再開の射

 久しぶりの弓道場に踏み込む時、怖気付いた。でも大丈夫。今日はいい助太刀を呼んできたから。


「弓道場って、中こんな風になってたんですね。」

「そうよ。え、もしかして、青葉くんは、妹弓道やってるくせに初めて見たのぉ。」

「違いますよ。澪さんがいつもここで練習していたと思うと、感慨深くて。」

「・・・えっ」

「なんですか。ダメですか。」


うるさいが、まあいいとしよう。二人を呼んだのは、自分は支えられていることを自分に自覚させるため。そして、いつもは言えない言葉を言うため。


「ことや、千鶴。」


私の声に二人が振り向いた。心の中で祖母にも呼びかける。板間の土色が眩しい。


「––––ありがとう。見ててほしいの、私が頑張るところ。気づいていると思うけど、私調子が悪かった。でも、このままではだめだって思ったの。ずっと独りよがりに練習して、落ち込んで、失敗して、八つ当たりして。本当ひどいよね。ごめん。」


千鶴が首を振るのを横目に、私は頭を下げた。


「でもね、気づいたの。私は一人じゃないって。ことやが言ってくれたの、私たちはチームだからって。その時思った。私はみんなに支えられてたんだって。だから、私を見ててほしい。」


二人が頷く。今更だが恥ずかしくなった。


「あと、それから。応援してもいいですか。」


顔を上げると二人とも笑っていた。


「もちろんだよ。」

「頑張ってください。」


秋の綺麗な空から祝福の金風が舞い上がった。


 祖母の言葉を思い出しながら丁寧に射法を作っていく。前なら人前で弓を引くのは緊張していたが、不思議なことにこの上なく余裕があるのが分かった。体も固まっていないし、呼吸もしっかりとできている。良い射になりそうだ。


 狙いを定め、会。良い塩梅の力が加わったのを感じ離れ。的中の音が響いた。残心。拍手が聞こえ振り向くと二人が嬉しそうに笑っていた。祖母の笑い声が聞こえた気がする。

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