お蘭は、月夜の機嫌が直ったことに、ほっと息をついた。

 かつお節を食べ終えた月夜は、満足そうに顔をあらう。

 最後に手を綺麗になめ、月夜はお蘭の腕から飛び降りた。


「それじゃあ、そろそろいってくるにゃ」

「はい、いってらっしゃい」


 お蘭に見送られるかたちで、月夜は『化け猫亭』を出た。


 店の戸を閉め、月夜は鞄を開いて、文の束を取り出した。


「さいしょは……源じぃのところだにゃ」


 月夜は文の宛先を確認してから、再度、鞄の中にしまい、移動中に落ちないように、鞄の口をきゅっとしめた。

 月夜は両手も地面につき、四足歩行になると軽い身のこなしで、屋根の上に飛び乗った。


 月夜の頭の中には、江戸の町のすべてが記憶されている。行先の家もばっちりだ。


「きょうもしごとかいし、だにゃ!」


 月夜は元気よく、走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る