第4話
宿屋も滞りなく事が進み。色々と考えなければならないのにどっぷりと眠りに落ちてしまっていて起きたのはいまの昼過ぎあたり。ベッドは二つあって案の定というか想像通り床に寝ると云い始めたホクトをベッドに寝かしたのを覚えているけれど、そこからあとの記憶はいまだった。
街の宿屋は素泊まりとは一線を画す高級感がある。ベッドもさることながらシャワの浴室があるのが大きい。そんな高級な利用道具を使わないのは宝の持ち腐れなのは解っているのでホクトが使用していても不自然さの理由はなかった。水が弾けて落ちる音が耳朶に触れる。隣のベッドに畳まれた衣類があるのを確認して腕立て伏せを開始した。習慣はそうそう抜けてはくれない。云われていたからしていた修行は気づけば生活の一部になってしまっている。
「きゃっ!」
条件反射は煩悩に従順で裸体の女性を眼福に納めた。
「下から舐めるように見たいがため腕立て伏せしているなんて、なんて準備万端なのかしら」
恥ずかしがっている人は臀部をもろもろ出しに両手で顔だけを覆ったりしませんよ。
なんだろう。
何でこんなにムラムラしないのだろう?
引き締まって張りのある素肌は魅力的なのに不思議と顔を隠されてしまうと冷静な気持ちになってしまう。ずぶぬれ姿を思い出してしまうのはそういった性癖が生まれてしまったのかと思ったけれど、最初の悲鳴の恥らしい声のほうがかなり魅了されたと思う。いや、条件反射でした。
腕立て伏せして下を向いているのでさっさと着替えてください。
「そんなことを云って盗み見をするつもりね。泥棒だけに」
――旦那様、雑念を抱いていると怪我をしますよ』
そういえばナンノは云っていた。筋力トレーニングで腕立て伏せが身体の体幹を鍛えるには十分な運動になると。胸、背中、腰、腹、尻。応用系で肩、腕、脚、足、意識を集中させて負荷をかける。けれども、意識するのが慣れていない内は回数を重ね自身がやり易く乱れたフォームで自然と負荷をかけている部分を痛めさせ次回からはそこを痛みで使わないようにする。荒々しさがあっても解りやすい体験はこうやっていま生かされている。
一回、二回、三回と回数を重ねていくと意識している部分に疲労が溜まっていくのを感じる。百回、二百回、三百回と身体が負荷を求めてくる。千回、二千回、三千回と終わりが見えない修行に精神をすり減らしてくる。九千九百九十九回までやってきて、あと一回になったとき。
そんなとき、よくおっぱいが襲ってきて気絶してたなぁ。
「ご主人様?」
ふぎゃん!
気づけば腕立て伏せは止めており床に潰れた果実のように腹ばいになっていた。
雑念よくない。
背中に重みがある。これは女性の臀部の感触。この素晴らしさを持っているのは知り合いではたった一人だけだろう。
「ご主人様、何百回も声をかけたのよ。無視は酷いわ」
え、そうでした?
頭を上げると背中には着替えを済ませたホクトが座っていた。
「ほら、汗をかいているから水浴びをしてきてはいかがかしら」
毎度のように飄々として云ってると思っていたけれど、珍しく彼女の表情は初めて見るような真剣みを帯びた顔をしていたのが目隠しをしていてもよく解る。
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