ストーカー

「君のハートを~奪いたい~♪」

「MINAMIちゃ~ん!!」

今日もライブは大盛況。

「みんなありがと~MINAMIも大満足!!」


「お疲れ様です!」

「お、ミナミちゃん。お疲れ! 今日も可愛かったよ!」

「ありがとうございます! プロデューサーさんの笑顔も見れて、MINAMI、大満足です!!」

私は、ライブ後も元気に振舞っていた。

「ミナミ、お疲れ様」

近衛このえマネージャー! お疲れ様です!」

「今日も大盛況だったわ。本当に凄いアイドルね」

「褒めすぎですよ~」


私は、高校生からアイドルをしている。

最初の頃は売れなかったが、新曲『君のハートを奪いたい』で大人気になり、可愛いボイスとルックスで、男女問わずファンが増えていった。

付き合いたいアイドルランキング第1位にランクインする程の爆発的人気・響生ひびきミナミとは私のことだ。

みんなからMINAMIって愛称で呼ばれている。

そんな私には、最近悩んでいる事がある。

夜遅くに帰っている時、後ろから誰かに付き纏われている気がするのだ。

いわゆる、ストーカーだ。

今日も誰かに付き纏われている。

「ストーカーなんてもう、うんざり……」

私は、早歩きで自宅に帰って行った。


「MINAMI、到着で~す♪」

いつものテンションで楽屋入りした。

「お、MINAMIちゃん! おはよう! 今日も調子いいね~!」

「プロデューサーさん、おはようございます!」

「ミナミ、おはよう」

「あ、近衛マネージャー、おはようございます!」

近衛マネージャーは、私の顔を見るなり

「ん? ミナミ、今日はなんか元気無いように見えるけど、どうしたの?」

と、心配そうに言った。

「そうですか? 私は、今日も元気です!!」

「そう。あまり無理はしないでね」

近衛マネージャーは、いつも私を気にするので、今日も心配してくれたと思った。

「これを飲んで更に元気になってね」

渡されたのは飲料水だった。

「あ、ありがとうございます!」

ゴクゴク。

いつもなら飲料水とか渡さない筈なのに今日の近衛マネージャーは何か違った。

まぁ、近衛マネージャーは優しいし気にしないけど。


「ふんふ~ん♪」

今日出演するトーク番組を、鼻歌を歌いながら準備していた時のことだった。


カシャッ!

突然、シャッター音が聞こえてきた。

ん?

周りを見ても誰もいない。

気のせいかな?

「ミナミさん、スタンバイお願いしまーす」

「はーい」

スタッフさんがそう言ったので、一旦私は、周りを確認して楽屋を出た。


トーク番組が始まった。

司会の方と出演している芸人の方が面白いトークをしていた時、目の前の景色がグルグルと回り始めた。

「では、MINAMIちゃんは最近の悩みって何かある?」

司会の方が私に向かって質問をしてきた。

「そうですね……」

ストーカーの事を言おうとした瞬間、私の視界が歪みだした。

え?

バタンッ!

「ちょっ、MINAMIちゃん!!」

私……、一体……。


「ん……」

私の目の前には、天井が。

「ここは……」

「ミナミ!!」

近衛マネージャーが心配そうに私を見ていた。

「大丈夫? 急に倒れたから心配したのよ」

「番組中に目の前が歪みだして、いつの間にか倒れてました」

「歪んだって……」

近衛マネージャーが、考える仕草をして言った。

「ミナミ、今日は特に元気無いみたいね。何かあったの?」

「実は……」

ゴクリと唾を飲み、近衛マネージャーは真剣な眼差しで見てくる。

「ストーカー被害に遭っていて……」

「ストーカー!?」

「はい。最近の悩みです」

「何で私に言わなかったのよ!」

「怖くて……」

私は、俯きながら言った。

すると……

「大変だったわね」

近衛マネージャーが、私に抱きついてきて優しく言った。

「今日は、私と一緒に帰りましょう」

「近衛マネージャー……。はい! お願いします!」


私の隣には、優しい近衛マネージャーが一緒に歩いている。

「もっと早く言えば良かったですね」

私は胸を撫で下ろす。

「そうよ。私が対処してあげたのに」

本当にこの人は、優しいな。

近衛マネージャーとの帰り道は、とても楽しい。

ずっと続けば良いのにと私は、思った。


あっという間に私の自宅の前に着いた。

「今日は、ストーカー被害に遭わずに済んだわ。私のおかげね」

「はい! 本当にありがとうございました!」

「ふふっどういたしまして」

近衛マネージャーは、微笑みながら返した。

「あのー、明日も一緒に……」

恥ずかしがりながら私は、近衛マネージャーに頼む。

「ごめん。明日、用事があってね」

申し訳なさそうに言う近衛マネージャー。

「そうですか……」

残念だな……。


次の日は、ちゃんと仕事をやり切った。

これでストーカー被害に遭わなくて済むなと私は、軽い足取りで帰路につく。

すると……


「うぅ……」

後ろから、誰かの唸り声が聞こえてくる。

気味悪いと思った私は、早く歩いた。

それと共に、唸り声も付いて来る。

何なの……今日はいつもと違う……。

「うぅ……!」

唸り声が間近から聞こえてきて、誰かに腕を掴まれた。

ヤバいと思った私は、腕を振り解こうとする。

しかし、その手はがっしりと私の腕を掴んでおり、離れようとしなかった。

「は、離して下さい!!」

勇気を振り絞って言った瞬間。


「……姉さんが殺した……って言ったのに……生きてるじゃん…」

ストーカーが意味深な事を言う。

「あなた、誰?」

気になった私は、そう聞くと予想もしてなかった返答が来た。


「……僕……近衛……」

近衛!?

「じゃあ、あなた…近衛マネージャーの弟さん?」

と、言うと

ストーカーが頷いた。

近衛マネージャーから弟がいると聞いたからやっぱり弟さんなんだ……。


「……あれ? 昨日、姉さんから貰った飲料水……飲んでないの?」

飲料水?

昨日の事を思い出す。

「飲んだ……けど」

衝撃的な事実を知る。


「……あれれ? 睡眠薬入りの飲料水飲ませて殺そうとしたのに、何で平気なの?」

え?

近衛マネージャーがそんな事を?

「……せっかく、カメラで一部始終を撮ったのに…」

あ、昨日のシャッター音、気のせいじゃないんだ。

いやいや、今はそこじゃない。

「なん……で……?」


「……姉さんが、僕にいつも君の悪口を言ってくるんだ……『うざい』とか『可愛くないくせに可愛い子ぶっちゃって』とか……どんだけ嫌われているんだ……と思って……」

嘘……。

「……僕は、姉さんからストーキングを頼まれてさ……すごいハラハラするんだよね」

信じられない……。

まさか優しいと思った近衛マネージャーに嫌われているなんて……。

そんなの……そんなの……。

私は、今までのことを振り返る。

ずっと私に優しかった近衛マネージャー。

それが全部演技だなんてと思うと……心が……焼けるように痛い……。

「……僕は……君のストーカーになって良かったよ……君の後ろ姿を見るだけで……僕は……生きていける……」

やめて……

「昨日は……君が姉さんと一緒にいたから……ストーキングできなかったけど……

てっきり 姉さんが殺したと思って……」

やめて……

「デビュー前からずっと好きだったミナミちゃんに会えて……僕は……嬉しいよ……」

もう……やめて……

「ハハッ……捕まえたからこれで……やっと……、一緒に……死ねる……」

ポケットからナイフを取り出して笑う。


「……姉さんが殺さないなら……今ここで僕が……殺してあげる」

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