女性はおずおずと店に入り、お蘭に勧められるまま、がりかまちに置いてある座布団の上に腰掛けた。

 女性の髪型は、右側はしっかりと結っているのに対し、左側は長く髪を垂らして顔を隠すような髪型をしていた。それをお蘭は不思議に思う。


(お客さんは美人なのに、なんでまた顔を隠すような髪型なんて……。まぁ、お客さんのことを深く聞くのは、野暮ってもんだからねぇ)


 ふと、女性の隠されている顔の肌が一瞬だけ透けて、骨が見えた。


(なるほど。お客さんは、骨女ほねおんなかい。どうりで美人なわけだ)


 お蘭はやってきた客人が、人間の女性ではなく、妖怪の骨女だと悟る。骨女はどういうわけか美人が多い。


(それにこのお客さん、たしか……)


 そこへ白菊がお茶を持ってきた。


「お茶が入りましたにゃ」


「あ、ありがとう、ございます」


「にゃあ」


 緊張気味のお客に、白菊は優しく笑いかけた。

 骨女のお客は、お茶を飲んでほっと息をはきだした。お蘭は彼女が口を開くのを待つ。


「あの、ここのお店は、化け猫の手を、貸してくれるお店、なんですよね?」

「はい。私は店主のお蘭といいます。ここは、外の立て看板にあったように、化け猫がお仕事などを手伝います。といっても、手を貸すのは私ではなく、こちらにいる猫又の子ですが」


 お蘭はそう言って、白菊を手で示す。


「白菊ですにゃ」


 白菊はぺこりと、お辞儀をした。すると女性は湯呑みを置いた。


「私は椿寺の水茶屋みずぢゃやで看板娘をやっております、小春こはると申します」


 小春はお蘭たちに、軽く頭を下げた。

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