淡い恋心と肉片

シラタマイチカ

淡い恋心と肉片




◇◇◇◇【1.隅に咲く花】◇◇◇◇



僕の名前は藤原一成

高2。家業は拝み屋…祓い屋や祈祷師と言った方がわかりやすいかもしれない。

何代も続く家業だが僕はそんなものに興味はない。


ただ普通に社会人になり家庭を持ち

家業とは関係ない人生を歩みたかった。

今の時代、オカルトじみた祈祷なんて流行らない



憂鬱な気分で

2-Aと書いたプレートがついた教室に入ると

やる気のないクラスメイト達が談笑している光景が視界に入った。


「黒澤、お前あの男とやってんの?」

「俺らにもやらせろよ」

「そんな女とヤリたいのー?趣味悪」


クラスの中であまり喋らないおとなしい女子黒澤町子を

囲み毎日こんなしょうもない虐めを行なっている

これが日常だ。気が滅入る…


「あの男何処で捕まえたの?」

「あんたたまにクッソ派手な男とも居るよね?パパ活でもしてんの?クソビッチじゃん」


「派手な男?なにそれw」


女子は黒澤にペットボトルのジュースを頭からかける


クスクスと彼方此方から笑い声が聞こえてくる

黒澤は席を立ち僕の横を通過して涙を浮かべて教室から飛び出した。


「あーあ、黒澤逃げた」


黒澤が居なくなった後は何もなかったかのように

みんな雑談やテストやYouTubeの話で盛り上がっている


僕はこんな学校が大嫌いだった。


黒澤町子は

黒い髪に黒い丸い目。

色白な肌。目立って綺麗や目立つ可愛さとかではなく…ひっそりと咲く花のようなそんな子だった。

外見的特徴は言えてもどんな声かと言われたら

思い出せない。


入学してから少しした頃

下校時刻になると黒髪の異様に肌色が悪い

顔立ちが悪くはない目つきが悪い男が迎えにくるようになった。

黒澤は教室にいる時の人形のような表情ではなく

子犬のように男に戯れ付きキラキラとした笑顔をむける。

それを周りはよく思っていなくて

イジメは悪化した。


ある日は黒澤だけ誘われていないグループラインに

黒澤の着替えが女子によって晒された。

イメージと違う、黒い男からも見てわかる高そうな下着。

白いこぼれそうな乳。


女子は悪口を書き殴ったが男は馬鹿みたいな下ネタを次々と書き続けた


僕は、黒澤が好きだった

無駄な事を話さない白い花。

見てはいけないと分かっていても数枚の画像を

スマートフォンに保存した。

なにをしていてもあの画像が頭から離れず

夜な夜な自分に負け、写真を使い自慰をした

あの男はこの身体に触れているのだろうか――。

そう思うとさらに自分自身を握る手は激しさを増し

無機質な液晶へと行き場のない熱をぶちまけた。


「黒澤…ごめん」


力尽き天井を眺め届くことはない謝罪をした。


翌日珍しくあの男ではないメガネをかけた派手な男と登校した。


メルセデス・ベンツ Sクラスカブリオレの白い車体は校門前だとかなり目立った。

メガネの男は車をわざわざ降り黒澤の頭を撫で

見送った

男はざわつく生徒を睨みつけ乱暴に車を発進させた

黒澤のイメージとは真逆の男の登場に

またもやクラスはざわついていた。


「黒澤ーあの派手な男とやったんか?」

「俺らにも触らせろよ」


じりじりと教室の隅に追いやられ泣きそうな姿をみて

流石の僕も止めに入ろうとした瞬間教室の窓が割れた


まるで映画の一場面みたいに――。

黒澤は今しかないとばかりに教室から走り逃げた。



黒澤が走り逃げる背後に《黒い影》が見えた気がした。


「なんだ今の…」


窓ガラスの破片はまるで助けに入れなかった僕を罰するように僕の左頬を傷つけていた。



教室に帰ってこなかったので休憩時間に黒澤のカバンを抱えて

保健室か相談室のどちらかには居るだろう行ってみるかと階段を降りた。

廊下を早歩きで移動していると担任と

黒澤をいつも迎えに来る黒髪の男が一緒にいた


背中にはぐったりとした黒澤がいる


何故かわからないが俺はできるだけの大声で叫んだ


「黒澤ー!カバン、忘れてんぞー!」


目を覚さない黒澤の代わりに

黒髪の男はギョロリと俺を睨んだ。

その瞬間吐き気と寒気がした

指先が震えなんだか身体がおかしかった


黒澤を背負ったままの男は俺からカバンを

「わざわざありがとう」

と言って奪い取り立ち去った。



担任はしばらく魂を抜かれたみたいにボゥっとしていた。


「先生、さっきの男…迎えってことは黒澤のご兄弟とかなんですか?」


何回か揺すりながら話しかけると


ハッとして担任は

「黒澤さん…?誰かと一緒だったかしら…一人じゃないかしら」

と言い残しふらふら歩き出した


なにが起こっているのかは理解ができないが

異様なことが起こったことは間違いがない……



その日は一日なにも手につかなかった。


夕飯の時真っ青な顔をした僕を見て

祖父母は「部屋に来なさい」と声をかけてきた。


「あんた、呪いに当てられてるよ」

「なんでこんなひどい…」


祖父母は必死に拝んで居る


呪い…?


一通り儀式の様なものが終わると

心当たりはないかとものすごい気迫で聞かれた



「一成あんた妖怪かなんかにやられたみたいだよ」


「妖怪?」


息苦しいけれど上体を起こした。


「タチの悪い妖怪だよこりゃ

命とられなくて良かった、あんたなんかしたんか?」


妖怪なんてそんな事言われても

心霊も神も信じてない


「あっ…同級生の女の子の後ろに黒い何かが居たり、

その子鞄を忘れてたから届けようとしたらその子を

迎えに来てた人がいて、カバン忘れてるぞー!って声かけたら寒気とか吐き気や震えが…でも人間…」


こころあたりはここしかなかった。

それを聞いた祖父母はしばらく学校を休め

その子は妖怪に憑かれてると意味のわからない事を言い出した。

でも、たしかにあの男の顔色は異様に青白く

一瞬触れた手は氷の塊を触った後な様な冷たさだった。



「ばあちゃん、その妖怪に憑かれたらどうなんの」


急に俺は怖くなった。

「間違いなく命を落とすだろうねぇ…」



「あんたが生きていて良かった」と改めて祖父母は

涙を浮かべた。


祖父母は拝む時に使う部屋に俺を寝かせて

また明日くるから部屋から出たらダメだと言い残し

襖を閉めた。


「黒澤取り憑かれてんのか…?」


居ても立ってもいられなくなり

家族が寝静まるのを待ち自分の部屋に行き

B5サイズのノートに手紙を書いた


「黒澤町子さん

大切なお話があるので放課後裏通りの児童公園で待っています。夕方18時まではお待ちします」


声に出して読み上げるがなかなか恥ずかしかった、

淡い恋心を伝えたいのと――家業をダシに、貴女に憑いている悪いものを祓いたいなんて言ったら頭がおかしいと

思われてしまうだろうか……

でも祖父母なら黒澤を助けられるのではないか?

そんな事を何時間も考えながら

手紙を抱きしめドキドキしながら朝を迎えた。

祖父母が起き上がる前に家をでたが

朝は朝練の生徒が思ったより多くタイミングが悪く渡せなかったので

掃除の時間にさりげなく靴の上に手紙を入れた。

これならいくらなんでも見るだろう…


この時までは隅に咲く花を守れるのは俺しかいない、俺が守るとヒーローに憧れる子供みたいに

強く信じていた。






◇◇◇《2断罪》◇◇◇



夕刻まで黒澤さんを待ったが気配もなく

やはりダメかと思った瞬間頭上に衝撃が走り

消えゆく意識の中で何かをみた





◇◇◇◇


目を覚ますと身動きが取れなくて

目の前には先日黒澤を学校に連れてきていたメガネの男が居た。


「あっ起きた??君町子ちゃんにお手紙を出したんだって?」


ニコニコとしながら僕に近づき髪を掴む


「お前運がないね⭐︎ただ遠くから恋するだけなら罪にはならなかった」


メガネの男は舐め回す様に僕をジロジロと見ながら

ポケットから僕のスマホを取り出した。


「君さー…盗撮画像はシークレットフォルダーに入れなきゃダメだよ?」

まっ、そんなとこに隠してもバレちゃうけどねと言いながら僕に液晶を見せた

液晶には先日僕が保存した黒澤の下着の写真が映し出されていた。


「それは、クラスのライングループに貼られたやつです!」


咄嗟に一成はそう叫んだ

「へぇ…勝手に恥ずかしい写真貼られたかわいそうな女の子の盗撮写真を保存してオナニーしてんの?最悪じゃん」


そう言いながらメガネの男は僕を殴り股間を足で踏みつけた。


「オナニーなんて…」


そう言いかけた途中でまた殴られた


「は?うちのオヒメサマの下着じゃ抜けねーって事??馬鹿にしてんの?」


そんな理不尽な事を言いながら

イライラとしている



「すみません…使いました…」


正直に言った方がいいかもしれないと思って

言ったがやはりダメだった。殴られた衝撃で多分歯が飛んだ

周りをビニールシートで囲まれた部屋

あまりにも怖すぎた


「お前…許さない⭐︎」



目の前のメガネの男は楽しそうに僕の股間を再び踏みつけた

痛さで苦しんで居るとドアが開き

黒澤を背負っていた迎えに来る男が入ってきた。


「さっくんー、こいつのスマホ見る??」


メガネの男は仮定妖怪に俺のスマホを渡した

すると男はみるみるうちに表情が変わり

口にしていたマスクを外した。


「おいガキ、俺の彼女のこんな写真なんで持ってんの?」

男の口はひどく裂けていた、まるで妖怪だ。


年齢があまり変わりそうにない仮定妖怪は俺をガキと呼び

肉切り包丁をチラつかせながら

詰め寄ってきた。


「さっくんこいつ町子ちゃんの写真でオナニーしてたんだってさ⭐︎」


メガネの男はニヤニヤしながら余計な発言をした


その瞬間仮定妖怪は僕の指を一本切り落とした

迷いなどなくまるで野菜を切る様に


「うわぁぁぁぁぁあぁぁ」


痛くて熱くてただ叫ぶことしか出来ない

なんでこんな目に??

わからないわからないわからない


「あんたなんなんだよ、おかしい、お前妖怪なんだよな?僕の家は祓い屋だ!お前なんて…」


言葉を最後まで言い終わらないうちに俺の下顎は一瞬でメガネの男の素早く強い蹴りによって潰された


「お前、余計な事ばっか言い過ぎって叱られなかった??」


メガネの男の顔はもう笑っていない


それからは指を一本一本切り□□されミキ□ーに

かけた少し前まで□だった液□を潰れた顎を掴み喉奥に流された。

もうそのあたりで僕は死を願った



怖かった辛かった意味がわからなかった

ただクラスの女の子をふんわりと好きになり

告白をして、守りたかっただけだったのに


意識がなくなりかけた時

仮定妖怪が刀を手に持った



「町子の視線も身体も顔も心も頭も何もかも俺だけのものだ許さない」



「俺の彼女を好きになった罰をくれてやる死ね」


その言葉が聞こえた瞬間僕は終わった。




ゴトリと僕は


床に転げ落ちた




◇◇◇◇◇




処分をしながらイライラとしていたら兄さんが話しかけてきた。


「ねぇさっくんさー、何人やったの」


部屋はガッガッガッとミキサーの音が響いている


「さぁ…わからない。」


「優先する事はスコアじゃねーの?」


「わかってる」


壁の時計を見た。


「兄さん店の予約まで後一時間」


げー、間に合うかなーと言いながら残りを

雑に袋に詰め冷凍庫にぶん投げた。

冷凍すると色々処分面倒だけど予約の時間は大事だ。





◇◇◇◇



「仕事が手こずってギリギリになってごめんね」

と言いながら兄弟は

待ち合わせのレストランの前に向かった。


「大丈夫です!!町子さっき来たとこです」


と言いながら町子はにっこりと笑った。


「でも、こんな高そうなお店…大丈夫かな…」

と町子はガクガクと震えていた。


「大丈夫」と言いながら朔は手を引き店内に踏み入れた


「予約していた八坂3人です」


案内役の女性に連れられ歩きながら兄シュウは

「俺が行ける範囲でいい店ってここしかなくてー」

と笑った



着席して、なにも無かったかの様に乾杯をした。






◇◇◇◇






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