第38話新しき国
翌日、ラライラを先頭に城へと向かう
入口にガレットが立って待っていた
「おお!お待ちしておりました!ではディーン様にご紹介致しますので!」
そう言って城内へと入ってゆく
あまり大きな城ではない。装飾も普通だ
こらならばアエリアの実家の屋敷の方が大きく豪華である
そして、城の執務室の横にある応接室に通された
ソファに座ってしばし待っていると、二人の男が入ってくる
「お久しぶりですね、ラライラ様」
そう言った男は端正な顔立ちをしている、清潔感もあるが何よりも風格があった
「あ、うん、えっと、お久しぶりです」
「王都の事は残念でした……私共も出来うるかぎりの捜索をしたのですが結局は分からずじまいで。ただ生存だけは何とか確認しておりますのでいずれ」
そこまでディーンが言ったところで、アエリアが口を開く
「ああ、なんだ。ディーン殿達は未だに場所が特定出来ておらぬのだな」
それに驚いた表情を作るディーン
その奥の男はさらに驚いていた
「な、なんと貴方方は場所が特定できていると!?それは何処ですか!?」
「ん?貴方は?」
「失礼、チーノと申します。今ここを仕切っていますディーノ様の右腕、といったところです」
「うんよろしくチーノ殿。そうだね、特定できているよ。そして今はそこに至る為の道程にすぎない」
「どういう意味で?」
「そうだね、そこは物凄く遠いのだ、遠い場所なのだよ。だからそこに行くための物を作ろうとしている途中といえばいいかな?」
その言葉でチーノはにやりと笑う
「であれば、場所はわかれど行くことができないというわけですか。それで、そこに行くのにはどれくらいかかりそうなので?」
「そうだねぇ…10年…でいければそれは僥倖と言えるだろう」
「ははは、なるほど、そうですか、10年!それはまた長い月日がかかりますな」
「チーノ、失礼だぞ」
ディーンがそう言うとチーノは押し黙り後ろへと下がっていった
「それで大変心苦しいのですが…ラライラ様にはこちらでノーティス王国を収めて頂きたいのです。首都こそなくなりましたが、民は健在です」
「え?私が、ですか?」
「そうです、王家の血筋、その直系である人物はもうラライラ様しかおられません」
そこから、いかに王家の血が必要なのかがディーンが語る
そして最後に、予想していた提案もして来るのだった
「それで…時期が来ればでかまいません、私と婚姻を結んでいただきたいのです」
「ああ…やはりね」
思わずアエリアは口に出した
「はぁ、まぁ政略結婚ってこういう事ですよね。それに今その提案は非常に正しいと言えます。この状況下で打てる最前の策でしょう」
マトラはそう言う
「おお、マトラ様もお考えでございましたか!」
チーノはそれをしめたとばかりに同意する…のだが
「ええ、アエリア様さえいなければ最善の策です。道理も通っていますし、あと3年もすればラライラも成人し、婚姻に異を唱えなかったでしょうね」
「は?」
「うん、私もそうしてたと思う…」
「え?」
ラライラも、そう同意する
一体何を言っているのか分からないディーンとチーノは全く理解できていない風であった
「まぁ一言でいえば、御破談という事だよ。申し訳ないね」
「ななな、なんだと!?それに、黙っていたがお前は何者だ?」
「ああ、自己紹介がまだだったか。私の名はアエリア・ル・シャルという。一応サウセスの公爵家令嬢だ」
その一言でディーンはごくりと唾を飲み込む
おそらくは今の自己紹介だけで、なぜ私がここにいるのか、何をしようとしているのか理解しはじめたに違いなかった
やはり、優秀な人間と話をするのは楽でいい
「まぁ、その顔はわかったようだね?」
「アエリア様、ぜったいに分かってないです。どう考えてもわかってないというか、わかる方が無理ってものですよ…」
「そうか?」
「ええ、おそらくディーン様はアエリア様がこの国を裏で操るとでも思っているんですよ。私とラライラを使って」
アエリアはうん?と言って考え込む
「ち、違うのか?」
ディーンはそう言った
「ほら、やっぱり!ディーン様、このアエリア様がやろうとしているのは国の乗っ取りそのものですよ?この国の女王になろうとしているんです。裏から操るとかとんでもない話で、それどころじゃないんですよ」
「それくらい分かっていたはずだぞ、ディーン殿は優秀そうだからな」
ほらやっぱりみたいな顔をするマトラ
そしてディーンとチーノを見ると、注意するように言った
「一つ言っておきます。アエリア様を害するのは無理です。おそらくは暗殺さえ無理です。この国の戦力を減らすだけです。首都の戦力無き今この国に敵う者は存在しません」
「は?」
「さらに言うならば、首都の戦力があったとて敵うかどうかと言えます。その位にはアエリア様一人でも戦いますし、その裏には似たような人間がまだ控えています。いうなればアエリア様ともう一人でこの大陸全部を敵に回せるほどです」
「な、なんだそれは…事実ならば化物じゃないか」
今アエリアは軽く殺気と魔力を振りまいている
だからこそディーンはその与太話をおとなしく聞いていたのだ
付け加えるのならばチーノはそこそこ前から気絶している
「化物とはひどい物言いだな、マトラ。しかしまぁそう言うわけでな、申し訳ないがこの国を頂こうと思ってきたのだよ」
「なん、そんなことが許されるとでも!」
「ああ申し訳ないね、許すとか許されるではないのだ。今日、今からこの国は私が頂くことになる。そして、すぐさまに戦争の準備をしていただくつもりだ」
「戦争、だと!」
ようやく平定できたばかりなノーチェスの国をさらにかき乱そうというのかとディーンは怒る
だが
「そう、戦争だ。君らはもう忘れたのか?ノーチェス首都が消えた。それは何故だ?天災とでも言うつもりか?」
そこで、はっとするディーン
そうだ、首都が消え、その後始末ばかりしていてそこに思考が行っていなかった
良くも悪くも、ディーンは優しく真面目な男なのだ
「そこまで調査が及んでないとは思うがな、あれの犯人はいるぞ?それもウェスコーにな」
「ウェスコーだと!?かの国はこの国と友好国だぞ!?」
「なんだ、まだ分かっておらんかったのか?なぜこの国がサウセスに攻め込む決断をしたのかとか、てっきりディーン殿は知っていると思っていたのだがな」
「ぐっ…確かに、知っています。聖石の寿命が尽きそうだった、あれがなければこの国は立ち行かん。事実、あと数年で飢饉に陥っていたはずだ…」
「そうか、それは嘘だが信じていたのだな。まぁ豊穣の祝福で飢饉は回避されただろう?感謝してほしいものだ、それは私が骨を折って頼んだのだからな」
その言葉に、ディーンは気づく
「まさか…あなたが、アリエッタ…」
「うん、その認識でいい。そして持つ力も同等だと考えるがいい。それでも私に逆らうというのであれば、異を唱えるというのであれば相応の覚悟できたまえ」
そこまで言われてディーンは黙る
「今マトラとラライラの下に集まった兵士達はかなりの突貫作業で鍛え上げているところだ。それらが成った時、ノーチェスはこの私、アエリアと共にウェスコーを落とすために行ってもらおうと思っている」
そして、ディーン他ノーチェスの若き領主達はアエリアの軍門に下る
各地を走り回り、一人づつ丁寧に説得して回った
ドワーフ達の武器が完成し、そしてナターシャの育成が終るころ
新生ノーチェスの国王はアエリアとなった
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