第53話ロッツの街4

さて、今更ではあるが今アエリアが居るこのグランツェスト国にも国民を支配している、支配階級というものがある。


それはおおむねアエリアの大陸にある階級と同じだったことから、少しばかり不思議な気はしたものだが人が人を治め支配する以上必要なものなのかもしれない


誰もが平等な世界などありはしないのだから


さて、話は戻る


アエリア達が見つけたエルフ、それはアエリアの精霊の力なしには見つからなかった者も多い


霊鳥ユーリの過去を見通す力


それで確実に見つけて行っただけの事であるが


「最後の一人が見つからんな‥‥確かに攫われている所はユーリで確認出来ている」


「そう、だね。でも道中、消えるように居なくなっている」


映像を確認しつつ、確かめているが足取りがつかめない


最後の10人目


本当に映像の中で消えているのが確認できるのだ


「攫われたわけではないのかもしれんな」


「それはどういう?」


「いやなに、エルフというのは何百年も国に籠っていたのだろう?であれば、外の世界を見て回りたいエルフがいてもおかしくないと思ってな」


「はぁ?そんな気力のあるエルフってそういないですけど」


「そうか?我が国のエルフ、それはもう大陸中に散らばっていたがな。そして各個が強力な精霊魔法を使いこなしていたと記憶している」


「それはこの間話したじゃないですか。もともとこの国にいた強力な精霊魔法使い、それと多くの人間が逃げ出すように転移したのではという説です。そこからエルフも世代交代するほどの年月が経って、各地に散らばりそして種としての存続すら危うくなったと」


「だが、君の様なハーフエルフは居ないぞ」


「だからこそです。純潔を重んじたエルフばかりだったのでしょうね」


いつもの様に議論が始まってしまい、ああしまったとアエリアは思う

この話になるとメイフルは少し熱が入ったように話し出すからだ


そして話が長すぎる


「話を元に戻すぞ、つまり消えたエルフというのはだ、強力な精霊魔法が使え、そして外を見て回っている。だからこそ私たちが見つけられないというわけだ」


「それ、結論にしようとしてませんか?それでもう捜索を終わりにしようと」


「うん、そうだよ」


「それはダメです。それならそれでそのエルフの居場所は把握しておきたい」


「どうしてもか?」


「ええ、どうしてもです」


「はぁ…であれば次の段階に進んで捜索するとしよう」


「次の段階ですか?」


アエリアには策と呼べるかもわからないが思うところがある


「この国、奴隷が多すぎないか?」


「え?」


それはメイフルにとって当たり前の事だった

奴隷が多い、それはこの国の支配階級が長年にわたってきちんと法まで整備している

そして戦争があり、敗戦国の人間を奴隷として使う文化が根付いているのだ


だから多すぎると言われてもピンとこない


そしてそれをアエリアに言うと


「メイフル、君はこの国で戦争が起きているのは日常茶飯事だと言った。そしてこのロッツの街もその復興によって大きくなったと。30年前の事だと」


「そうですね」


「それだけの年月があれば人は増える。奴隷でもだ。そして奴隷から生まれた子まで奴隷と聞いている…それは許されない事なんだよ」



アリエッタだった時代、彼女には奴隷の友人が居た


産まれながらにして奴隷、人として扱われなかった彼、彼女達


それを疑問に思うことなく人は文明を築いた


その結果がこの大陸の今だ


アリエッタは居場所を求めた。奴隷の開放を求めた



だからこそ、アエリアである今も


「私は奴隷を開放する。その為の戦いをしようと思う」


再び今この大陸で起こっている戦乱の火を、大きな炎としてすべてを焼き尽くさんとして動こうとしているのだ


「まぁ、全てを掌握すれば行方不明のエルフが見つかると思う」


「なんと…力技な‥もしそれが出来たとして、何年かかると思っているのですか」


「さぁ?しかしそうだね、我が大陸の、そう、娘たちがこの国に来るまでには何とかしておきたいと思うよ」


「娘!?あ、アエリアさん娘いるんですか?」


「居るよ?今は12歳か…いや、13歳になったかもしれないな。それと三つ子の男子もいるぞ」


「えええ…人間にしては、若いですよね?アエリアさん」


「いいや?聞いていなかったのか?私はもう30を超えているよ」


「30…え?マトラさんとかよりも」


「年上だ。なんならあのナターシャなんて言ったら怒るが50だぞ」


それの方が信じられないと、メイフルは目を白黒させたのだった







冒頭にもあったように、このグランチェストの国の支配階級-


貴族、男爵であるトリギュラ・セルフィスと言う男が居た


ロッツの街を治める男爵で、武功によって成されたその立場は彼の誇りでもある


そして、このロッツの街に奴隷が少ない理由もまた彼である

アエリアと同じように奴隷の友人が、彼には居た


そして、その彼女の遺言…それによりこの街の奴隷と言うものは比較的きちんと管理されている


「シス、ようやくこの街が…皆に認められて来たところだったんだ」

しかし、彼の想いとは裏腹に


「トリギュラ様…ガンデの領主、アールギィ伯爵からの宣戦布告…どうされるおつもりで」


そう、その奴隷制度の改革によりこの街は治安が良い、さらには他の領地からの移り住んできた…正確には逃げてきた奴隷でも市民として受け入れてきた


それが、アールギィ伯爵の怒りを買った


この街に逃げ込めば助かるとの噂を信じて来たものの中に、彼が反逆者として指名手配していた者が居た

そして、トリギュラはその者を見つけたが、死んだとして身柄を引き渡す事はなかった


「偽装した死体が見破られたのが痛かったな」


「ええ、完璧だと思っていましたが、どうやらあちらには真贋の眼を、魔眼もちが居たようですね」


「戦うよ、私は。戦力差が大きいだろうが…」


「はい、アールギィ伯爵の私兵はおよそ20万人は居るでしょう」


「対して、こちらは5万か‥‥」


それは絶望にも似た数値の差だ。おそらくこの街は滅ぶ


トリギュラが、どうあがこうがそれはもう逃れられない定めと言えた





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