入学式

 学校に近づくと大勢の生徒の姿が見えた。桜並木を超えたところが佳實学園。ケイジツって言いにくい。自分の学校の名前を声に出す機会はあまりない。噛まないようにしないと。完璧な新入生代表でなかったら、きっと皆んなガッカリするだろう。


「けいじつ。」

と口に出して練習しておく。千鶴が心配そうに覗き込んできた。


「ちょっと、大丈夫?もしかして緊張してる?」


千鶴の困ったような顔を見るのは辛い。彼女の純粋な目に見入りながらも

「いや、大丈夫。」

と呟き顔をあげた。

 その時、黄色い頭をした男子生徒が自転車で横切った。うちの学校は髪の毛を染めるのも、自転車通学も校則違反なのに。

「変な人。」

私はそう呟いた。


 入学式が行われる体育館に移動すると、体育館いっぱいに人が埋まっていた。


「見て、音宮さんよ。」

「本当だ。この間の期末試験も学年一位だったみたい。」

「さすが社長令嬢ね。」

「才色兼備の御令嬢。漫画から出てきたような人だな。」


 そんな囁きが聞こえる。私は音宮社長の娘であることを隠し、悟られないように普通の人を演じていた。しかし、ついに中学生の頃なぜか忘れたが、気づかれてしまった。もしかすると異様に完璧にこだわっていたからかもしれない。


 それからと言うもの、少なかった友達はもっと少なくなった。だから、私は自分が令嬢であることが嫌だった。しかし、普通の人として行動するわけにもいかず、中途半端な立ち位置にいるのだ。

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