お蘭は喜助を見て、小首をかしげた。


「お客さんは、初めていらっしゃる方だねぇ」

「え? 来る客の顔、みんな憶えているんすか? すごいっすね」


 喜助が「へー」と感心すると、お蘭はくすくす笑う。


「うちの店を利用してくれる人は、だいたい決まっているからねぇ。どうぞ、そこにおかけくださいな」


 上がりかまちに置いてある座布団を示され、喜助はおとなしく座った。

 お蘭は店の奥に向けて、声を投げかけた。


「白菊、お客さんにお茶を一つ頼むよ」

「はいにゃ」


 返事を聞いたお蘭は、喜助に向き直った。


「さて、ここに来たってことは、うちの子たちの手を借りたいってことだろうけど、どの子の手を貸してほしいんだい?」

「あ、えっと……」


 お蘭の問いかけに、喜助は焦った。仁平に「化け猫亭に行って、紅丸を借りてこい」と言われたものの、喜助は「化け猫亭」について何も知らなかったからである。


「すんません。俺、親方にここに行けって言われたけど、この店がなんなのか、いまいちわかっていなくて」

「そうかい。この店は、戸口の立て看板にあったように、化け猫の手を貸すんだよ。化け猫っていっても、私のような人型じゃなく、猫又だけどね。人手の代わりに猫の手を貸すってわけさね」

「はぁ」


 説明を聞いても、いまいち理解できない喜助は、気の抜けた返事しかできない。

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