推等と旅するヲタク達

オンライン忘年会、〆ます

「……といった次第だったのです」

　そう言って、ふ～じんは、翼葵の全国ツアー、ファイナルの名古屋公演の話を締めくくったのであった。

「断片的な事は、兄貴から、少しは話を聞いてはいたのですが、こんな風にして、当事者であったみなさんから直接お聞きすると、もう驚きしかありません。

　天候不良のせいで、初日のライヴに遅刻しそうになったり、肉離れしても構わず跳びまくっていたり、〈推し〉が濃厚接触者になってツアーの前半に出演しなかったり、その〈推し〉が地上波で伝説的な行為をしたり、会場のスピーカーから音が出なかったり、勘違いから遅れそうになったと思い込んで焦ったりなどなど、そして極めつけは、演者さんの声が出なくなったり、わずか二ヶ月足らずの間なのに、よくぞ、ここまでって言うぐらい、本当に色々な出来事が次々に起こった、凝縮された濃いツアーだったんですね。

　自分は、未だイヴェンターを始めてから二年が経っていないので、こんな経験したこと全くないですよ」

　この夏の翼葵のツアーに関しては、シュージンと一緒に関東のライヴのみに参加した、佐藤兄弟の弟の方、冬人こと〈イヴェール〉は、こんな感想を漏らした。

「でも、あれですね。

　これまでの経験から言うと、たとえ感染症下じゃなくても、普通にツアーを回っていると、必ず、誰かが途中で体調を崩して、それが〈身内〉の間で拡がっていましたよね。

　だから、ホッとしたのは、感染症がなかなか収まらない、こんな〈御時勢〉でしたが、ツアーそのものは一ヶ所も中止にならなかったし、アタシ達の〈身内〉の中から、一人の感染者も、濃厚接触者も出すことなく、みんな無事にツアーに往けたってのは、ほお～んと、奇跡だと思うんですよ。

　……………………………………。フルカワさんのことは括弧に入れておくとして」

　他ならぬ〈ロワ〉推しのじゅ姐さんがそう言った。

　オンライン・ミーティング・アプリの無料版は、一回ごとのセッションが〈四十分〉に区切られており、セッションが切れるたびに、新たなミーティング・ルームを作らなければならない。そのため、今回のオンライン忘年会のホストであるグッさんは、一回のセッションが終わるごとに、新たなルームを開くことを繰り返していた。

　ふ～じんは、仕事で、自分でもオンライン・ミーティングのホストを務めることもあるので、グッさんの、今回のホストぶりには頭が下がる思いであった。

　楽しい忘年会での、話は尽きることはなかったのだが、オンライン飲み会は終電がないゆえに、このままでは無限にセッションを続けてゆくことになりそうだったので、日を跨ぐ前、二十三時後半のセッションを最後の回とし、忘年会は〆られる事になった。

「まあ、ツアーも無事に行われて、今年の夏は、アオイちゃんにいっぱい会えたし、いい一年やったね。

　んで、年が明けたら、二月には東名阪のツアーも控えているし、みんな、来年もアオイちゃんを、しっかと〈おし〉てこな」

「グッさん、ツアーの前の一月後半に、武道館の〈ヒアアニ！〉の三日目がありますよ」

「じんさん、そう言えば、そうやったな」

　日本では、三つのアニメ・ミュージックの大型フェスが行われていて、一つが、夏の〈ナツアニ・メロメロライヴ〉、一つが、秋の〈アニミックス〉、そしてもう一つが、冬の〈ヒアアニ！〉であった。

　〈ヒアアニ！〉は、同名の雑誌『ヒアアニ！』主催のライヴで、これは〈Ｈｅａｒ　・アニソン（アニソンを聞け）〉と、〈Ｈｅｒｅ・アニソン！（ここにアニソンがあるよ！）〉の二重の意味が掛けられているのだそうだ。

　翼葵は、二〇一一年の十月に「メモワール」でＣＤデビューする以前に、雑誌『ヒアアニ！』にて付録となっていた「氷眼」でプレ・デビューを果たしていた。

　そして、デビュー十周年である二〇二一年の十一月には、『ヒアアニ！：翼葵十周年特集号』が刊行されており、そういった状況下において開催される〈ヒアアニ！〉の三日目の出演なのだ。

　これは、もう期待しかない。

「自分、予言しますね。もしも、〈ヒアアニ！〉でも、アオイさんが〈鳳〉になったら、グッさん、またポロポロって泣きだしますね。間違いないですね」

「じんさん、よしてぇ～な」

「「「「「「「「「「「「ハハハハハハハハハハハハ」」」」」」」」」」」」

「んじゃ、ミーティング、終了のカウントダウン・タイマーが表示されたんで。ここで忘年会、〆よか。

　ほな、来年も、全力で翼葵を〈おし〉てくで。じゃ、〈エッ・エッ・ル～〉三回連続で、散会にしよか」

「「「「「「「「「「「「ＯＫです」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「エッ・エッ・ル～」」」」」」」」」」」」

「最後にもう一回、最高級のとびっきりの〈エッ・エッ・ル～〉、ゆくで～～～」

「「「「「「「「「「「「エッ・エッ・ル～～～～～～」」」」」」」」」」」」

「ほな、よいお年を。したっけ！」

「「「「「「「「「「「「したっけ！」」」」」」」」」」」」

　同時に、ミーティング・アプリの接続が切れた。

　かくして、翼葵を〈推し〉とするイヴェンター達の二〇二一年は〆られたのであった。

『推等と旅するヲタク達』　〈了〉