「そういえば、おめぇにひとつ頼みがあんだ。銀一匁(約一二五○円)やるから、ちょっとこいつを配達してきてくれねぇか? こっからすぐ近くだからよぉ」


 源次郎が取り出したのは、月夜が両手で持てるほどの小さな木箱だった。


「なんにゃ? これ」

自鳴琴オルゴールって言うんだ。開くと、音が鳴る仕組みになってんだよ」

「あけていいかにゃ?」

「おう」


 月夜がぱかりとふたを開けると、小さな音楽が流れ始めた。


「すごいにゃ。すごいからくりだにゃ」

「だろ? これの修理が終わったから、持ち主に届けてほしいんだよ」

「こ、こんにゃすごいもの、とちゅうでこわしちゃうかもしれないにゃ! ぼくはいやだにゃ!」


 月夜はずいっと源次郎に突き返すが、源次郎は笑って受け取らない。


「大丈夫だって! 一町先に、お武家さんがあるだろ? そこの娘さんからの依頼でな。おめぇさんなら、屋根伝いでちょちょいだろ?」

「こんな、せんさいなものをもって、やねのうえをあるけるわけないにゃあ!!」

「まぁまぁ。ほれ、銀一匁な」


 源次郎は強引に、月夜の鞄にお金をねじ込む。


「頼んだぜ!」

「にゃ、にゃあ~」


 ぽいっと家を出されて、月夜は仕方なく、そおっと鞄に自鳴琴をしまい、鞄を胸元に抱えて歩いて向かうことにした。

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