プリン
鳥野ツバサ
プリン
風呂上がりに食べようと買っておいたプリンが無くなっていた。おそらく妹にとられたのだろう。
「なあ、俺のプリン食ったろ?」
「えー、知らなーい。名前書いてなかったし」
次の週。カップに名前を書いた。
冷蔵庫内のど真ん中に丁寧に洗ったカップが鎮座していた。
「なあ、俺、プリンに名前書いたよな?」
「うん、だからカップは取っといたよ」
次の週。蓋を開けてフードペンでプリンに直に名前を書いた。
小皿の上にスプーンでひと掬いされたプリンが乗っていた。
「なあ、俺プリンに名前書いたよな?」
「うん、だからそこだけ取っといたよ」
その日から、俺はプリンの一番下まで名前を書ける技術の研究を始めた。
ネットで支援を募集すると、かつて兄弟姉妹とプリン争奪戦をした資産家から多くの資金を借りることができた。
3年後。クロマトグラフィーの要領で一番上に名前を書くと真下に浸透していくプリンとフードペンを開発、特許を申請して認められ、大手製菓会社に売り込んだ。
需要があると受け入れられ、製菓会社の商品開発担当とさらなる研究を重ね、商品化に成功した。
売れた。
プリンを取り合う兄弟に売れた。
娘と、家に遊びに来た娘の友達のためにおやつを探す母親に売れた。
バカップルに売れた。
誕生日ケーキの代わりに売れた。
新たなキャンバスを求めるアーティストに売れた。
プロポーズリングのケースとして売れた。
バカ売れした。
そして――
「ねぇ、おにぃの買ってきたプリン食べていい?」
妹は食べていいか聞いてくるようになった。
「おう、好きなだけ食え」
俺はプリンを取られても気にしないほどの金持ちになっていた。
プリン 鳥野ツバサ @D_triangle
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