第9話

「前に、一度みんな全員の生徒が此処に集まったよね?少し慣れたから、これから先の事で気を抜かない様に注意をするだとかで。 食事し終わってから話をするからって。」 皆黙って聞いている。           「あの時は、あのチェルシーの件の少し後 だったんだけど。私は芝やんやドリーと、 後は何人かとで奥の長いテーブルで食事を したんだけど。前後に5人位が座ってさぁ。で、千鶴子が私の前の方で。私の正面から3番目位に座っていたの。」        「あぁ、あの時かー?」          ドリーが小さな声で言った。       「それで私、もうあの時から千鶴子が変だって分かっていたから。だから何か気になってつい見ちゃったんだよ、食べながら何回か。そしたら…。」            「何?」                「その食べ方が異常なんだよ。お皿の上に 顔を、頭をさ、覆い被すみたいにして食べてるんだけど。ずっと下を向いて。それで  一応フォークは使っているんだけど、それは形だけって感じで、食べ物をすくう様にしながら口に流し込んでるんだよ。物凄く早くね。そうしながらたまに目だけをキョロ  キョロと左右に動かしながら廻りの様子を 伺ってるの!それから又下を見て同じ様にすくい込むみたいに食べて。それから又しばらくすると頭を持ち上げて、首を左右に振りながら廻りを見て確認してさ!そして又頭を 下にして、お皿の上に覆いかぶせて食べて。この動作をずっと繰り返しながら、急ぎながらガツガツ食べて…。あれは丸で動物の食べ方だよ。野生動物が、そうした番組でたまに見るけど、狩った獲物を食べながら廻りの様子を気にしてさ。他の獣に取られない様に 一寸音がしても頭を持ち上げて用心して様子を見たり、食べながらも注意して、耳や目が辺りに注意をしている、あれだよ。」   「そんなまさかぁ?!」        「本当に動物みたいだったんだよ。うちも 犬がいるし、やっぱり頭を器に入れる様に して食べるもの。あんな食べ方、人間で見た事がないから!幾らマナーが悪いとか言っても、そんなのとは丸で違う…。しかも一回 なんて目が合っちゃって!そうしたら私を ジーっと見つめてさ。動物みたいな目付きって言うか雰囲気で。やばいって思ったけど 目をそらしたらまずいかと思ってそのまま見ていたら、しばらくしたら又下を見ながら 食べ始めた。だけどその目付きがさ、お前の事も分かってるんだぞって感じの表情だったよ…。」                 皆黙っていたがドリーが言った。     「だけどそんな馬鹿みたいな事、本当にあるのー?」                「昔からあるじゃん、そうした事が!風水だとか。鬼門だとか。ほら?皇居だって半蔵門だとかがあるし。」           「風水?皇居?半蔵門?何、それって?!」だがそうアンジェリンが言うと石黒さんも 居達さんも納得した様な顔をした。    「それに私、分かるんだよ。」      「何が分かるの?」           「だから、千鶴子がそうした何か化け物だとか悪霊が着いているのが。」       「何で?!」              「私が、…犬だから。」        「犬?!アンジェリンは人間でしょう?」 「本当には犬じゃないよ。」       「じゃあ何?」             「あのね、私は小さな時にいつも犬と一緒に置いておかれたんだよ。ママが、私が産まれる前からずっと働いていて、いつもいなくて。朝、会社に行って夕方に帰るんだけど。普段はだからおばあちゃんしかいなくて。それで後は飼い犬が、雌の犬がいてさ。中型犬位のサイズのが家の中にいて。庭にももう 少し若い雄犬が結かれていたんだ。で、この犬達とよく一人で留守番をさせられていたの。産まれてからずっと,。小学生になってもそう。おばあちゃんとは買い物に行ったりしていたけど、もっと小さな時はうちの中でこの雌犬とずっと、殆ど毎日何時間か一緒にいたよ。そうしたらある時から犬と話ができる様になってさ。」           「話ができる〜?!どうやって??」   「頭の中で。テレパシーって言うか、頭の 中でお互いに思った事が分かるの。凄く良くね!」               「嘘?!それにテレパシーって何それ?!」居達さんはそれを聞くと、アンジェリンを ジッと見た。              「心の中で話す事かな?で、私が余り犬の真似ばかりするからおばあちゃんが怒って。 一回、しばらくは離されちゃって。2週間位かな?襖を締めて、棒を襖に斜めに置いて 開けられないようにしたり、衝立を置いたりしてさ!あんたは人間なんだよ、人間なんだから犬の真似をしちゃいけないってあんまり言って怒るから、途中から仕方ないから話すのを止めたの。だけど凄く悲しかったし、 向こうもガッカリしてさ。でもその内にそれが普通になっちゃってね。もう前みたいには話せなくなっちゃった。でも、それでもまだ色々分かるんだよ。まだ少しはね!」   「信じられないよ、そんなの!!」    「じゃあ、試してみる?」        「何するの?!」            「今、この食堂のキッチンからトレーを持って出て来る学生がどこに座るか。どこのテーブルに着いて食べるかを当ててみるよ。」 丁度そう言っていると、奥にあるキッチン から眼鏡をかけた女子大生がお盆に食べ物を乗せて出て来た。            「じゃあいくよ、良い?」        女子大生は一瞬キョロキョロと周りを見回した。空いたテーブルは幾つもある。    「ドリーも当ててみて?」        「そんなの、分からないよ!!」     「あそこ!あの後ろの奥。」        女子大生はアンジェリンが言ったテーブルへ行くと、座って食べ始めた。       ドリーは驚いて見ていた。        次には男子学生だ。彼は軽く周りを一瞥した。そして最初の女子大生の様に、誰も座っていない、空いているテーブルが並んでいる方へ向かった。             「次は、あそこの真ん中のテーブルだよ。」アンジェリンが自信有り気に言うと同時に その学生は真ん中のテーブルに行き、席に 着いて食べ始めた。           「ど、どうして?!」          三人目は背が小さな、やはり男子学生が出て来た。彼も出て来ながら周りを見回した。 ドリーはアンジェリンの顔を真剣に見ている。                  「彼は?」               アンジェリンは彼を観察した。      「あの奥に2つあるよね。あの、右!アッ、一寸待って?右、じゃあない。左だ!!」 その青年は左のテーブルに着いて食べ始めた。                  「何で分かったの?!」         この時は居達さんもアンジェリンの顔を  ドリーの横から覗き込んで驚いた表情をしていた。                 「ねっ、当たったでしょう?」      「私は全然分からなかったけど…。」   アンジェリンは次にエントランスを見た。 じっと聞き耳を立てた。それから目を閉じてから開けた。              「じゃぁ次は入り口を見て?あそこからもう直ぐ誰か入って来るよ。多分女が。」   「誰か入って来る?そりゃあ食堂だもん。 入って来るでしょ?」          カフェテリアはまだ余り混んではいなかったが、アンジェリン達のテーブルから入口は、10数メートルは離れていた。      「うん、だから10数え終わる前に誰か女がね。じゃあ普通に数えるね?」      アンジェリンが普通のスピードで数え始めた。                 「1、2、3、4、5、6」          すると女子大学生が入って来てキッチンの 方へ食べ物を取りに行った。     

「本当だ?!」             アンジェリンは又目を少し閉じて軽く下を 向いてから、ドリーを見た。       「次は男。でなきゃ体が重い、太った女だよ。」                 「何で目を瞑るの?」          「その方がしっかり集中できるから。」   「集中?」               「うん、そう。」             そんな事を言っていると、若い男が入って 来た。男子学生だ。           「じゃあ次は…。」            アンジェリンは目を閉じなかった。    「今度は複数。2,3人だね。それも殆どか、全部が女!」            少しすると女の子が3人、話しながら入って来た。                 「凄ーいっ?!」             ドリーは目を丸くした。石黒さんも居達さんもアンジェリンの顔を凝視していた。   アンジェリンはドリーにせがまれて後二人を当てようとしたが、どちらも失敗した。  「何だ、もう駄目なの?」         ドリーががっかりした。         「もう駄目、集中できない。無理!普段は わざわざ意識してやらないし、しても何度 もしないからね。もう疲れちゃってできないよー。」                「でも凄いね、アンジェリン。私はそんな事できないから。どうやるの?」      「うん。最初のは、動作。観察していると 目や体が、少しだけど座る方に向くだとか、行きそうにするの。」          「じゃあどうして入り口から誰か入って来るのが分ったの?」            「気配。音や気配で分った。」       「だって性別や人数だとか、どうして?!」「聞こえたの、足音が。男の足音の方が普通は女よりも少し重いから。だから男か、重たい女だって思った。複数の女達も、かすかに話し声が聞こえたの。女の声が何人か。 2、3人位のが。だから複数で、女ばかりか女の方が多いのかと思ったの。」     「だって私は何も聞こえなかったよ?!」 「前にもそういうのは当てた事があるんだ。小学生の時に何回か。みんな、びっくりしてたよ。小さな時は今より分かったからさ。 でも今は、昔よりは分からないかもね?でも、だから分かってくれた?だから千鶴子の事も、そうなんだよ。」

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