第31話 絶望へのカウントダウン1

結局、俺は青春先輩のいっていた‶マジリ″なるものを理解することは出来なかった。まあ、それはどうでもよくて青春先輩に認められ、リレーメンバーに選ばれたということだ。それそのものは非常にうれしかった。これまでは長距離のみでリレーになど出たことはなく、メンバーに選んでもらえたという事実が俺にはかなりぐっと来た。練習にも力が入るというものだ。



放課後になり、俺は颯爽と校庭へと向かう。最高の気分だ。


「今日はやけに調子がよさそうだね。何かいいことでもあったのかい?」


そういってきたのは池だ。相変わらずのイケメン面に少々腹が立つがそれは県予選のときに憂さ晴らしをすればいい。池も俺と同様、長距離走に出場することになっている。練習段階ではまだ俺のほうが早いが、本番で化ける人間もいる。池もそっち側の人間かもしれない。油断は当然できないが、それはそうと俺の機嫌は最高潮だ。池のイケメンにも今は全く気にならない。いつもなら気になりすぎてやばいが、今日も今日でやばいみたいだ。


「今日はいつも以上に気張れそうな気がするんだよな」

「そういえば、リレーメンバーに選ばれたんだよね?同じ一年としては誇らしいよ」


俺もお前みたいな人に会えて誇らしいよ。

言葉にはしないが、俺はそう思った。俺を誇らしいなどとは冗談であっても言われたことがない。これまでの頑張りが無駄なんかじゃなかったのだと無条件に信じられる。


「でも、大橋くん。練習量が増えてきつくなってくるんじゃないかな?」

「気張るときなんだよ、今が。男の意地を魅せるときが来てしまったか」

「……………ごめんよ、大橋くん」

「…………?急に何謝っているんだよ」

「僕はこれで失礼するよ」

「ちょ、おい。い―――――――

「良太」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


いきなり肩をたたかれなんかとんでもない声が漏れ出た。後ろで立っていた加藤は俺から距離を取ろうとしている。なんか女子に引かれているという事実に先ほどまで浮ついていた俺の心が落ち着きを取り戻していく。


「な、なんだ。加藤か」

「なんだとは何よ?練習するんでしょ?」

「あ、ああ」


さっきまでの勢いはどこへやら。加藤の冷たい視線に耐えかね俺はさっさとグラウンドへ向かう。まだまだ本格的な夏には遠いもののそこそこの暑さだ。水分補給も忘れてはならないな。


俺はジョギングを兼ねて少し軽めに走り出した。体が少し重いような気がする。疲れが取れていないのだろうか。練習量が増えてきているのもそうだが、リレーメンバーに選ばれたという責任からか最近少し寝不足気味だ。今からこれでは本番まで持たない気がする。


(気張らないとな。ここで結果を残していかないと練習が無駄になったような気分になるし)


ジョギングを終えると俺はいつもの練習を開始し始めた。



「はぁはぁはぁ」


俺は休憩を兼ねて日陰で休んでいた。今日は調子がいいもんだから、疲れが残っていることを忘れていた。スポーツドリンクを飲みながら俺は考える。


(このあと、何をしていくか。リレーの練習もあるだろうから、もう少し体力は温存しとかないといけないけど、短距離専門じゃないからそっちの練習もしときたい)


俺が日陰で考え事をしていると


「良太、大丈夫?」

「··········?大丈夫だけど」

「それならいいのだけれど··········顔色、少し悪いわよ」

「···········!」


俺は顔を手でベタベタ触ってみた。顔色が悪い。全く予想していないところからの攻撃に俺は驚いた。俺は知らず知らずのうちに体調を崩していたのだろうか。気づかなかった。気づく余裕がいつの間にかなくなっていた。


「大丈夫だ。もう少し休んだら再開する」


加藤の心配そうな顔を無視してそう言った。今無理しないでいつするのだという話だ。俺はスポーツドリンクを飲み、そして軽く伸びをするとグラウンドへ向かった。

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