第34話『語り部は蒼空、解説は蒼桜でお送りします』

 流れるプールとは、その名の通り、水が流れているプールである。ぷかぷかと浮いているだけで移動し、泳ぐ必要がないため、家族連れからカップルにまで人気のエリアである。


 蒼桜が手を叩き、ゲームが始まる。

蒼桜「マジカルバナナ! バナナと言ったら黄色」

菫「黄色と言ったらレモン」

仁「レモンと言ったらクエン酸」

桃葉「クエン酸…」

 罰ゲーム執行。桃葉、水中息止め十秒。

桃葉「マジカルレモン! レモンと言ったら酸っぱい」

円花「酸っぱいと言ったら梅干し」

蒼空「梅干しと言ったらクエン酸」

蒼桜「クエン酸ナシ!」

 罰ゲーム執行。僕・仁、水中息止め三十秒。


 プールを一周半ほどした時、仁が疲れたと言って離脱。円花ちゃんもそれについていった。

 それを機に僕も泳ぐペースを少し遅らせ、みんなの輪から外れた。

 残ったのは全員女子。仁が言ったことが本当なら、男子がいると話しにくいことを話し始めるはずだ。

 予想通り桃葉が辺りを見渡す。男子の不在を確認し、目を輝かせて菫に飛びついた。

「ずっとこの時を待ってたんだよ。恋バナしよ恋バナ」

 正直僕は桃葉のポジションを把握しきれていない。菫の本音が知りたい僕に協力的なわけではなく、菫と僕を付き合わせたい蒼桜に協力的なわけでもない。今まで見た感じだと、楽しい方についているように感じる。

 故に菫と恋バナが好きなJKたる桃葉は彼女の意思によらずとも僕に協力することになった。

「恋バナって、何するの?」

「何って決まってんじゃん。スミレの好きな人について根掘り葉掘り聞くんだよ」

「でも、周りに人いっぱいいるし…」

「へーきへーき。どうせ知らない人だし。興味持ってる人いないもん」

「仁くんと蒼空は?」

「ジンはテント行ったし、ソラは…どっかで一人で遊んでんじゃない?」

「わかった。話すよ」

 よし。よくやった桃葉。

「じゃあさ、かき氷買いにいかない? 食べながら話すよ」

「んー、いいよ。何味にする?」

「イチゴかな」

「じゃあウチはブルーハワイにする」

「あれ? モモいつもレモンじゃん」

「今日はもうレモンいいや」

「それもそうだね」

 そう言って二人はプールを上がった。

 計画から少しずれたが、このチャンスを逃すわけにはいかないと僕も二人についていこうとしたが、誰かに腕を掴まれた。

「予言しよう。ついてったら菫さんにそれがバレて、彼女はもう二度と人前で好きな人を言うことはなくなるでしょう。そしてあなたが彼女の本音を聞くこともできなくなるでしょう」

 変なテンションの蒼桜だった。いや、これが平常運転か。

「作者権限か?」

「うん」

 なら従っておこう。作者権限を語る蒼桜が間違えることはない。

「そんなに知りたいの? 桃葉さんから聞いて正解は知ってるはずなのに。1+1の答えを2と知っていながらグーグルで検索するようなもんだよ」

 なんだよその例え。だけど、正しいな。

「いつか本人の口から聞ける機会を用意するから。焦らず待ってて」

「うん」

「本当? ずっと菫さんのこと気にしてたみたいだね。前話の最後の決意はなんだったのか」

 そ、それは…

「楽しめ蒼空兄。青春は一回しかこないぞ」

「そうだね。…よし、悩んでてもしょうがない。蒼桜何か食べる? 買ってくるよ」

「焼きそばと、フランクフルトとうどん。かき氷も!」

「奢りじゃないぞ」

「ケチ。じゃあ焼きそば」

「わかった。それぐらいだったら奢るよ。今日のお礼」

「わーい! やったー!」

 蒼桜は全身で喜びを表現した。単純なやつだ。

 だけど、僕は単純なこいつに助けられてる。


 夕方。

 着替えを終えた僕は、話があると先に更衣室から出てきた蒼桜と今日を振り返った。

「蒼空兄、楽しかった?」

「まあね」

「でも、菫さんと二人きりの方が良かったんじゃない?」

 こいつはいつも的確に真実を突いてくる。

「いつも家で二人きりだからな」

「またまたぁ、無理しちゃって。11日、円花ちゃんうちで預かるよ。だから、ここ行ってきな。もちろん二人きりで」

 彼女がそう言って差し出したのは花火大会のポスターだった。

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