第40話 サウセス・学園・エリーシュ

アエリアの妹、エリーシュはサウセスの学園に通っている

学園の名前は知識の集う場所、という意味だったと思う


そこには平民もいるし、貴族もいる

開かれた学園である

ただし、入学するためには何か一つでも優秀であることが求められている


もちろん品性も当然ながら必要だ。

その点において、アエリアは落第だったということになる


当時のアエリアは本当に酷かった

会う人間殆どから嫌われていたという事も大きい


唯一、水があったのかツィーグではさほどではなかった

母親の生まれ故郷というのも大きかったのかもしれないが


エリーシュは子供の頃から誰に会っても好かれていて

その上で希少な回復魔法が使えるとあって、幼いころから大切に育てられてきた

だが、その回復魔法は成長することが出来なかった。大切に育てられたがために使用する機会が少なかったことが上げられる


まぁそれも原因の一つでアエリアが荒れたのであるが


一方、ライザッハ

彼は兄に似ていた、と言えばわかるだろうか?微弱ながら魔力強化が出来ていた

兄のマネをしていたのだから覚えも早かったとあるかもしれない

しかしながら、早々にエリーシュにあてがわれ、護衛として、婚約者としていたために兄ランスロットから離れて暮らし始める

そのせいか、彼の成長は止まってしまった、というか微弱なものになったのだが



ある日、二人は あの アエリアに出会う

今までの姉と変わって彼女は厳しく、優しかった

そして二人は止めていた歩みを、再び歩み始めた



「うあああ!」


ライの振り下ろす剣はマリアの横を滑るように空振る


「愚弟、甘いよ、どうしたの」


マリアの木剣がライの腹部に減り込んだ

ライの体はまるで巨大な物にぶち当たったようにはじけ飛び転がる


「が、はっ」


苦しくて動くことが出来ない、あれは肋骨の何本か折れたな‥


「エリーシュ、頼む」


「は、はい!ヒール!」


ライの体に優しい光が集まり、彼の傷を癒してゆく


「くっ、は。はぁ、はぁ」


「苦しそうに立ち上がるな、もっと気合を入れろ」


「そう言われても、姉さん、異常な程に強くなってないか!?ようやく追いついたと思っていたのに」


「思っていただけだったな。愚弟が遊んでいる間に私はアエリア様に…」


今、マリアはライに修行を付けている

本来は母であるナターシャの方がいいと思うのだが、国王の勅命もありエミーシュの傍を離れることができないので仕方ないのだ


「ほら、学園最強なんだろう?もう少しは頑張れ」


「くそ、まるで兄さんみたいに強い…」


「それは的を得ているぞ、ライ。今私はランス兄さんとほぼ同等だぞ?」


「は?」


「よし、いずれお前も覚えるんだ。今のうちに見ておけ」


マリアはそう言うと


「聖剣顕現」


マリアのもつ木剣が細長い剣へと変わる


「よくみておけ、ここから」


「聖剣開放」


マリアの左腕に、もう一本の細剣が現れる


「聖剣開放・重」


マリアを中心に、周りに重力結界が展開する


ビシビシと音を立てながらライは地面へと押しつぶされる


「あがっ…!なん、だこれ!」


「これが聖剣魔法の神髄だ。愚弟、これを覚えるんだ」


そう言って聖剣魔法を解除する

すぐに重力結界は消え去って、ライは自由を手に入れる


「聖剣魔法だ。基礎は魔力による身体強化だ。お前はすでにそれがそこそこ出来ているからな、顕現くらいはできるだろう。魔力式みていたな?」


「あ、ああ」


「では今日より励め。アエリア様の名が知られればおそらくそこのエリーシュ様にも火の粉が降りかかるだろうからな…」


「姉さんはいないのか?」


「私はもう暫くお母さまの元で教えを乞う…」


「は?母さん?」


「お前も開放まで行ければ…いやでもそこから先はお母さまに習うことになる」


ライには意味が分からなかった

母さんとの思い出は少ない。小さいころから離れて暮らしていたからだ


「ライ、頑張りましょうね」


「そう、だな。エリーシュを傷つけるわけにはいかないからな」





それから数か月後の事である


学園炎上ー


それは他国の兵が攻め込んできたのだ

多くの生徒は無事逃げ出せたと聞く、それは目的ではなかったから見逃されたのだ

奴らの狙いは、エリーシュ様だった


「俺の名はフリッツだ、アエリアの妹を差し出せよ。そうしたら見逃してやるぜえ?」


「ふざけるな!誰が出すものか!」


「お、お姉さまが何の関係が…」


ライの影に隠れ、エリーシュは何が何だか分からないようだった


「知らねぇの?ははは!こいつは笑えるぜぇ、知らないんだってよぉソニアあ」


ソニアと呼ばれた、赤いマントを纏っている女性が言った


「それは凄いわね…やはりあのマトラという女、相当できるわ」


「ああん?どういうことだ?」


「アエリアがノーチェスとウェスコーの王になったという事を、このサウセスに対して完全に隠蔽できているということだもの」



その言葉にライとエリーシュは衝撃を受ける


「は?なんだそれ」


「まぁ知らないならいいんだわ、俺ら妹を攫ってこいって言われてるだけだからよぉ」


フリッツと呼ばれた男が言った


「フリッツ、遊ばないで。時間ないわよ?ランスロットが来る前に逃げないとまずいわ」


「ちっ、そういやこの国にゃあのバケモンが居たんだったな…悪いが時間はかけねぇぞ」


そう言うとフリッツは魔力を練り上げる


「聖剣、極・解放」


それはかつてギィルが編み出し、彼しか使用できなかった魔法

ランスロットさえも苦戦したその聖剣魔法だ


フリッツの剣は普通のロングソードだそれに彼の頭には王冠の様なものが現れる


走り出すフリッツ、それに応対してライは剣前に構え、フリッツが振るった剣を受け止めた


ギィン!


しかし、フリッツの剣は残像を残したままライに迫り、そしてライを斬りつけた


とっさに後ろに跳ねた、だから胸を裂かれるだけで助かった、そんな思いが胸に刻まれる


「な、なんだそれ…」


「マジかよ、初見で生き残るのかてめぇ…優秀だな」


「フリッツ、そいつはランスロットの弟よ。あまり舐めないで」


「なるほどな、血統書付きかよ。でもまぁ、聖剣魔法使えないんじゃだめだな、死んでしまえ」


フリッツが左右に剣を振るだけで残像が残るのが分かる

時間にして0.2秒くらいだが、刀身がまるで分身したようになる


「まさか、残像が…そのまま剣なのか」


「よくわかったな、だけど終わりだよ」


「ヒール!」


聖なる光がライに集まる。するとすごい勢いで傷が塞がって、何もなかったかのようになる


「おいおい、回復魔法かよ…しかも結構強力だな。妹はいろいろ使い道があるみたいだな」


それはエリーシュが大切に育てられた理由でもあった

強力な回復魔法使いは貴重だからだ

戦場において、回復魔法使いの人数で戦局が覆ることもあるというほどに利用価値は高い


「手伝おうか、フリッツ。あれは手こずるわ」


「頼む」


「エンチャント・斬撃強化・肉体強化・魔力強化」


フリッツの剣を含めた全身に強化バフがかかる


一気に速度が上がったフリッツにライは対応できないー


そして、そのままライは切り裂かれる


ライの体から、何か所からも血が噴き出た


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


エリーシュが叫び、その体が白く輝き始める


「回復魔法、させねえよ!」


フリッツはそのままエリーシュを蹴とばす


聖剣解放下にあり、さらにバフのかかったフリッツの蹴りはエリーシュの体の骨を次々と折り、さらには片腕が引きちぎられてべしゃりと壁面にぶち当たった


「ちょっと!やりすぎよ!死んじゃうじゃない」


「ちっ!ソニア、ポーション!」


「まったく・・・これだから戦闘バカは」


そう言ってソニアは吹き飛ばされ、腕が引きちぎられたエリーシュにポーションを飲ませた


「これ、とっておきなんだからね…死なないと思うけど、片腕は…ごめんなさいね」


同じ女性として、ソニアは同情した


「はぁ、さっさとずらかるか。ゲート設置してるとこまで走るぞ」


そう言ってフリッツが背を向ける

ライはすでに、こと切れる寸前だった。体が動かない、血がどくどくと流れているのが分かった自分の血を、暖かいと感じている

ライは、俺も、聖剣魔法が使えていたなら…そう思った

しかし時はすでにもう遅い、勝負は決してしまっていたのだから


「ちょっと、待ちなさいよ!」


ソニアがエリーシュを抱き上げようとした、その時だった


「聖剣顕現・開放」


エリーシュが唱えた


バシンッとソニアは弾き飛ばされる

それは聖剣剣顕と開放を行った魔力の余波だ

あまりにも強力な力だったためにソニアは弾き飛ばされたのだ


「きゃあ!」


「なにっ!」


フリッツが振り向くと、そこには杖を持ち、白いローブを着たエリーシュが居た


「なんだ、てめぇ」


「完全回復」


パーフェクトヒーリング、そう聞こえた


エリーシュの引きちぎられて無くなっていた右腕が再生する


そしてエリーシュはその手に持つ杖をライに向けると、光がライを包み込んだ


「天上の守護、生命の樹よ」


ライの全身の傷が一瞬で癒える流れ出た血もどこかに無くなってしまっていた



そしてエリーシュはすっと、その杖をソニアとフリッツに向ける


「天上の監獄」


ギィン!

音を立てて彼らの退路を、そして彼ら自身を光る鉄格子がふさいだ


「な、なんだぁこりゃ!?」


その檻に包まれた時、フリッツの聖剣魔法、バフがすべて消え去る

さすがにフリッツが焦る


「嘘でしょう…こんなの…」


ソニアが怯える…


「なんだよ!」


「伝説の魔法じゃない…捕らわれたならすべての魔法が使えなくなるような…こんなの私たち、もう逃げられないわ」


そしてエリーシュが口を開く


「はぁ、まったくアリエッタは何をしてるのよ…。こっちにまで被害がでてるじゃない」


先ほどとは雰囲気が違う、何かそう、迫力がある?


「あなた、何者なの?アエリアの妹じゃなかったの?」


そう、震える声でソニアが問いかけるとエリーシュが答えた


「私は、まぁあなた方が言うアエリアの妹のエリーシュで間違いはないわ。ちょっとだけ…昔の記憶が戻っただけよ」


杖、そして白いローブ


背中に4枚の白い羽が生まれた


「私は…そう、聖女、戦う聖女と呼ばれた女…」


「マリア」


エリーシュはそう言った



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