第15話 私たちは旅の仲間()

 何はともあれエル・デルスター王国への冒険が始まった。

 プリムラとアイリスの私への警戒は中々消えない。

 かなしいね、私の自業自得だけどね。



 グラナット公国で必要物資を買い込んで、エル・デルスター王国へ魔物の巣である森を通り抜けねばならない。



「ウインドぉ・スラッシュ!!」


 カツラギが叫びながら剣で魔物を斬り裂いた。

 一撃で屠るだけの威力は見事であるのだが、いちいち技の名前を叫ぶのは何なのだろうか。

 叫ばないと実力を発揮できないとか、そういうルーティンでもあるのだろうか。


 カツラギの剣撃に合わせて魔術を放つ。


『氷槍』


 地面から生えた鋭い氷柱が森に住む狼に似た魔物を一掃した。


「実戦経験はないって言っていたくせに全然強いじゃない。やるわね、ジョー」

「ふふ、でもマサキ様のお怪我を治せるのは私だけですからね〜。いつも前衛で私たちを守ってくれてありがとうございます、マサキ様」

「それは僕のセリフだよ。剣だけじゃ群れだと対応しきれないし、どうしたって僕の魔術じゃアイリスとジョーには敵わないからさ。お礼を言いたいのは僕の方ってことね」


 ……まあ、ハーレム希望であることと謙遜が過ぎることを除けばカツラギもいい奴ではある。

 そして女性陣に性別をバラしたおかげで、牽制のつもりかカツラギと2人になるような場面はほぼほぼなくなっていた。

 ありがたい。


 一時は険悪な雰囲気になってしまい、どうしたものかと頭を抱えたものだけど結果オーライというやつだ。



 グラナット公国のギルドから買い取った地図を見ながら数日を歩いて、ようやく目的地であるエル・デルスター王国に辿り着いた。

 グラナット公国とはまた違う白銀の城壁がエル・デルスター王国を囲んでいる。


 統治する国のない魔物の生息地から近いためか壁の高さは帝国の王都やグラナット公国よりはるかに高い。

 壮観だった。

 この景色だけでも、ここまで来てよかったという気持ちにさせられる。


「すごいなぁ」

「中はもっとすごいわよ。魔法道具なんかがたくさんあるんだから」


 思わず呟けば、ふふん、と何故かアイリスが胸を張る。

 そういえば出会ったばかりのころにアイリスがエル・デルスター王国には特殊な魔術様式があるのだと言っていた気がする。


 城壁の門をくぐり、王国内へ足を踏み入れた。


 そこはまさしく異国だった。


 まず人の多さに目を回る心地がした。

 洪水のように、すぐ横を数えきれない人が流れていく。

 道の先まで露店が続き、色とりどりの品物を店先に広げる商人たちは客を呼び止めようと声を張り上げる。


 露店では食品や細かな細工の施された小物、古い武器や防具まで実にさまざまな売り物が取引されていた。

 大陸の北部であるはずなのに、城壁の外の肌寒さとは違う温い風が香辛料の匂いと焼けた肉の匂いを一緒に運んできた。


 整然とした帝国の王都とは何もかも異なる雑多な雰囲気。

 帝国は大陸の中心であるからこそ、王都にあるものは異国風といっても帝国の文化に合わされたものばかりなのだ。


「エル・デルスター王国は海洋商業国家だもん。港からいろんな国と交易をしてるのよ。アンタのおばあさんがいるオズの国もその一つってワケ」

「へえ……いや、本では読んだことがあったんだけど、実物を見るとやっぱり違うね」

「でしょでしょ! そんでね、エル・デルスター王国の魔術様式っていうのがね!」


「あーうん、2人とも? 盛り上がるのはいいけど、まずは宿を探さない?」


 苦笑を浮かべるカツラギに私とアイリスは顔を見合わせた。

 数日とはいえ、魔物の巣窟を通り抜けて来たのだ。当然疲れは溜まっている。


 カツラギの提案に従って、露店へ向かいかけていた足を引き返す。


 エル・デルスター王国の宿屋では雑用に自動化された魔法道具を使用している。

 つまり王国全土で魔法道具が一般に流通しているということだ。

 魔晶石は当然ながらも杖などの触媒ですら高額である帝国ではあり得ない光景だった。


 エル・デルスターの魔法道具は、魔法紋が刻まれた道具たちのことだ。

 その紋様に魔力を流せば使用回数は限られるけれど少ない魔力で誰でも魔法を使うことができる優れものなのである。

 ちなみに帝国で魔術とされるものをエル・デルスター王国では魔法と呼ぶ。

 定義として大きな間違いではないのだけど、魔法使いの国に住む祖母を持つ者として、帝国の一員として少し何とも言えぬ気持ちにさせられる。


 魔法紋はエル・デルスター王国にしかない技術で魔術様式だった。


「一休みしたら聖剣に挑戦しに行ってくるよ」

「面白そうだからオレも行っていいか?」

「それはもちろん! アイリスとプリムラは?」

「私も是非お供いたしますわ」

「アタシも聖剣には興味あるのよねぇ」


 全員で聖剣を見学しに、エル・デルスター国の王城へ向かうことになった。

 何でも聖剣はいつの時代もエル・デルスター王国の国王が所有しており謁見の間に聖剣の刺さった台座が安置されているらしい。

 聖剣への挑戦は誰でも自由で、行えるのだとか。


 そして聖剣を抜くことが出来れば、その者が次代の国王になる。

 つまりこの国は完全な血統主義でなく、その都度聖剣が国王を選んでいるわけだ。

 それはジウロン国の民の魔力が多いのと同じようにエル・デルスターの民たちの血統的な特徴なのかも知れない。

 誰が聖剣を抜くか。誰でも挑戦できるのならば、それはある意味で平等ともいえるのだろうか。



 そういう統治の仕方もあるのだなぁ、と知ったばかりのころはかなり驚いた覚えがある。


「よしっ! 抜くぞ! 抜いて僕は勇者になるぞ!」


 聖剣を抜きにきました、と近衛に告げればあっさりと謁見の間に通された。

 奥では執務を執り行うエル・デルスター国王が小さく見えている。

 本当にそれでいいのか、エル・デルスター王国……。


 台座に刺された真っ白な剣の柄をカツラギが両手で握り込む。


「いいぞ〜にいちゃん!」

「やれやれ! そら今だ! 抜いてみやがれ!」


 他の挑戦者なのか周りをギャラリーが囲んでいる。

 大勢に見守られてカツラギが聖剣の柄を思い切り持ち上げ、


「フンッ!!!!」


 顔を真っ赤にさせるものの、聖剣はピクリとすらしなかった。

 それでも数分格闘して、カツラギも諦めたようだった。


 ハーレム主人公も形無しだな、ありゃ。


 落ち込むカツラギをプリムラとアイリスが慰めている。


 まあ、そう上手いこといかないよな。


 ハーレム一行の様子を呆れながらも混じらずに眺めていると肩を叩かれた。


「にいちゃんは挑戦しないのかい?」

「試しにやってみるといい! 聖剣の挑戦は誰でも出来るんだぜ!」

「えっ、え、あの」


 ギャラリーの皆さんに背中を押されて、聖剣の前へ進んでしまう。

 助けを求めて辺りを見回すも、ギャラリーの皆さんは言わずもがなカツラギとアイリス、プリムラもニコニコと見守っている。


 助けろよおい。私たちは一時でも同じように旅をした仲間なんじゃないのかよぉ!?

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