢といった印象だ。


「おお。めっちゃ美人じゃん!!」

「そ、そうかなぁ?」

「うん、とってもかわいいと思うよ!!」


 照れた笑みを浮かべながら、「お兄ちゃんに写真送りたいから撮って」とせがむ彼女は、まるで別人のようだ。モデルのようにポージングを取りながら何枚か撮ってあげると、すぐに送ったようだ。


「んー。多分寝てるよね。じゃ、これ買って行っていこー。」

「え、冬服を買いに来たんじゃないの?」


 完全に本来の目的を忘れていた。だが、その前にお昼を告げる店内放送が流れている。混雑する前に宙欲にしておいた方が良いだろう。


「あ、姫蘭マック奢りの事忘れてないよな?」

「ええー。あれ本気なのー?」


……to be continued

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