第4話 とりあえず、拾った少女に名前を付けてみた


1日目4



【???に名前を与えますか?】

▷YES

 NO



文尾にクエスチョンマークがついているけれど、俺の心の中のクエスチョンマークの方が、もっと大きいはずだ。


名前?

勝手につけていいのか?


とはいえ、現状を打開できそうな手段としては、彼女をパーティーメンバーに加入させる事位しか思いつかない。

しかし、パーティーに勧誘するには、名前が必要なわけで……


名前、名前……

この少女、名無しだから、ナナシ……は安易過ぎだから、とりあえずナナでいいんじゃないかな。


俺は▷YESを選択した。



【彼女の名前を入力して下さい】

_ |_ _ _ _ _ _ _ _ _



ナナ、と入力して決定。


突然、目の前の少女の全身が金色の光に包まれた。



―――ピロン♪


【???にナナという名前を与えました】

【名付け親のあなたには、以下の義務が生じます】

【義務を果たせなかった場合、あなたは死にます】


1.ナナを死なせない。

2.ナナの力を一日一回解放する。



し、死にます!?

なんだよ、義務って……


俺は改めて義務とやらを確認してみた。


1は分かるとして……

2……ナナの力? 解放?


相変わらず動かせない首をひねっていると、突然、目の前の少女が口を開いた。


「あの……あなたが……名前を……ナナって……」


喋れたのか?

それとも、名前を付けた後、金色に光っていたけれど、あれで言語能力を獲得した、とかだろうか?

とにかく初志貫徹!


近くにいるパーティーメンバー候補者リストを確認してみると、無事、ナナの名前を見付ける事が出来た。

早速パーティーへの加入を勧誘してみた。


目の前のナナの眉がねた。


「あの……これは……?」


俺からは見えないけれど、今、彼女の前には、俺が今立ち上げたばかりのパーティー【死にぞこないの道化】への加入を勧誘するポップアップがたち上がっているはず。


「俺とパーティーを組んで欲しいんだ」

「パー……ティー……?」

「パーティーっていうのは、互いに信頼関係に結ばれた者同士が……」


一般的なパーティーの定義を口にしようとして、言葉に詰まってしまった。

何が信頼関係に結ばれた、だ。

俺はつい先程、4年もの長い間、一緒に過ごしてきたはずのパーティーメンバー達に裏切られ、殺されかかったのだ。


「とにかく、パーティーを組んでもらえないかな? 俺と組めば、君には凄いスキルをプレゼントしてあげるよ」


まあ、俺が能動的に与えられるわけじゃないんだけど。


「分かり……ました……」


彼女が▷YESを選んでくれたのだろう。

ポップアップが立ち上がった。



―――ピロン♪


『ナナが、【死にぞこないの道化】に加入しました』



そして……



―――ピロン♪


『パーティーメンバーにスキルを供与しました』



さらに……



―――ピロン♪


【【殲滅の力】を獲得しました。一日一回、ナナの代わりに力を解放して下さい】



―――ドサッ!



三つ目のポップアップが閉じた瞬間、俺は頭から地面に落下した。

激痛が全身を襲う。

これ、首イってないか?


「だ……大丈……夫……?」


ナナが俺の傍でしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込んできた。

俺は遠くなりそうな意識を懸命に繋ぎ留めながら、ナナに懇願した。


「【完救の笏】ってスキル、供与されてない?」


彼女は、俺が供与出来る4つのスキル――【必貫の剣】、【不壊ふえの盾】、【殲滅の杖】、【完救の笏】――の内、1つを使用可能になっているはず。

賭けみたいなもんだけど、もし【完救の笏】を彼女が引き当てていれば、俺の全身複雑骨折も、右足喪失も全て全回復してもらえる! はず。


ナナは少し戸惑った様子を見せた後、僕に両手をかざした。

彼女の両の手の平から、暖かい光が放たれる。



―――ピロン♪


『HPが全回復しました』

『MPが全回復しました』

『四肢欠損、内蔵損傷、骨折部位全て完全治癒しました』



ポップアップが、【完救の笏】が俺に対して使用された事を告げていた。


勝った!

賭けに勝ったぞ!


立ち上がった俺は、全身で喜びを爆発させてしまった。


少し落ち着いた俺は、改めて周囲の状況を確認してみた。

先程逆さまだった世界は、俺から見て、正しい位置関係を取り戻していた。

つまり俺は白い地面に足を付けて立っている。

そして地面から2m弱の位置には、大勢の人々が不自然な姿勢のまま、時が凍り付いたかのように、縫い留められている。

彼等の表情は、総じて絶望をそのまま焼き付けたかのように固まってしまっている。

さっきまでの俺もこんな感じだったのだろうか?

どうして俺だけこうやって動けるようになったのか分からないけれど……


俺はナナに話しかけた。


「ありがとう。助かったよ」


ナナが微笑んだ。


「よ……喜んで……もらえて……うれしい……」

「それで、ここってどうなっているのかな?」

「……?」


ナナは小首を傾げて固まってしまった。


「君は、いつからここにいるの?」

「……?」


その後もいくつか質問を投げかけてみたけれど、彼女からは一切、詳しい情報を引き出す事は出来なかった。

どうやらナナは、俺と出会う前の記憶を全て失っているようであった。

そうだ!

パーティーリーダーは、パーティーメンバーの簡単なプロフィールを閲覧できるはず。


俺はメニューを開き、パーティーメンバーの欄から、ナナの名前を選択してみた。



―――ブブッ!



【ナナのプロフィールは、参照出来ません】



……

なんでだよ!?


その後、何度試してみてもナナのプロフィールは参照出来ない。


仕方ない。


諦めた俺は、彼女に声を掛けた。


「とりあえず、動こうか」


どこまでも続く白く滑らかな地面。

白く淡い燐光に照らし出され、視界には困らないものの、視線の先、壁も天井も見当たらない。

そして、地面から2m弱位の位置で静止している物言わぬ人々の群れ……

小一時間程歩いてみたけれど、見える情景に変化は現れない。


あれ?

これって、もしかして詰んで無いか?


幸いな事に、喉も乾かないし、お腹も空かないけれど、燐光に照らし出された白い地面の上を、延々歩き続けるだけっていうのは、別の意味で苦行だ。

記憶が正しければ、ここはあの『封魔の大穴』の一番底って事になるはずだけど……

まさか死……


嫌な想像が頭の片隅から湧きだして来たけれど、俺はかぶりを振ってそれを追い払った。

俺はダメ元でナナに問いかけてみた。


「“上”に戻りたいんだけど、なんかスキルとか持っていない?」

「スキル……?」

「空中に浮かび上がるとか、どこかに転移するとか、そういった、とにかくここから移動出来そうなスキル」


ナナはしばらく考える素振りを見せた後、ある方向を指差した。


「あっちに……扉……」

「扉?」


目を凝らしてみたけれど、ただどこまでも白がひろがるのみ。

扉らしきものは見当たらない。

しかし、目的も無くただ歩くのに精神的に疲れていた俺は、ナナが指差した方角を目指してみる事にした。


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