そうして初めて、谷に残骸を投げ込むのをやめた。

 崖に張り付くような細い階段――元々あったのか、ある日生まれたのかは分からない――、そこを降りていくときに、自分が森と同じ木炭色の布靴を履いていることを初めて知った。

 無彩色の谷は灰色をしていて、底まで降りても森より明るかった。


 谷の底には、わたしがこれまで投げ入れた残骸の残骸が降り積もっている。

 乳白色の、多くは細長い、時には丸い、人の残骸。

 それが塔のように積み上がっている場所があり、近付いてみると細かな残骸はすでに溶け合って、一体の塊となっていた。

 同じような塔が、谷の中にはたくさんあるようだった。


 乳白色の明るい林のようなその場所を、わたしは歩く。

 わたしは塔たちを近くで見るのが好きになった。

 塔は天に伸びようとしている。

 ここには、動きがある。


 わたしは毎日、拾い集めた残骸を谷の底まで運ぶようになった。



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