男子生徒

 それからというもの、箏の音を聞くと畳の部屋に行くようになった。


 が、私は未だに男子生徒の名前を知らなかった。しかし相手は私の名前を知っているようだったので聞こうにも聞けず、結局千鶴に聞いた。


 あの髪の色でしかも編入生であるので、校内では有名なようだ。千鶴は私が他の生徒に興味を持ったことが面白いのか、いたずらっ子のような顔でご機嫌に教えてくれた。


 男子生徒の名前は、青葉ことや。生活指導部から髪の毛について指導を受けているが、地毛でもないのにどういう訳か黒に染め直すことを拒んでいる。


 中学生の頃は荒れていて、町内では悪名高いらしい。今でも他校生とやりあっている、だとか。学校に来る頻度は低く、来ていても教室にいることは滅多にないらしい。ことに体育の授業は一度も出たことがないそうだ。


 どうやら、彼が箏を弾けることは噂になっていないようだった。彼と秘密を共有しているようで嬉しくなった。千鶴が一通り話し終えた後に


「一度話してみたらわかると思う。彼の良さ。」


と呟くと、呆気にとられたように固まっていた。いつかみんなが気付いてくれますように、と密かに祈った。

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