11

 喜助が足を止めたのは、家の一階部分にあたる奥の部屋だった。


「俺が任されてるのは、この部屋の床っす」

「まぁ、新人が任されるには、妥当だにゃ。さっそく始めるにゃ」


 紅丸は喜助の肩から下りて、向かい合うように立つ。


「まずは材料だにゃ。床の長さを測って、材木をその通りに切るにゃ」

「はい。長さを測ってっと」


 喜助はものさしで長さを調べ、新しい木材に印をつけて、のこぎりを手に持つ。しかし……。


「おい、喜助。なんでそんなへっぴり腰なんだにゃ!」

「え?」


 お尻を突き出した体勢の喜助の腰を、紅丸がぺしんっと叩く。


「いたっ。だ、だって紅丸さん。俺、のこぎり持つの、初めてで……」

「おまえ、なんで大工を目指そうと思ったんだにゃ」


 喜助に言葉に、紅丸は呆れた。


「その体勢じゃ、切れるものもうまく切れないにゃ。いいか? こうやるんだにゃ」


 紅丸は近くの余っていた角材を手に取って、台に乗せて、切る手本を見せることにした。


「まず、片手で材料を支えて、のこぎりは印をつけたところに当てるんだにゃ。そんなに力をいれる必要はないにゃ。少しずつ切り込みをいれていけば、角材は切れるにゃ。変に力を入れると、のこぎりの刃がぐにゃぐにゃするから注意にゃ」


 そう説明をしながら、紅丸は角材をあっさりと切って見せた。


「ほぇ。さすがっすね!」

「いいから、早くやれにゃ」


 紅丸は手で材木を示し、早く切るように、喜助を急かした。

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