今日もまた僕は南口営業所行きのバスに揺られる

 降りるのは南台センター前だ。

高校時代から変わらず使うバス 駅から片道15分の道。


あの子と何度も乗ったバス

僕はいつも思い出に浸るこの15分。





 はぁ.......やっぱり可愛いな


僕は毎日同じクラスのあの子に見惚れていた。


明らかに黒板と違う方を眺める僕の視線に気づくと

彼女は気まずそうに微笑んでくれる。



小中高同じ学校のあの子


――――小学校の時初めて話した時のこと


「ねぇ、あと一人必要なんだ。一緒にしよう」


班を作って街探検に行く学級行事で、余りものの僕に声をかけたあの子。

優しい目をしてた。

綺麗なブラウンのじっと見たらドキドキするくせに目が離せなくなった。


こんな、ドキドキなんて意味はないんだ

僕はただのクラスメイト、哀れで拾われたぼっちだった。



☆―――――高校時代



彼女の横には中学の時からの彼氏がいる

こうへい君だ。


こうへいく君は、爽やかで色気があってスポーツ万能友達も多い.....イケメンだし

誰もが憧れる、みんなに好かれる、女子にも囲まれるあの子にお似合いだ。


二人は絶対的なカップルだった



この小さな新興住宅地で、同じ小学校

同じ中学校を出た僕らは、みんな知ってるカップルだ



高校からは、ちょっと明るいキャラ目指した僕

何を血迷ったか、生徒会に立候補した。

副会長枠の対抗馬は、こうへい君だった......。



立候補したことが恥ずかしくなった。

なのに、僕は当選した。全学年男子生徒の同情と勇気へのエールをもらったようだ。


それから、絶対的なカップルと僕は、友達という枠組みに入れられる。


ちょっと外からあの子を眺めてるのが良かったのに

友達と呼ばれる存在になってしまった。


だからひとりで、僕はあの子に、さよならをした。心の中で......。


でもある日


「別れようだって、こうちゃんが......」

「え?なんで、って言っても僕が聞いたってね.....大丈夫?」


期待なんかしてない

さよならしたんだから、こんにちははない


ただ泣く彼女を見守るしかなかった


どうせまたよりを戻すんだろって思った

僕が入り込む隙間なんてない


彼女と僕は、帰りのバスに二人で乗った。

それ以来毎日。


バスで僕は持ちゆる限りの知識を使いどうでも良い会話をする。

じゃないと、間がもたなかった。

山道のカーブでちょっと傾いてぶつかる肩を気にしないように

また、さよならからこんにちはが出てこないように。


「ミイデラゴミムシってさ、知ってる?」

「知らない」

「お尻から100度のガス出すんだって。外敵から守るため」

「へぇそれってオナラってこと?」

「うん」

「すごいね、怖いね」



誰もそんな僕らを噂にもしない、僕らは絶対的な友達だから。


こうへい君は離れていった 僕らから。

彼には他に沢山の世界があった。



僕の気づかいなんて知らずに

二人はそのままカップルには戻らず卒業を迎えた






大学へ進みバラバラになった僕たち

僕は、予想通りカノジョいない歴=年齢を貫いていた

カノジョを作る事に労力も使わなかった




僕は今バイト帰りのバスに揺られている


何度もあの子と乗ったバス

意味なく二人で終点の南口営業所まで行ってから歩いて帰ったバス



『次は〜南台センター前 南台センター前』


ひとりの女性が立つ

つり革を持つ、しなやかな指先、清楚な長い髪、

あの子だった


卒業以来会っていない

会おうともしなかった、できなかった

でも、このバスに乗る度 僕はいつも思い出してた


バスが停留所まで後数分

何度も小さく咳払いし喉の調子を整える僕


次第に他の乗客も立ちだした


あの子はバス停に向かって手を振った


そこには、こうへい君がいた

絶対的なカップルの相方だ


絶対的な友達だった相方は座ったまま

用意した定期券に30円を足した



『次は〜南口営業所 南口営業所 終点です』

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ラズベリーパイ 南口営業所行き 短編集 江戸 清水 @edoseisui

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