「虫・動物」の恐怖

私のクラスには、大量の虫が入った箱を学校に持ってくる女生徒がいる。

浅蜊あさりさんという女生徒は、休み時間にいつも「可愛いね~」と、虫たちを可愛がっている。

そんな姿から、"蟲女"と呼ばれている。

「気持ち悪いね」

私の友達の峰香みねかが言う。

「確かに毎日虫を学校に持ってくるなんて気持ち悪い」

「虫のどこが可愛いんだろうね」

私達が話している時、浅蜊さんが近付いてきた。

「虫の可愛さを教えてあげる」

と、私達にダンゴムシを見せつける。

「この姿が可愛らしいんだよね」

「ちょっ──」

「あ、あとね。てんとう虫も可愛いよね」

「ねぇあっち行こう」

話が止まらないと思った峰香は、私を連れてトイレに行く事に。

「あの蟲女、流石に引くわ」

「だね」

「虫の可愛さなんて、全然分かんない。ただ気持ち悪いだけよ」

「峰香の気持ちすごい分かるよ」

「でしょ!」

私も虫が嫌いだ。

家族とハイキングに行った時、蜂に刺されそうになったこともあった。

しかも、その帰り道、車の窓にびっしりと虫が張り付いていた。

それから私は、虫が嫌いになった。

「虫が可愛く見えるのって、蟲女しかいないよね」

「それな」

と、私達は蟲女の悪口を言い合った。


一週間後。

「最近、蟲女来てないね」

「あぁ、確かに」

どうしたんだろう……。

まぁ、浅蜊さんはあまり好きじゃないし、気にしないけど……。


「キャッ!!」

突然、女生徒が叫んだ。

「どうしたの?」

「浅蜊さんの机の近くを通ったらミミズの死骸が大量に……」

見てみると、確かに落ちていた。

「うわ、気持ち悪っ」

「何でこんなの落ちてるのよ」

浅蜊さんは、一週間も来てないのに何故、ミミズが…?

私は、不思議に思った。


「佐々木さん。浅蜊さんの自宅にプリントを届けてもいいかしら?」

先生が、峰香に頼んできた。

「え? 私が?」

「だって、席近いから」

浅蜊さんの席は、窓側の一番後ろにある。

その隣は、峰香の席だ。

「えー、だったら、先生が届けてよ」

「先生は忙しいの。よろしくね」

先生は、そう言って去っていった。

「峰香。ドンマイ」

「ドンマイじゃないよ。あ~マジで最悪」

私が峰香だったらと思うと、とても嫌気が差す。

すると、峰香が提案してきた。

「私一人じゃ嫌だから、あんたも来なさいよ」

「え? 私も?」

「私達、友達でしょ?」

「そう……だけど」

「なら、いいじゃない。今日行きましょう」

ホント最悪だ……。


なんで私も一緒に行かなくちゃいけないの……。

心底嫌な気持ちになりながら、峰香と一緒に浅蜊さんの自宅を訪れた。

「一見普通の家ね」

「普通の家で良かったよ」

ピンポーン

「すみませーん。プリント届けに来ました」

ガチャ

中から浅蜊さんのお母さんが出てきた。

しかし、その顔はやつれていた。

蛙子けいこのお友達?」

「いえ、ただのクラスメイトです」

「そうなの。色々お世話になったわね」

「ほんとそうですよ」

そこは、否定しないんだ。

まぁ、これが峰香だもんね。

「さぁさぁ、遠慮無く上がって」

「え? いや、プリントここで渡してもいいじゃないですか?」

「駄目。蛙子にちゃんと渡しなさい」

浅蜊さんのお母さんの目は、死んでいるようだった。

「わ、分かりました」

チッ と、峰香は小さく舌打ちをする。


「お邪魔しまーす」

私達は、浅蜊さんの自宅に入る。

「蛙子~。お友達が来たわよ」

友達じゃないと、峰香が小さく言って否定する。

しかし、返事が来ない。

「仕方ないわね」

私達は、浅蜊さんの部屋の前に来た。

「さぁ、行って」

浅蜊さんのお母さんが促す。

ゴクッと唾を飲み、浅蜊さんの部屋に入る。

ガチャ

そこには……。


「っ!?」

大量の虫が、浅蜊さんの部屋を覆い尽くしていた。

そこら中に、蜘蛛の巣が張り巡らされていて、ゴキブリやカメムシ、ムカデなどの気持ち悪い虫等がいた。

「あはは、可愛いね」

部屋の隅に浅蜊さんの姿が。

「あ、あの浅蜊さん、プリント届けに来たんだけど……」

そう言うと、浅蜊さんがこっちを向いて不気味に言う。

「ミミズ、可愛かったでしょ?」

私の背筋がゾクッとする。

「あ、あんたがやったのね! ミミズの死骸を学校に持ってきて」

「死骸? 私は、生きたミミズを持っていった筈だけど……あ、もしかして殺した?」

浅蜊さんの目から完全に殺意を感じる。

「一週間も過ぎたら、そりゃ死ぬでしょ」

峰香がそう言うと

「まぁ、いいや。ミミズの死骸も可愛いし」

蜘蛛を見ながら浅蜊さんが言った。

「あのどこが可愛いの? ただの気持ち悪いクソ虫なのに」

「気持ち悪い? 可愛いの間違いじゃないの?」

ガチャン!

不思議な力で鍵が閉められた。

「な、何で私達を閉じ込めるの!!」

「ふふふ、これでゆっくりお話できる」

ジリジリと私達に近付いてくる。

「やめて、近付かないで!」

「いや、いやー!!」

ブチッ

あ、殺ってしまった。

先程まで生きていた虫の死骸がそこにある。

「よくも私の可愛い虫を殺したな」

「わ、わざとじゃないから!」

「お願い、許して!」

私達は、ひたすら謝る。

すると……


「あはは、あはは、ようこそ私の可愛い蟲の楽園へ」

一斉に蟲が、私達に向かってくる。

「キャー!!」


「これで、ゆっくりお話できる」

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