死鬼

「あなたは、ひとりで船を作っているの」


「そうだ」


「とっても時間がかかるのではないの」


「そうだな」


「ずっとここにいたの」


「いたよ」


「わたしが――投げ入れているのを知っていたの?」


「ああ」


 知ってたよ、とその人はまた笑った。


「いつかどこかで聞いたとおりだ。色のい『墓の森』に棲む死鬼。死者の魂を喰いむくろを拾って谷に落とす。きみが運んだ骸がああして玉骨石の塔に育ち、僕がそれを倒し、削って、船にする」


 仮面をつけたその人は、塔の欠片を手にしている。

 塔は残骸からできている。

 残骸はわたしがこの谷に投げ入れた、骸。


「ねえ。あなた、わたしを何と呼んだの」


 すると仮面の船匠は、はっきりとこう言った。


「死鬼。

 墓の森に持ち込まれる死者の魂を喰い、屍をどこかへ片付けてしまう、生命いのちのおわりの案内人」


 わたしは――、


 たちがこの森で、拾い、喰べているものは。

 この谷に投げ入れ続けたものは。


 びと




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る