後日談

秘密暴露大会

「で、どうなったの?」


「……付き合うことになった」


「「「キャー!おめでとうー!」」」


 彼女と付き合ったことを報告すると、友人達は素直に祝福してくれた。女同士という点にツッコミを入れるのは外野だけで、友人達はそれに対して「別に良いじゃん」とか「外野はすっこんでろ」とか、強めに言い返してくれる。

 思えば、彼女達は素の私に少し似ている。強気で、生意気で、大人しくない。

 育実は言っていた。男の言う『大人しくて可愛い女の子』は『俺に逆らわない従順で都合の良い女』と同義語だと。全ての人がそう思っているわけではないと思うが、この国は男尊女卑だ。無意識に女性を下に見ている男性が多い。

 女子に意地悪していた同級生の男子に注意した時に『女のくせに生意気』と言われたことを思い出す。あれは確か、小学生低学年の頃だった。

 口論になり、仲介に入った先生はへらへら笑いながら言った。『男の子は好きな子に意地悪したくなる生き物なんだよ。だから許してあげな』と。

 あの先生だけじゃない。そうやって加害者である男子をからかって終わりにする大人は少なくなかった。流石に今はそんな大人減っていると思うが。


「どうしたの?桃花ちゃん」


「……みんなは言われたことない?『大人しくしていれば可愛いのに』って」


「あー。ちょっと違うけど『女の子なんだからお淑やかにしなさい』とは言われたことある」


「分かる。あたしも『女の子なんだから』って散々言われてきたよ。女らしさとか男らしさとか、今時古いっつーの」


「分かる」


 彼女達ならきっと、素の私でも受け入れてくれる。いや、むしろ素でいたい。自分を演じるのはもう疲れた。


「……私ね、ずっとみんなに嘘ついてるんだ」


 私は勇気を出して、友人達に全てを話した。ずっと猫をかぶっていたことと、そうなった経緯を。洗いざらい全て。

 すると、彼女達は口を揃えて「その男クソだな」と、私が好きだった彼のことを叩き始めた。


「顔しか見てないじゃん」


「でも桃花ちゃん可愛いからなぁ。そういう変な奴寄ってきやすそう」


「可愛いもんね」


「……実は、可愛いって言われるのもあんまり好きじゃない」


「あー。そうなんだ。けど、うちらは別に顔だけ見て言ってるわけじゃないよ」


「そうそう。素の桃花ちゃんがどんな感じか知らないけどね」


「……育実達とそんな変わんないと思う」


「ヤンキーってこと?」


「何それ、ギャップ萌えじゃん」


「中学生の頃のあだ名は番長だった」


「なんか想像出来ないわ」とケラケラ笑う三人。それもそうだ。彼女達にとっては猫をかぶっている私の方が見慣れているのだから。


「てかさ、誰だって人前で猫かぶってるっしょ。最初から素を曝け出してる人なんかいないよ。みんな秘密の一つや二つ抱えてるもんだよ」


「ひまりの秘密って?」


 雪と秋穂がひまりを見る。ひまりは苦笑いしながら、周りには聞こえないように声を潜めて「実はレズビアンです」とカミングアウトした。


「へー」


「なんかそんな気がした」


 薄い反応をする秋穂と雪。私もなんとなくそんな気はしていた。


「そういう、うっすい反応が一番ありがたいわ」


「ひまりが言ったんじゃん。『女同士だからとか、今はもうそんなん古い』って」


「そうそう。で?恋人は居るの?」


「募集中でーす。はい、次は秋穂と雪の番だよ」


「「えー?うちらも?」」


「あたしらだけ不公平じゃん。ね?桃花ちゃん」


「別に、どうしても言えないなら言わなくて良いと思う」


「言いますよー。たいした秘密ないし」


「待った。最後はやだ。どっちが先に言うかじゃんけんしよ」


 二人でじゃんけんをして、先に勝ったのは秋穂。


「実は私、彼氏が居るって言ってたんですけど、見栄張って嘘ついてました。彼氏なんて居ません」


「「「知ってた」」」


「うそぉ!?」


 彼氏の写真を見せてと言っても何かと理由をつけて見せてくれなかったし、たまに自分で考えた彼氏の設定を忘れていたし、バレバレだった。名前もよく間違えていたし。秋穂とひまりも、私も、空気を読んで敢えて突っ込まなかっただけだ。


「やだぁ……恥ずかし……」


「別のなんかないの?」


「えっと……実は体力測定の時、握力だけ力抜いて20前後に収まるようにしてる。本気で測ると40超える」


「ゴリラかよ」


「そう言われるからサバ読んでるんだよ!」


「大丈夫。握力は私もサバ読んでる。本当はその気になればリンゴ握り潰せるくらいある」


「サラッと凄いカミングアウトしたよこの子」


「リンゴ握り潰せるっていくつよ」


「7〜80くらいかな」


「怖っ!」


「ゴリラとか言ってごめんね秋穂。秋穂はまだチンパンジーだったね」


「人間ですけど」


「私もギリ人間だと思う」


「ギリって」


 思った以上に和やかな空気だ。多分、冗談だと思われているかもしれないが。


「はい、最後は雪ね」


「あーん……流れで忘れられると思ったのに」


「言える範囲の秘密で良いから」


「んー……じゃあ……。私、アロマンティックっぽいんだよねぇ……」


「「「アロマンティック?」」」


 初めて聞く単語だ。


「あー……ひまりも知らんか……。簡単に言うと、恋愛に対して興味を持てない人のこと。人の恋愛の話聞くのは好きなんだけど、自分にフラれるのはちょっとしんどい。将来は結婚せずに気の合う独身友達とシェアハウスしたい」


「いいじゃんそれ」


「恋愛は義務じゃないしね。したくないならしなくて良いんじゃね。てか、無理してするもんじゃないし」


「うん。無理して彼氏作ると辛いよ」


「あー。そういや桃花ちゃん彼氏いたことあったね」


「うん……でも……素を出したら幻滅されるのかなって考えたら、結局好きになれなくて」


「良かったね。素の自分を受け入れてくれる人に出会えて」


「……うん」


 みんなとも出会えて良かった。そう伝えると彼女達は照れ臭そうに笑った。

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