第8話

「実はさ、私、この間爪切りを探してたんだ。足の爪が伸びちゃったから。だけど私の机って色んな物が置いてあってキレイじゃないから。だから中々見つからなくて、探してたの。まぁ、結局後から出てきたんだけど。そうしたら、教科書だとか何かの下に、チェルシーが一箱あったのを見つけてさ。」 「チェルシー?何、それ?」         「お菓子だよ。飴みたいな、硬い。」「飴?!」              「キャラメルみたいな形で、薄い箱に入ってるの。10粒位が。」           「ふ~ん。」             「で、それが出て来たんで…」      「そんなの、何が千鶴子に関係あるの?」「だからそれが出てきたんだけど、それは バスでみんなで空港に向かう時に、見送りに来てくれたママが私に買ってくれたの。近くに売店があったからそこに飛んで行ってさ。」                 「それがどうしたの?!」        「それで、もうアメリカに行ったら中々日本のお菓子なんて食べられないんだから。だからあんたこれ好きでしょ?、って行って2個買ってくれたの。違う味のヤツを。」   「それと千鶴子と何にも関係ないじゃないの?!」                アンジェリンはイライラして来た。    「良いから黙って聞いてよ。」       そして続けた。            「で、一個は飛行機の中で食べてさ。周りの子にも少しあげたら話もできるし、つまらなくないよ?、話してたら楽しいから、って ママが言うからそうしてさ。だから一個は もう無いんだけど、もう一箱あったんだよ!忘れてたんだけど、それが部屋にあって出て来てさ。」               「だから千鶴子とそのお菓子、何も関係ないでしょう?!」             「うるさいな、黙ってなよ!!あるから話してるんだよ、大ありなんだから。嫌なら聞かなくて良いから、いちいち茶々入れないでよ?!」                アンジェリンはドリーに腹が立って喚いた。ドリーはアンジェリンの態度に驚いてやっと黙った。                この時、居達さんも驚いてアンジェリンの 顔を一瞥した。             「それで、あぁ、あの時のチェルシーだ、と思って手に取って見てたら、いきなり千鶴子が入って来て!私の直ぐ側に立ってチェルシーをジーっと見ながらこう言うの。ねー、 アンジェリン、そのチェルシー頂戴、   って。」                  皆は黙って聞いている。         「でも嫌だって言ったんだよ。せっかくママが買ってくれたのに。だから大事に食べたいもの。だってもう簡単に買えないし、中々 手に入らないもの。日本とかの、アジア系のお店に行かなきゃ。そんなのここら辺に無いじゃん?リトルトーキョーとかに行かなきゃあ、多分。あったって、きっともっと高いし。」                  アンジェリンは一寸休むと又話し出した。「なのに千鶴子、凄くしつこくて!絶対に くれって言って聞かないんだよ。だから、 ママが買ってくれた事を言って、普段は食べないから、大切にしたいからって。食べる時には必ず少しあげるからって言ったんだよ。嫌だけど仕方ないからさ。なのにそれでも、自分はチェルシーが大好きだから頼むからくれって言って、それじゃ今食べようって言ってどうしようもないんだよ。だからもう、 キッパリと駄目だって言ってしまおうとしたら…。」                 アンジェリンは恐ろしそうにしながら言った。                  「千鶴子、いきなり下を向いてさ。何してんだろう?、って思ってたらパッと上を向いて!その時の顔がもうさっきと全然違ってて、凄い顔で。もう豹変してて!!鬼みたいな顔で、男みたいな低い声でこう言ったの!ねー、あんたそれ私にくれないの?!」  皆は一応に驚いている様だ。       「あんまり驚いたから何も言えないでジッと顔を見てたら、今度はこう言うの。あんた、チェルシーくれない気?、って。又凄い声で。」                  皆は黙っている。            「もう、本当に恐くなっちゃってさ。どう しようかと思ってたら、いきなりバッと又 いつものニコニコ顔になって、アンジェ  リン、ねー、チェルシー頂戴?お願い、  頂戴?!、って何度も言うの。私ももう嫌だから、そんな物で恨まれるの!だってもう 気狂いじみてるんだもの。だからもう良いよ、あげるよって言って。結局全部あげたよ。半分に分けようかぁ?、なんて言った けどもう気持ち悪いし早く行ってほしいから、一箱全部やるよって言って、無理に追い返したの。あっちで食べてなって言って。 私は 宿題のプリントを探してるからって 嘘ついて。だからもうしばらくは来ないでって言って、追い返してから直ぐに内側から トイレのドアに鍵をかけて。来られない様にしてさ。」               「で、どうしたの?!」         ドリーが聞いた。            「しばらくは何も言ってこないし鍵がかかってるから安心してたんだよ。だけど1時間位したら呼ぶの!アンジェリン、アンジェリンって何度もしつこく。」         「何で?」               「分からないから中から何でか聞いたんだよ。何の用だと思って。でも来てくれって 凄くしつこいんだよ!幾ら忙しいって言っても。ほら、あの子、凄いしつこいじゃん?」「じゃあどうしたの?」        「もう行くまで呼び続けるだろうし、うるさくてどうしようもないから。仕方ないから 行ったよ。」              「何だったの?」            アンジェリンは又怯えた顔をして話し出した。                  「そうしたらベッドの上に座って、壁に寄りかかりながら片方の膝を立膝ついててね。 チェルシーの包み紙が全部ベッドの上に、 自分の周りに散らかしてあって!箱まで丸めて放ぽってあって。それでチェルシーをもう全部食べたみたいで最後の一個を口の中で ガチガチ噛んでるの。噛み砕いてるの!! 歯を剥き出しにしながら。その顔が凄くてさ。丸で獣が何かを食べてるみたいな。周りの包み紙なんかも動物が食い散らかしたみたいな感じだし。獣が他の動物を殺して食べた、その後の残骸が何かみたいに感じたよ!それでギラギラした目でこう言うの、噛み 砕きながら。もう、アンジェリンが全部くれたから食べてたら歯が痛くなっちゃったよ〜?!みんなアンジェリンのせいだよ〜、って。」                 石黒さんは凄く不快な顔をしながら、千鶴子に呆れている様だ。居達さんも大きく目を見開いてアンジェリンを見ている。ドリーも ポカンとした顔で聞いている。      「それで、用って何なの?って、恐いけど 聞いたんだよ。まさかそんな事を言って攻める為じゃないと思ってさ。そしたら、別に 無いよ。、って。エッ?、って 驚いたら、只アンジェリンにもう一回お礼を言おうとしただけだからって、そう何度も 笑いながら言うの。」                アンジェリンは言った。         「あれは、多分動物の霊が着いているんだと思う…。」               「動物の霊?!」            ドリーが素っ頓狂な声を出した。他の二人も驚いている。              「うん、そう。あれは多分、…狐憑き。」 「「狐憑き〜?」            「うん。」               「何それ〜っ?」            「狐の霊が着いてるの。」        「アンジェリン、頭がおかしいんじゃないのー?!」                ドリーはゲラゲラと笑い出したが、二人の 男達は笑っていなかった。        「おかしくなんかないよ!おかしいのは  千鶴子だよ。そんな物が着いてるんだから。」                「だって、そんなのあり得ないよ?!」  「あるよ。私には分かる。だってもう一つ 凄い事があったんだよ、千鶴子には。」  「まだあるの?!」           三人は不審そうな顔をしながら話を待った。

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