第38話 未知との遭遇

 大砲の音がして海賊船の甲板は海賊たちが慌ただしく駆け始める。


「お前らはちょっと隅に行ってろ! 邪魔!」

「アン?」

「緊急事態っぽいから抑えて! アラン!」


 私とアランは海賊たちに甲板の片隅に追いやられた。

 いや邪魔をするくらいなら、隅で小さくなっている方が遥かにいいのだけどね。

 海賊へ食いつこうとするアランを引っ張り、大人しく隅に寄った。


「敵船捕捉! 真っ直ぐ向かってきてます!」


 再び響く偵察の声に視線をやれば小さく海の向こうに船が一隻見えていた。


 ドンドン。


 また大砲の音が空気を揺らす。


「どこの船だ!?」

「それが、分かりません!」

「海賊旗も国旗を掲げてねってこたぁ敵じゃねえのか……? どうなってやがる……」


 私よりも少しは状況の分かるらしいアランが呟く。


 海賊船に攻撃しているのに海軍ではないの?

 となるの他の海賊?

 しかし海賊旗もないらしい。

 海の世界にはそういうこともあるんだろうか?



 タイミング悪く再びシーゴブリンが現れて、船は進まなくなってしまう。



 ドンドンぱふぱふ。

 船が近づいてくる。

 思っていたよりも速い。



「ジョー! もう一度、頼めるか!?」

「出来るけど少し時間がかかる……!」



 ドンドンぱふぱふピュロ〜ピュロ〜。


 大砲と陽気な笛の音が聞こえてくる。

 あれ?

 これってもしや大砲の音ではないのでは?


 事態に気づいた海賊たちも呆気に取られて、その近づいてくる船を見つめていた。

 緑を基調にした木造船だ。

 なんと帆は葉っぱである。それでよく速度を出せたな……。


 海賊船の目の前で奇妙な緑の船は止まる。



 その船首に人が立った。



「留まるがいい、異邦の船。我らはチ=キュ戦士のヴァイトの連合軍であーる」

「……はぁ?」

「貴殿らの持つコウカイギジツを貰い受けたーい! 我らの集落に留まりたまえ〜、まあなんだ、礼はするよ」


 急に普通になるな。

 奇妙な船、奇妙な喋りによって、うっかり集中して聞いてしまった。

 なにこれ。


「コウカイギジツってなに」

「航海技術じゃねえの。知らん」

「適当か」

「適当になるしかねえだろ、あんなん。真面目にやってられっかよ……」


 アランの言葉にそれはそうだと、頷くことしか出来なかった。




「そんじゃ、テメエらはヴァイト領の集落を出て航海時代と洒落込みてえと?」

「そうなのよ、だから長年積み重ねられてきた人間の航海技術を学びたいの」



 奇妙な船の正体は、なんとエルフの集団だった。

 尖った耳を持つ彼らは確かにヴァイト自治領に存在する森で暮らしていると聞いたことはあった。


 それはそれとして、エルフといったら細く儚げな超絶美男美女をイメージするだろ。


 緑の船に乗っているエルフたちは皆、筋骨隆々でよく発達した太ももを惜しげもなく晒すミニスカ男子たちだった。

 船と同じ緑のルージュが一団のトレードマークらしくよくお似合いである。

 それぞれ剣と弓を携えており、森の狩人あるいは絶対強者という風体だ。

 強そう(小並感)


 みんなお揃いながら、よく見れば各々がデザインの違うお洒落をしている。

 民族衣装なのかもしれない。

 なら……、いやそうでなくても他人の衣服の趣味を否定など出来るはずもない。

 私は何も言わないぞ!


「つーか、お前らなんなの、そのイカれたかっこ──ぶっ、何しやがる! クソガキ!」

「お前の方こそお黙り! 口の聞き方にお気をつけなさい! アラン!」


 エルフたちを指差し、不躾な発言をしようとしたアランの頭を勢いよく叩いた。

 やめんか! 愚か者!


 叩かれた後頭部を押さえながらアランはブスくれて、私を睨んでいる。

 クソガァ、という念がありありと伝わってくるが口を閉ざしているなら、もう何でもいい。


「……それで、どうかしら? ワタシたちにコウカイギジツを教えてくれる?」

「ふーむ……、1つだけ答えな」

「何かしら」



 難しい顔をしてディヴィスが唸る。

 先を急ぐ旅ではないが、いつ帝国に追いつかれるかも分からない。

 けれど困っている様子のエルフたちを放ってしまっていいのだろうか。

 とはいえ決定権はディヴィスにある。



 ニヤリとディヴィスが笑みを浮かべた。



「テメエらの集落に酒はあるか?」

「! ええ! あるわよ! 相伝のエルフ酒がたんまりとね!」

「なら決まりだ! 野郎ども! ちっと寄り道をするが、いいよなぁ!?」



 海を割るような怒号が海賊船に響き渡った。

 ついでにエルフたちが歓声をあげている。


 決定打が酒なのは流石というべきなのだろう。




「わー、エルフたちの集落に行けるって」

「あーあ……どうなっても知らねえぞ、俺は……」


 歓声をあげるエルフたちを横目で見ながら、アランがそんなことを呟いた。


 なんのこっちゃ。

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公爵令嬢は逃げ出した! 百目鬼笑太 @doumeki100

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