第28話決着

タラントとハイルが使用していた聖剣魔法という魔法は、ここ200年で生み出された『汎用魔法』である


多少の努力こそ必要ではあるのだが基本的には誰でも使える汎用性のある魔法だ


特に、第一解放、第二解放、第三解放と三段階での運用が出来るようになっている


その利点は力量に応じて解放段階が選べるというところだ


もちろん解放に応じて身体強化も強力になるので、その解放できるだけの魔力と体の強度が必要になるのだが




過去の聖剣魔法では、身体能力、魔力量が全て揃わないと発動ができなかった


それこそ今のアエリアがマリアに教えようとしているものだ

その第一段階として、基本となる魔力による身体強化がある



それは汎用魔法では必要としていない段階だった。何故ならば魔法式を理解出来ていればそれで使えるからだ

わざわざ覚えるくらいであればそれより早く使える方が利点があったのだ



それにより可能な聖剣魔法使いの大量生産



弱体化しているとはいえ、聖剣使いの数がそろえば脅威である

だからこそ、数を素早くそろえることが出来る今の聖剣魔法が広まったのである



しかしながら、ここ数十年以上平和が続いている国ではその魔法も失われつつある


タラントの実家などは、脈々と伝えていたようだが、平和な世においてそれは不要な魔法である



だが、アエリアはその事を知らない

だからこそ先程、試しに聖剣魔法を使用してみたのだ


古いものと良く似た魔法式なので、簡単に再現は出来たが、それはかつての聖剣とはかけ離れたものが発動すると、確認したにすぎない



だからこそ、その魔法を解除した



そして、アエリアの使う聖剣魔法は簡易版となるソレとは違う


先程の解放で成りかけた姿は今世のアエリアの想いが具現化したものである



これから成る姿は最強と謳われたーアリエッタの聖剣魔法である



「聖剣顕現」


アエリアの背に並ぶように剣が並ぶ

その全てが別々の姿をして、意匠すらも別のものだ


剣もあれば、大剣や斧、ハルバート、槍もあるし、杖すらもあった

無いものといえば細身の剣位のもの



「さあて、久々に振るうか?なぁ、我が剣達よ…」







ランスロット


彼もまた、古の聖剣魔法を使用する

表立って使用した事は無い

何故ならばそれが異端であると分かっていたからだ


それになにより、第二解放までの相手であればそもそも使う必要すら無かった


卓越した剣技に、魔力強化された身体がそれを不要としたのだ



だが、今目の前にいる男は違うとランスロットに警鐘を鳴らす


まるで、才能の塊のような男だった


身体強化も充分、体の鍛え方も充分、さらには得体の知れない力すら感じる


だからこそ、いきなり全力である



ランスロットの聖剣顕現ー


手にある剣は一回り大きくなる。そして、左手には盾が

身体には全身鎧が現れて、その姿を鎧の中に隠した



聖剣とは、その手に持つ剣のことでは無い



ランスロットそのものが、聖剣となるのだ





「おうおう、すげぇじゃねえか……聖剣魔法使えるとは踏んでたが、なんかその上行ってそうだなぁ。そっちの赤い服着た女もかよ」


ギィルはランスロットの、姿に目を見張る

そしてアエリアを見る



(ガチでやべぇのは女の方だな……なんだありゃ、バケモンかよ溢れた魔力で周囲が歪んで見えるぞ)



しかしギィルも、ここが運命の分かれ道だと自覚する

ここで踏ん張らないで大陸統一などできるものかと全力を出す


「聖剣、極・解放ー」


ギィルが改良を加えた聖剣魔法である

また、ギィルもランスロットと同じく天然で魔力による身体強化ができているからこその魔法


それはアエリアやランスロットの、聖剣顕現に引けを取らない力を発揮する


手に持つ大剣は黒く染る

そして溢れた魔力が形を持ち、ギィルの身体にまとわりついてマントの様な格好をとる

頭にはまるで王冠のような兜が現れた



「さあ、遊ぼうぜ。何処までやれるか楽しもうじゃねえか」


ギィルは自分に言い聞かせるように言った



「悪いが手加減はできかねる!」



ランスロットが駆ける


左手の盾を全面に押し出してそれに身を隠すように突進する

それにギィルが盾ごと叩き斬らんと大剣を振り下ろす!


音もなく二つに割れる盾

だがそこにランスロットの姿はない

いつの間にかギィルの左横に移動して、振り向いたギィルに対してそのまま袈裟斬りに剣を振るう


「あめえなあ!それじゃぁ切れねぇぞ」


ギィルの左足がランスロットの腹部を捉える

蹴りあげられたランスロットはふわりと浮くが、ダメージも無い

止まることなく剣を振り下ろすが、今度はその黒いマントに剣を阻まれた


「ほら、喰らえ」


ギィルの剣がギチギチと声を叫びながらランスロットに迫る


躱したはずだった

だか、ランスロットの兜はまるで喰われた様に歯型を残して半分消えた


「なんだ、これは」


「あー、悪いねえ。俺の剣はお前の頭から齧ってやりたかったんだかな、兜だけ喰っちまったな」


本来は再生するはずである兜

だが、一向に再生が始まらない


現に先程斬られた盾はいつの間にか霧散し、再びランスロットの手に戻っているのに、兜だけは戻らない


「俺の剣は、魔力存在を喰らうからよ……魔法も、聖剣もなぁ…打ち合えば負けるぜ?ランスロットぉ」


ニヤリと笑うギィルがギチギチと鳴く黒い大剣を構えた







「さて、我々もやるか」


アエリアは剣を握り構える

その背中にはフワフワと武器が並んでいる



「めんどくせぇ…てかよお、勝てそーにねえわ。第三解放までしててなんだが、アンタのそれと戦うとか無理だろ?」



「では向こうの男のように極とか言うのをすれば良かろう?待っておいてやる」



「あー、ありゃアニキにしか出来ねぇよ…参った、おれは降参だ」


そう言って剣を地面に突きさして両手をあげた



「つまらんな。ではランスロットに頑張って貰うとしようか」


「アエリア様、ランス兄さんは勝てるんでしょうか?」


マリアが不安そうに言った


「さあな、力量そのものは似たような物のようだ。だが少しばかり旗色は悪い」


ランスロットの聖剣の特異能力は速度向上だ

シンプルにスピードが上がる

それだけで強いのがランスロットだ


しかしながらギィルは、その速度により繰り出される剣を自動で黒いマントが防ぐ


それどころか、振るう大剣はランスロットの装備を喰らう


剣の技量ですらも負けていると感じる



明らかに不利


「あ、あ、ランス兄さん!」


ボロボロになっていくランスロットにマリアが動揺する


鎧の半分は剥ぎ取られ、盾も殆ど用をなさない


剣も強化されている部分が既に無くなって刃こぼれすらおこしている



「あー、こりゃあ俺の勝ちだなあランスロット。まあ、後ろの女の方が手強そうだが今日はてめえを殺して終いだ」


その反面ギィルは殆ど無傷に等しい。マントが少しばかりボロくなった程度だ

ギィルの目標、ランスロットを消す事。それは今ここで成されようとしていた


アエリアが居なければ間違いなく既に終わっていただろう

アエリアはその存在だけで抑止力となっている


「ふむ、ここで終わりかランスロット?」


アエリアは余裕の笑みでそう言った

なぜ、不安にならないか?それは彼の、ランスロットの技量を読み取れて居たからだ



「いいえ、まだです。これで駄目なら諦めますよ…」


ランスロットの眼にはまだ光が宿っている


「血だらけだぜぇ?まだなんか出来ると思ってるのか?」


「ギィル、貴方は強い。僕の技量だけでは勝てないだろう、だから…魔法の力に頼らせてもらう」


「ああん?」


まだ何かある、ギィルは見た目に反して警戒する

体をランスロットから傾け、何が来ても対応できる体勢を作る


「ほんの少ししか、もたないからな‥」


それだけ言うと、唱えた



「聖剣開放」



ランスロットの追加詠唱ー


それは速度が上がるだけのランスロットの聖剣魔法、その中でも極地である


「なんだぁ?・・・あ・な・・・・」


ギィルの首が、ズレた‥‥・


そのまま逆さになって落ちる


死んだことに気づかないまま、ギィルの顔は笑っていた


ドンッ!


ランスロットの立っていた場所から衝撃波が走る



アエリアを除く誰も気づてはいなかった。超速度で移動したランスロットがギィルの首を刎ねていたことを



「さぁて、決着がついたな。それじゃぁ綺麗におさめておこうか」



アエリアでさえ、わずかにしか眼で追えなかったランスロットの移動速度

しかしながら負けたギィルはともかく、ハイルの動きは早かった


聖剣を解除していなかったことから警戒をしていたが、それはマリアやマチルダ、トーマスにタラントに襲い掛かるかもしれないと思っていたからだ。だから意表を突かれた



ギィルの落ちた首を拾い上げると、一直線に走り出してー、そのまま転移して、消えた


いつの間にか周りを囲んでいた者も居なくなっていたようだ


アエリアは背にある武器の中から杖を掴むと


「女神の癒し」


魔法を唱える


一面に白く輝く円が広がって、全員を包み込む


すると、傷ついた者が全員癒されていった


命の鼓動がないギィルを除いて


「くそう!」


ドンっと、地面を叩くランスロット


「殺さずに、捉えることが出来なかった…」


それはランスロットの力量不足だと、そう言って嘆く


「ランスロット、良くやった。あのギィルと言った男は明らかに格上だったが、良く倒した」



そう言って、ランスロットの頭をアエリアは抱きしめた





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