第47話大陸歴14年・・・

「アエリア、向こうでは気を付けろよ」


ランスロットは長く伸びた髭を剃り落として正装をしている


アエリアもまた、それなりの戦闘が出来る格好をしているし、なによりその横にいるナターシャは既に戦闘態勢に入っているのでは無いのだろうか?

なにせ、聖剣魔法を発動しているのだから


「ねえ、もういいかしら?早く行きたいのよ…マトラちゃんとラライラちゃん…早く助けなきゃ…」


「そうですね…あまり無茶はなさらないようにして下さいよ、お母さん」


ランスロットは心配そうにそう言った。

なにせナターシャはもう年齢的にも……かなりいっているからだ


「ええ、あなたも。マリアとエリーシュちゃんを頼むわ。ライの根性もだいぶ良くなってるけど、まだまだだし」


ランスロットは頷いて、アエリアの方を向くと言った


「アエリアが居なくなったことは数年ならば隠せる。かならず帰ってこい」


「わかってる。私が居ない間は…」


「まかせて、お母さん!弟たちの面倒は私が見るから!」


アルネリアが元気よくそう言った

最近では武芸だけでなく、本なども良く読むようになっていて、弟たちの面倒もよく見るようになっていた


「ふふ、アルネリアはしっかりしたな」


「お母さんがしっかりしてないからだよ…向こう行ったらマトラ姉さんとラライラ姉ちゃんによろしくね!そうだ!あと、お土産忘れないでね!」


「ああ、任せろ。珍しい物があれば持って帰るよ。では、行ってくる」


アエリアはそう言って足元の魔法陣を見やると


「あ、まってお母さん!そこ、魔法陣が欠けてる!」


「な・・・・・」


しかし足元の魔法陣が輝き始める

そして直ぐに、二人の姿は消えた







目の前に見えるのは大勢の人、人、人だ

ざわざわと五月蠅いのに、煩わしくない

人々が目指す方向は一つで、皆同じ方向に歩いている

楽しそうに談笑する者、悲しそうに進む者、怒っている者もいる


「ここは…思い出したぞ…カーネリア…」


懐かしい空気を吸い込むように、深呼吸する


「ああ、アリエッタ?」


横をむけばそこに居たのはカーネリアだ

その姿はかつて見た400年前の時の姿だ


銀色の髪、大きな体のカーネリア

まだ幼い顔立ちで、肩からむき出しの腕は傷一つない

あの街で知り合った時のままだった


「なんだその姿…そうか…アリエッタ、そうだったな」


カーネリアの見たものは、長く伸びた燃えるように赤い髪色

背はさほどではないが、出るところは出ているのに華奢に見えるアリエッタだ

それはどう見てもあの街でお嬢様をしていたアリエッタ


見た目とは裏腹に、その赤い髪のように燃え盛る情熱をもっていた少女だ


そしてふたりは歩き始める


「なぁカーネリア、本当に色々あったな」


「そうだな…でもまあいい人生だったよ。私たちの仲間、本当に好きだったよ」



いいや違う

素晴らしく最高の人生だった…


だからもう思い残すことなどもうない


だから行こう、きっとこの先でマリア、フランリッタ、アシュトーも待っている

エズラはきっとまだあっちで楽しくやっているだろうが、そのうち来るだろう



ゆっくりと二人は歩き出す

目の前に見えるのは白い雲、そして大勢の人だ


ここは忘れもしない、そう…死後の世界で



かつて来たことがある



だから迷わず進める…


しかし踏み出すと同時に、二人の歩みを止めるように二人の少女が、アリエッタとカーネリアの前に立っていた


「まって!まだ、まだなの!」


ちいさな、赤い髪の女の子が泣きそうに叫んでそう言った


「なにが、まだなのだ?私はもうやりきったよ」


アリエッタは優しい声でそう言った

もう、戦いは終わった

そして人々は私が居なくても進んでいける

停滞した世界は歩み始めている、だからもうやることなどない


「あ、あなたは…まだやりきってなんかないわ!人のため、世のためと、確かにそれは終わったのかもしれない」


そう、終わったのだ


「でも、あなたはまだ終わってないの!アリエッタ!だから、私を…私を向こうへ連れて行って!」


「どこにだ?もう行くところなど残っていないぞ?」


「ううん、残ってる。忘れちゃったの?南のノーチェス、マトラとラライラはまだそこに居る。そして、貴女を待っている」


少女は大粒の涙を零しながら、アリエッタに両腕を出す


「誰だったか…しかし、心に今、穴が開いた」


「貴方はまだ見ぬ新大陸を、楽しみにしてたじゃない!」


「まただ、心に穴が、大きな穴が開いた」


何故だろうか、少女の言葉で私の心に穴が開く

しかし、寂しいとか嫌な穴じゃない


私はそれを、求めている。その、知らない穴を埋める君を


「少女よ、名は何という」


その声は心地よく、その目は燃えている


「忘れないで、私の名前はアエリア…そう、貴女よ…アエリア」


そうだ、思い出した…私はアリエッタ、それだけではもうない


アエリアだ


そして二人の声が重なる


二人はにやりと笑って言った


「「これは、心が躍る」」


そして二人は一人になる


赤髪の、アエリアの姿へと


横を見ればそれはカーネリア、ではない

金色の髪をしたナターシャだ


二人は一人になっていた

きっとアエリアと同じようなやりとりがあったにちがいないとそう思える



気づけば人々は消え、雲だけが残っていた


「アエリア、返してもらおうよ」


「そうだな、ナターシャ」


二人は歩みを早くして、反対方向へと駆け始めた


「思い出したよ、ここに私は忘れ物があった。あの時持っていけなかった物が」


「それは私もだ、そしてそれはアエリアが持ってきてくれた」


「私はナターシャがずっと持っててくれた」


だから行こう、新大陸へ


気づいた時には足元を魔法陣が照らしていたー





ズズンっ


衝撃波が駆け抜け、土ぼこりを上げる


「けほっ、何これ、すんっごい埃!」


「かはっ。あうぉぇ、鼻、鼻に入った!!」


パラパラと衝撃によって落ちる天井からの埃が二人に積もる


「あ、アエリア様!!大丈夫ですか!?」


「ちょっとマトラ、ここ掃除してないんじゃないの?すっごい埃じゃない」


マトラはその喋り方に違和感を受ける

なんだろう?いつも聞いていた、少し硬い喋り方じゃない?


「もーやだ、お風呂、お風呂行きたい!マトラちゃんお風呂用意してぇ!」


「え?ナターシャ…様?」


ナターシャの声そのものに違和感を覚えた

子供みたいな声質だ


あまりの埃に視界が遮られている

はっとして魔法を唱える


「風よ…」


マトラは風で視界を遮っていた埃を晴らした、するとそこに見えたのは


「あー、埃無くなった…」


「ほんと、死ぬかと思った…」


大きな荷物を背負った、背はさほど高くないが燃えるように赤い長い髪で、出るところは出ているのに華奢に見えるまだあどけない少女と


おなじく大きな荷物を背負っているけど、赤紙の少女とは違って少し背は高く、まるで白に見えるほどに輝いている短い髪の少女だった


二人はマトラを見ると


「よ、久しぶりだねー!マトラ!元気してた?」


と、赤い髪の少女


「マトラちゃん、ラライラちゃんは?」


きょろきょろとあたりを探す銀色の髪の少女だった


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