第13話 まさかのプロポーズ

「少し話がしたい」


 いつもなら部屋に入ってすぐナニなところを、珍しく領主の息子からテーブルにエスコートされたの。

 息子はアタシをイスに座らせた後、自分は座らずに姿勢良く立ったまま、珍しく言葉を選んでいるみたい。アタシは思わずその立ち姿に見入ってしまったわ。


 出会ったときは生意気な男子だったのが、育ったわよねぇ。18歳になったばかりとはいえ、もうすっかり大人と変わらない体格じゃない。

 やっぱりこの土地が豊かだからかしら。

 でも、アタシはあいかわらず成長が遅くって、体格はもちろん、身長差も20センチはあるの。いくら成長しても差が縮まる気はしないわね。


 じっと見ていたら、真剣な目と合って、ガテン系だけど領主一族として教育された美しい立ち居振る舞いで、領主の息子はきれいに頭を下げたのよ。


「まずは礼を言わせてほしい。状況を改善してくれてありがとう」


「どういたしまして。って言っても、アタシの都合でもあったし、実行したのはアタシだけじゃなくって、アンタもみんなもでしょ? アタシに頭を下げることないわよ」


 領主の息子は真面目な顔を上げて続けたの。


「そうだとしても、最初のきっかけを作ってくれたことに変わりはない。本当に感謝している」


「お役に立てたのなら良かったわ。でもアタシだって、ここをおうちみたいに感じているんだから、そんなに気にしなくていいのよ」


「ここを自分の家みたいに感じている、と?」


「そうよ。いつまでいられるかわからないけど、自分が住む場所なんだから、快適にするのは当然でしょ」


「もし、このままここで暮らしてほしいと言ったら、どうする?」


「もちろん喜んで暮らすわよ。三人のこと大好きだもの」  


 男前な領主の奥さんは、一家の大黒柱たるお父さん的な存在であり、みんなを見守ってくれるお母さんでもあるのよね。本調子に戻った奥さんは、なにがあっても動じないっていうの? 安心感がスゴいわ。


 気さくなおばぁちゃんは、そんな奥さんをさりげなく支えてくれている。最近は趣味の小物作りで、お屋敷に少しずつ可愛い小物を増やしているのよ。おばぁちゃんの手作りなら安心だし、草太世界で売っていても人気でそうなくらい、芸術面も技術力も高いのよ。


 領主の息子のことは、最初は正直、こじれた弟みたいに感じていたわ。でも最近は仕事もエッチなこともできる。いつの間にか、頼りになる相手に育っていたのよね。


 なにより、みんなアタシを普通の聖女として扱ってくれる。


 男女だとか、おかしな存在じゃなくて、ただの聖女として見てくれるみんなと一緒に暮らすのは気負わないでラクだし、みんなで考えて設置した魔方陣魔石の効果ったら、草太世界よりも快適なんじゃないかしら。


 今のお屋敷は、まさにアタシが描いていた『夢のおうち』って感じで居心地がいいのよねぇ。


「聖女じゃなくなっても一緒に暮らしてほしい。だから、これを食べてくれないか?」


 真剣な表情で息子が取り出したのは、不思議な形をした木の実だったわ。


 なんでいきなり木の実を食べる話に? って思うわよね。

 実はこれ、この世界でのプロポーズなのよ。

 木の実の種類に決まりはなくて、なんでもいいの。

 ひとつの実を二人で交互にかじり合ったらプロポーズ成立よ。

 ごめんなさいの時はかじらずに返すの。


 木の実はなんでもいいとはいえ、一般的には強くて丈夫な木になる実が喜ばれるみたいね。「結婚してからも二人で末永く共にいられますように」って意味だからですって。

 次に多く選ばれるのは、パートナーが好きな果物や木の実でね。


 でも、最近はプロポーズする時に差し出すよりも、結婚初夜に食べさせ合う方が多いのよって先輩聖女が話して……って!


 アタシの目の前で、領主の息子は、その手に持つ木の実を一口かじった。

 そして、そのままアタシに差し出した。


「アタシ聖女なのよ」

「ああ」

「でも、男なの」

「知ってる」

「聖女じゃなくなったら、ここにいられる理由がなくなるわ」

「だから、聖女じゃなくなっても一緒に暮らしてほしいんだ」


 息子はさっきと同じ言葉を繰り返した。

 それって……。


「ずっと一緒にいて欲しい」

「!」

「一緒に、いてくれるか?」


 まっすぐな瞳に射ぬかれたアタシは、胸が一杯になって言葉が出せなかった。

 口を開いたら泣いちゃいそうだったから、なんとかコクンとうなずいて、差し出された木の実をかじったの。

 やわらかな皮ごと口に入った甘い果実がのどを通った瞬間、身体が熱くなったわ。


「なに? ん、んぅ」


 混乱しているアタシに、領主の息子は、さっきの果物をかじってはアタシに口移しで食べさせる。

 じゅるじゅると、甘い果実と熱い舌でアタシの口の中はいっぱいになった。

 少しずつ飲み込むたびに、甘い汁が首筋を伝っていくのも感じるくらい、身体が敏感になっていくのがわかる。


「あっ、はぁっ。……んんっ」

「最初は痛くしたくない、から」


 首筋を舐め取り始めた領主の息子は、言葉通り、慎重に丁寧にアタシをほぐしていった。

 気づけばアタシは自分のベッドの上に横たわっていたわ。

 アタシがすっかりぐずぐずになってからも、息子はあらためて言ってくれた。


「愛している。聖女じゃなくなっても一緒にいよう」  


 聖女に必要なのは祝詞のりとと純潔。


 だから領主の息子はアタシに何度も言っているのね。

 聖女じゃなくなってもここから追い出さない。

 聖女じゃなくなっても一緒にいてほしいんだって。


 ミもフタもなく言うと「聖女じゃなくなった後のことは心配しなくていいから抱かせろ」ってことよね。


 アタシだって抜き合うだけじゃおさまらなくなってたし、ここまでアタシを求めてくれるんなら聖女じゃなくなってもいいわ。

 聖女じゃなくなってもエルフの知識はなくならないんだし、ここでアタシにできることはきっとまだまだあるはずだもの。


 というか、どうでもいいから早くシて欲しい。

 欲しくてほしくてたまんないんだけど。

 あの木の実ってば、なんなのよ?

 初夜に食べさせ合うと媚薬効果が出るものなの?


「んぁっ。もうっ。ちょうだいっ」


 くるりとうつ伏せにされて、ゆっくりと熱い身体がかぶさってきた。


「あっ、あぁっ」

「くっ」


 表情が見えないのが残念だけど、きっとアタシの身体に負担がかからないように配慮してくれたのね。

 領主の息子は背中側からアタシをぎゅっと抱きしめて言った。


「ありがとう。ずっと大事にする」


 ここまでまっすぐに求められたことは草太時代にもなかったから、多幸感があふれてきたわ。


「ふふ。ありがとう。アタシもずっと大好きよ」


 答えた瞬間、ふわぁっと気持ちが良くなって、なにかがあふれて広がっていくのがわかったわ。


 聖女の歌として口ずさんだわけじゃないのに、なんていうの? 畑で植物育成するときみたいなのの強化版に癒しの効果を足して、さらにキラキラさせた感じっていうの? って、キラキラってなんなのよ?


 なんにしても、おかげで木の実で酩酊めいてい状態になっていたアタシと息子の意識も、すっかりさっぱりしたわよ。


「……今の、聖女の力だったな。ということは、聖女のままなのか?」


「……そうみたいね。もしかして、同性同士では聖女の力は失われないのかしら?」


 自分でもびっくりしていたら、領主の息子が動き出した。


「え? なんで?」


 ここは正気に戻ってナえる場面じゃないの?


「良かった。それなら回復できるから遠慮することはないな」

「ちょっ。いきなり、はげしっ」

「ごめん。もう抑えられない。ずっとこうしたかった」

「ひゃ、あ、ふあぁっ」


 あっと言う間に二人とも果てたんだけど、息子の元気は少しも衰えなかったの。

 そのままアタシは横向きにされて、片足を抱えられて揺さぶられる。


 え。なんで続けてできるのよ?

 若さ? 若さなの?


 アタシは草太の記憶もあるし、この身体は今まで散々、息子に開発されてきたから後ろだけでも全然イけるのよ。ドライオーガズムも極めちゃってるから続けてもイける。その分あとでぐったりしちゃうけどね。


 息子は違うでしょ? なんでそんなに元気なのよ?

 領主の息子って、草太世界で言うと高校生くらいだから、性欲が爆発しちゃった感じなの?

 でも、今まで絶倫体質じゃなかったわよねぇ?


 とかなんとかあえぎながら考えてる間に、また体位が変わって、三回戦目に突入してるし。

 真正面から向かい合って、抱きしめられながらぐりぐりされる。

 気持ちイイのとぎゅっとできるのが幸せで、やっぱり聖女の力があふれてしまったわ。


「っくぅ。あぁ。すごいな。さすが聖女。これなら何度でもできそうだ」

「はあ? ……ぁんっ。それっ、ふかいぃっ」


 今度はアタシの両足を息子の肩にかけられて、そのまま四回戦目に。


 そうなの。

 なんと息子の絶倫状態は、うっかりあふれ出る聖女の回復力ゆえだったみたいなのよ!


 純粋に嬉しそうな領主の息子が可愛いし、求められてアタシも幸せだし、なんといっても気持ちイイしで、聖女の力はあふれ続けて、結局一晩中っていうね。

 おかげでこの世界に生きてきて初めて黄色い太陽を拝むことになったわよ。


 後から知ったんだけど、あふれた聖女の力で、領内は空前のベビーラッシュになったそうよ。 

 先輩聖女のお子さんが無事に産まれたのはなによりだったわぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る