第32話A man named Gil

その昔この大陸では戦争があった


今から150年前の大陸統一戦争で最後まで争っていた国がある


その国の一つは今で言うサウセス、そしてもう一つはウェスコーだった


各王国を武力で支配下に置いていくウェスコー公国に対してサウセスは小国連合と言う形で対抗していく


しかしながら圧倒的な武力により支配を進めていくウェスコー


サウセスの戦力は小国連合という事もあり、大きく統一されていたウエスコーに対して劣勢であった


そこで兵器、技術で対抗していく事になる



その戦争の中で、休戦になった後にいくつか禁止された魔法があるがどれもがサウセスで開発されたものだ


特に、地獄の門と呼ばれる魔法は聖石の力を消費してそこを中心地とし、大規模転移を引き起こす


それは僅か1回の使用で禁止となる


転移後に発見された街が、あまりにも無惨であったことがその理由だ


ウェスコーに隣接する海で発見された、その転移させられた街。住民の8割りが即死していたとある

さらに2割は生きていたものの、様々な鉱物、生き物と体が融合しており発見後に全員死亡した


そもそもが転移とはその性質が異なっていたのが原因ではあるのだが、相手を街ごと消すと言う恐ろしい魔法だった


開発したのはサウセスの魔法研究博士のセシリア・ライルと言う女性であった


その魔法の封印廃棄と引き換えに休戦することになる


終戦後、ライル博士は罪を償うとウェスコーへと渡ったという









そこはウェスコーで二番目に大きな都市だった

人口は数万、それだけにここにはスラム街などもある


その一角に大きは樹が生えており、横にはボロ家がひっそりと建っていた



灯りが漏れて、夜になると人が住んでいるとよく分かる


しかし、この家に盗みに入ろうとする者は誰も居ない


ならずものにも触れてはならぬものがある



それがここだ



ボロ家のドアがガタガタと開けられる



「ああ!やはりここに居ましたか、探しましたよ」



その男は神官の様な服を着て、明るい笑顔でテーブルに座り、一人酒を飲む男に話しかけた




「なんだ、セシルの旦那かよ……」



「ええ、どうしたんです?最近姿を見せませんでしたが?さがしましたよ、ハイル君。ようやく例のものが完成したんですよ!」


例のもの、とは何だっただろうか?と頭を捻るが思い出せない



「複製聖石ですよ。ノーチェスの首都を飛ばしてようやく完成しました、これでこれからの戦争は我々の勝利です」



「ああ……そんな事言っていたな」



「ええ、これで意図した場所を選んでアビスゲート、地獄の門を開けることができます。さらに転移先へは聖石の結界を保ったまま行きますので誰も死にませんし、これは完璧ですよ!」



「そうか、もういいんだよ……そんな事は」



「いえいえ、これで我がライル一族の目指した魔法の完成です。相手を大規模転移による無力化が可能となるのですから……ですから、昔のように禁術とされません。平和な、平和な魔法になるのです……我々の有利な地点へ、とはいえ固定されていますがそこに飛ばすことが可能になります」



一通り言いたい事を言うとセシルは辺りを見回す

そして首を傾げて


「そういえば、ビーツさんはどこに?」



「あんた、研究に夢中過ぎて耳に入って無かったみてぇだな……」



「はい?」



「死んだよ、ギィルの兄貴は……あんたの探してる、ビーツ・ガランドルはな……」



「はあ?何を言ってるんです?あの人が死ぬわけ無いじゃないですか……聖剣魔法だってあの人の発明で…改良さえした魔法を使いこなしていたのに」



ビーツ・ガランドルは、過去の記憶を持っていた


それは150年前の記憶らしい


とは言え、朧気な記憶である。

辛うじて魔法や当時の記憶を持っていたにすぎない


この国の、150年前の王と同じ名を名乗るその男の過去の記憶。それがあったからこそ、セシルは複製聖石を、地獄の門を開発できたと言える


それと同時に、失われつつあった聖剣魔法をハイルに教え、また他の人間にも教えていた




「アニキの墓なら裏にある……掘り返してもいいが、また埋葬しとけよ。アニキの遺言だからな」



「遺言?」




「俺はあんたの言う通り、ランスロットの妹を人質に取りに俺は動いたんだ。そこで問題が起きちまった。妹の周りに聖剣魔法使える奴が二人もいてな…うちの一人、赤いドレス着ていた女がどうやっても勝てるイメージがわかねぇほど強かった。アニキからの念話でも、あの女には手を出すなと言われたよ」



それは、人質を得る前にランスロットが来てしまった事である


さらにランスロットとギィルの交戦だ



「アニキはな、もし万が一ランスロットと戦う事になったら…俺に手を出すなと言っていた。負ける事があったら、全てを諦めて白紙にして逃げろとな。そんで俺に、アニキの亡骸は必ず回収しろと言われていたんだ」



そこで酒をぐびりと流し込んでから



「まあ、頭しか回収出来なかったけどな……」



「まさ、か、ランスロットに負けた?現時点でも勝率は9割はあったはず……」


セシルが手に持っていた紙束をバサりと落とす

それは戦略を書きなぐっていた紙だ



「あー、どうやって負けたのか分かんねえよ。見えなかったしな確かなのはランスロットが聖剣魔法を使った事だ。そしてそれにアニキは圧倒的な強さを見せてた……だが、よく覚えてないが、あれは普通の聖剣魔法じゃ無かったのかもな。もうどうでもいい、終わったのさ」


「終わった…?ええ、そうですね、ビーツがいないのではもうどの作戦も無理です…彼の魔法ありきで組んだものばかりですからね」



「最後の念話でよ、ここに埋めてくれっつーのが遺言だ。なんでかは知らねぇ。あと、セシル、あんたにも感謝しているだとよ…」


「そうですか…」



「まぁなんにしてもウェスコーが大陸を統一するなんてのはもうしまいだわ。その夢もったアニキがもういねぇんだからよ」




最後の時を思い出すー



(ハイル、もし負けたらよぉ…俺の遺体はなんとしても回収してくれ。そんであそこに埋めてくれ、セシルにもありがとよって伝えといてくれ)


(はぁ?ここまで圧倒してんのに負ける事かんがえてんのかよ?アニキらしくねぇな!)


(なんつうか、悪寒が止まらねぇ。こいつは昔感じたことある圧だ)


(ああ?)


「聖剣開放」


(くそが!思い出したぜ、やっぱりかよ!また、まだ超えれねぇのか!俺の…聖剣魔法じゃ)


(アニキ!?)


(……次ぃ、あると良いなぁ。次こそ超えて…)





あの時、アニキが言ってた次ってのはきっと、再び次の人生があると思っている


ゆらりとテーブルの上のランプの灯りが揺れた


その次ってのがあるのかはハイルには分からないが、きっとアニキには何かあるのだろうなとハイル悲しみも程々に酒を飲み続けるのだった





その日よりセシル・ライルは姿を消した



ウェスコーでは、第一王子であるビーツが行方不明になり、作戦が全て出来なくなる

幸いなことにその作戦は漏れることが無かった為に、どの国からも責められる事は無かった


王位は第三王子が継いだという








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