第22話『友達以上恋人未満』

桃葉ももは!」

 目の前の少女は暗い目をしたまま振り返る。

「どうしたソラ。つきっきりで看病してあげないの?」

 それも大事だけど、看病する相手が、こっちの方が大事って言ったもんでね。

「ソラはスミレに必要とされてんだよ。ウチはいいから、帰りな」

「そんなことないだろ! 桃葉だって十分…」

「じゃあ!! スミレはなんでウチがご飯作るって言った時断ったの? ソラの時は頷いたのに」

「それは、桃葉に迷惑かけたくなかったんだろ」

「迷惑じゃないし! じゃあなんでスミレはソラの方が美味しいって言ったの?」

「それは僕とか関係ないよ。どっちが作っとか言ってないし…ただ本当に僕の方が美味しかったってだけだろ」

「ソラが帰って来た時すごい嬉しそうな顔してた」

「食べたかったプリンが届いたからだろ」

「ウチのあーん、最初拒んでた」

「僕はしてない」

「ウチのキス凄い拒んでた」

「僕はしたことないけど、多分拒まれるんじゃないか?」

「遊園地の時…二人で楽しそうにしてた」

「遊園地なんだから当たり前だろ。誰ととか関係ない。あそこは楽しむ場所だ」

「ソラの事は好きなのに、ウチは親友だし!」

「親友だって十分すごいだろ…ってちょっと待て。僕の事が好き? 誰が?」

「スミレ」

「ちょっと被害妄想が過ぎるんじゃないか?」

 そう言うと、桃葉はさっきとうってかわり、死にそうだった目に生を宿らせた。怒りという感情を、涙という形にして。

「スミレに必要なのは鈍感系主人公じゃない! もっと向き合ってよ。スミレの事大切にしてあげてよ。ウチの代わりに。ウチの分まで」

「大切にって…あいつ、本当に僕のことが好きなわけじゃないだろ…?」

「そうだったら、どんなに良かったか。ウチは、スミレとソラが付き合うのに反対だった。あんたはスミレに釣り合ってないって思ってた」

「お前はすみれの何なんだよ」

 なんとなく訊いただけだったが、彼女の琴線に触れたらしい。

「親友……だからなんだよぉ! ヒック…ハァハァハァヒッ」

 彼女はその場に泣き崩れる。僕は彼女にかけるべき言葉を知らない。

 友達以上恋人未満=親友、か。

 どれだけ泣いたかはわからない。ただ僕は彼女が泣き止むまでただひたすら待った。


「あのさ、ソラはウチとスミレがいつから仲良いか知ってる?」

 息を整えると、彼女は最初にそう切り出した。

「えっと、中学?」

「違う!」

 秒で否定された…

「ウチらは、小学校も幼稚園も同じで、仲良くしてた。幼稚園の時につるんでたのは、チカって子をトップに構成された七人くらいのグループ。これで分かんない?」

 聞き覚えのある名前が出てきた。

「それで、話したことがあるんだよ。『誰が一番理想の男の人と結婚できるか勝負しよう!』って」

「それは…」

「つまり、ウチは知ってんの。あの時スミレがなんて言ったか。スミレもソラも、真実を」

「え? 菫は、『みんなの好きな男の子を合体させたみたいな男の子と結婚する!』って言ったんじゃ…」

「違うよ!」

 またもや秒で否定された…

「あの子の聞いたら、ウチらがカッコいい人とか言ってたのが馬鹿らしくなったから覚えてる。まぁ、本人にそんな自覚はなかったみたいだけどね」

「で、なんて言ったんだ?」

 その問いかけにそっと口を開くと、菫の思いを声にした。

「『私が好きな人と結婚して、一緒に仲良くずっと過ごすの』それが、あの子の本当の理想だよ」

「は?」

「で、続けてこう言った。『だからさ、みんなの好きな男の子を合体させたみたいな男の子となら、できるかな?』」

 そんな馬鹿な。菫が、自分の言った事を忘れていたってことかよ。

「だからスミレの理想は、みんなの好きな男の子を合体させたみたいな男の子と結婚する事じゃなくて、自分の好きな人と結婚して、一緒に仲良くずっと過ごす事なんだよ。だから、ソラ。スミレの好きな人あんたがやるしかないんだよ。スミレの本当の理想を叶えられるのはあんただけだ。まだ見ぬイケメンでも、みんなの好きな人の集合体でもない。あんたが、スミレと、結婚すれば、スミレは、幸せになれるんだよぉ!」

 わかれ!

 と最後に彼女は付け足した。息切れしている。相当興奮したんだろう。幼稚園からの親友の幸せのためだもんな。

 だから言ったのだ。

『スミレの事大切にしてあげてよ』

 これは、菫を気遣うとか、そういう意味じゃない。菫の理想を叶えて、幸せにしろという意味だ。

「あんたが、スミレを幸せにしないなら、ウチがスミレと結婚するから」

「いや、百合展開はマジでやめろ」

「それが嫌なら、スミレを大切にするんだね」

「…できるか、分からないけど」

「やれ」

「…はい」

 それを聞くと、百葉は嬉しそうに笑った。

「よろしい。てか、『百合』は言えるんだね」

「あ、まぁ。花の名前じゃん?」

「割り切り方がすごい! あぁ、あと一つ。あんたから告白するようなことは絶対にないようにね」

 彼女は釘を刺すように言う。なんだかさっきと矛盾してないか?

「スミレがソラと付き合うのは多分悪いことだけど、スミレが告ったなら話は別。勇気出して告ったのに振られたなんて事になったら、一生残る傷になるからね。告らず、告られたら受けて。それで、スミレが告んなかったらウチ的にはハッピーエンド」

「それでいいよ。僕も、人と付き合うのはよく分からないから」

 それを聞いて桃葉はフッと笑う。

「それなら良し! じゃあウチは帰るよ。スミレには満足げに帰ったとでも言っといて」

「うん。だけど桃葉からも連絡しとけよ」

 お互いにそう言い合って、お互いの家に帰った。



「でも多分、スミレはソラに告白するだろうな。なら…応援すべき、なのかなぁ。あ、もしもしジン? 話があるんだけどさ…」


 1-2END



【次章予告!】

 やっほー! 金子桃葉だよ。

 ウチの可愛い可愛いスミレが、更に可愛くなる1-3の予告するからよく聞いてね。

 1-3の舞台は夏休み! つまり……水着回! スミレの水着が見たい? ウチは見たい。写真に撮って残したい。

 ということで、いろんな服を着たスミレの可愛い姿が見られる、スミレのメイン章1-3『十文字じゅうもんじ円花まどか』よろしくね!

 章のタイトルがスミレじゃないけど、スミレのメイン章だからね! だってスミレは、他のキャラにメイン章を取られるのが禁忌とさえ思えるほど純粋で優しい子メインヒロインだから。

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