隣人

「今日から隣に越してきた油川あぶかわと申します。つまらない物ですが受け取って下さい」

「あ、ありがとうございます」


私の隣に引っ越してきた油川さんから渡されたのは、食器用洗剤の詰め合わせだった。

「丁度良かったわ」

洗剤を切らしていたので、新しい洗剤が欲しかった所だったのだ。

「油川さんには感謝しないと」

早速、洗剤を使う事にした。

「この洗剤、凄く良いわ」

使い勝手の良い洗剤。


2日目。

「メロン食べたい!」

息子が突然、そんな事を言った。

「メロンね~。今、旬じゃないから無理なの」

「え~! 食べたい食べたい!!」

駄々をこね始めた。

「そう言ってもね」


ピンポーン。

誰か来たようだ。

「は~い」


ガチャ

「これ、要らなくなったからあなたにあげます」

「え? 油川さん、いいんですか!?」

「えぇ。私なりの気持ちです」

「ありがとうございます!」


油川さんから渡されたのは、よく病院のお見舞いで貰える果物の詰め合わせだった。

「本当に貰っていいのかしら?」

ん? 中には息子が食べたがっていたメロンが入っていた。

「拓真~! メロン貰ったから食べて良いわよ」

「ほんと? やったー!!」

私は、メロンを包丁で食べやすい大きさに切って、息子に渡す。

そして早速メロンを食べ始める息子。

「美味しい〜!」

「良かったわね」

メロンの他に、リンゴ、イチゴ、ブドウ、バナナなどが入っていた。

「後で食べよう」


3日目。

買い物を済ませてきた私は、家の近くを歩いていた。

「あ、すき焼きのタレ買うの忘れた」

もう一度買い物に行くのが面倒だったので、一旦買った物を家に置く事にした。

すると……


「え?」

家の前にすき焼きのタレが入ったバスケットが置いてあった。

そして、その近くには手紙が。


『私が使っていたすき焼きのタレ、もう要らないからあなたにあげます。油川』


「また油川さん?」

こんなに都合良くすき焼きのタレを貰えるなんてなんか気味悪い。

そして、今まで全部貰った物は、どれもタイミングが良かった。

「油川さん……」


4日目。

「犬が欲しい!」

またもや突然、息子がそんな事を言った。

「我儘言うんじゃありません!」

「だって、犬可愛いから欲しい~!!」

昨日、可愛い子犬特集の番組を見た影響で息子が犬を欲しいというのだ。

「はぁ……犬飼うのとても大変なのよ─」


ピンポーン

突然、インターホンが鳴った。

「は~い」

画面を確認すると、油川さんの姿が。


ガチャ

「これ、要りますか?」

「え、えぇ一応貰っておきます」


ズシンッ!

重たい。

「これ、何が入っているんですか?」

油川さんに質問したら、油川さんは無言のまま帰って行った。


「何なのよ」

重たい箱を開ける。

すると……


「肉と骨?」

謎の肉と骨が入っていた。

「気味悪いわね」

隈無く箱の中身を探っていたら、不思議な物が。


『ポチ』という名前が書いている首輪だった。

そして、私は察した。


「これ、犬の肉と骨?」


5日目。

昨日貰った犬の肉と骨は、倉庫の奥に大事に保管している。

もし捨てたら、何か怖い事が起こりそうだからだ。

「これ以上変な物貰ったらおかしくなりそう」

油川さんの事を考えながら思っていた。

すると……


ピンポーン

インターホンが鳴った。

「今度は何?」

画面を確認すると、そこには油川さんの姿が無かった。

ただ、謎の箱が置かれていた。

不思議がりながらも恐る恐るドアを開ける。


ガチャ

「何……これ?」


ズシンッ!

犬の肉と骨が入っていた箱とは、比べ物にならない重さだった。

「何なのよ、これ」

箱を開けると……


謎の肉塊が入っていた。

「うわ……気味悪い……」

箱の中には手紙が。


『私の肉塊を入れておきました。美味しく召し上がって下さい』

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