第三章

第24話 プロローグ

『人を守れる人間になりなさい』


無能と両親から、兄弟から言われ続けていた俺に祖父はそう言った。困っている人が見たら手を差し伸べろ、と祖父は言った。


俺は祖父のことが好きだ。無能と言われ、家から追い出されて倉庫の中で暮らしていた俺に手を差し伸べてくれた、そんな祖父のことが好きだ。俺がこれまで心が折れずに生きてこれたのもきっと、いや確実に祖父のおかげだ。


そんな父祖は俺みたいな人を見つけたら助けるようにと言った。それは一見、当たり前のことのようでいて人ができないことであり、人助けができる人は周りから認められる存在になれると祖父は言った。


『俺はそれをするだけの力がないよ?』


祖父の言葉に対して俺はそう答えた。実際、勉強もスポーツもなにかもが俺にはできない。クラスでも下から数えたほうが早いくらいに俺にはできるものがない。


『そんなことは関係ない。力があっても威張ってるだけの人だっている。だけどな、誰かのために手を差し伸べるというのは、誰にでもできるほどに簡単なことじゃない』


祖父は真剣な顔でそう言った。その言葉には実感がこもっていた。


その他にも祖父は言った。


人助けに理由なんてものはない。困っているから助けた。それだけで理由なんてものはありやしない。

人助けをしたことで何かを求めたりしてはならない。そんなゲスのやり方は人助けをしたことにはならないから。

人助けをするときは自分の命を懸けろ。手を抜いたりしてはならない。その人を助けたい一心で必死に食らいつけ。


そして――――――――。


『お前を認めてくれる人たちのことを大切にしなさい』


祖父はそう言ってニコリと笑った。



「がァァァァァァァァァ」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


思っていた以上に痛い。


「良太!大丈夫か!」


池が俺に駆け寄ってきてそういった。俺は痛みに耐えながら、


「いつも冷静な池が慌てるなんて珍しいこともあるもんなんだな」

「バカ言うな!こんなときに冗談言ってる場合じゃ·······!」

「冗談言わないときついくらい痛いんだよ、池。察してくれ」


俺は痛みを発している自分の“左腕”を見ながらそう言った。俺の左腕は変な方向に曲がっている。赤く腫れ上がり、骨折していることは間違いない。


(これは、やっちまったな······。青春先輩に謝らないと)


俺は空を見上げて現実逃避をしていると、俺の視界が少し薄暗くなった。


「·····怪我はなかったか、加藤」


ぽたぽた。俺の顔に水がたれてきた。水と言っても普通の水ではない。加藤の涙のしずくだ。


「わ、私のせいで·····ぐす····ごめんなさい」

「·······俺が勝手にやったことだから、気にするなよ」


俺はそう言って加藤に向かって笑いかけた。




⚫ 第三章開幕!

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