【Roster No.9@ウランバナ島北東部】


 どこかから撃たれて、前輪が被弾した。撃ち返す間もなく、パァンと破裂するような音がする。


「うわぁ!」

「ぎゃっ!」


 そのままスピンして、正常な運転が困難になり、建物に横からぶつかった。


「うっ、うぇ……」

「あんたたち、大丈夫かい!?」


 助手席のザクロは俯きながらも、無事をアピールすべく左手を挙げる。

 後部座席の二人は「だいじょばない」「オゲェ」顔色が悪い。


 タイヤだけでなくエンジン部分にも着弾していて、プスプスと音を立てている。

 この車も使い物にならなくなったな……。

 ウランバナ島ココに来てから二台もおしゃかにしちまって、こりゃあ車のカミサマに怒られるだろう。


「トイレ……いあ、お花摘みに行きたいでござる」

「あたしもー」


 後部座席の二人――ボタンとサザンカは各々のアサルトライフルをしかと握りしめてぞろぞろと降りていく。

 この車も乗り捨てるが、最後にゲロを残していくのもかわいそうだしな。


「おいてかないでー」


 助手席のザクロもM4カービンを携えて降りた。

 あたいは携帯情報端末を見る。

 どうやらこのぶつかった建物はこの島唯一の病院らしい。

 そんならトイレは何基もあるだろうし、なんなら吐き気止めも見つかるかもしれん。


「あたいも行くよ」


 ここに戻ってくるわけでもなし。

 戻ってきても同じ車に乗れるわけでなし。

 タイヤはパンクして、エンジンも破損、おまけに衝突で車体のサイドはボコボコ。

 よっぽど愛着がなければ新車に乗り換える。


 あたいはG36Cの弾数を確認し、まあ他の参加者と鉢合わせしても応戦できるだろうと踏んで、車から降りた。


「たのもーう」

「さっ! ぱっ!」


 ボタンとサザンカが先陣を切って、索敵しながらトイレも探す。

 あたしとザクロも警戒を怠らない。


 というのも、入り口の手前にホトケさんがふたつ転がっていたから。

 大火傷しててどんな顔だったかもわからんような物体だった。

 気持ち悪がっている場合じゃない。

 これだけのことをやってのける敵が、ここから先にいるかもしれねえし、もうここを出ちまったあとかもしれねえ。


「ここで肝試しやったら、マジモンの幽霊が出てきそう」


 病院を模した建物だけあって、天井やら壁やらに内科だとか整形外科だとかの案内があるのがまた、いちテーマパークとしての作り込みというか、こだわりのようなものを感じる。


「さっきの人たちとか?」


 あくまでだから病院として機能していた実績はない。

 ウランバナ島ココは今回の『ウランバナ島のデスゲーム』のために建設されたものだしな。


「えぇ、こわいこと言わないでくださいよお」

「およ。ボタンはオバケを信じるタイプでござるか」

「――あれは、ある夏の夜のこと」

「ヒィイ! やめてくださいよお!」


 病院であって病院でないのだから、走っても騒いでも咎める者はいない。

 けれども、院内の雰囲気が、そういった禁じられている行為をさせまいとしている、ような。

 雰囲気に飲み込まれる前にトイレだけ借りて出て行ったほうがいいか?


「さすがにトイレの中で待ち構えてるなん」


 てことはないですよね、とボタンが個室のドアを開けた先に、


「ヒェッ!」

「クセモノぉ!」


 ボタンが反射的に手を離し、サザンカは便座に座る男に向かってベリルを撃ち込んだ。

 狙いははちゃめちゃだけども、フルオートでマガジン一個を空にするまで撃てば何発かは当たる。


 <<サザンカ は ベリル で ギアノイズ を キルしました>>


「こわぁ……」

「本当にお化け屋敷でござったな」


 相手の言い訳をちょいと聞いてみたかったが、もう答えられない。


「この変態の仲間が来るかもですね」

「そうだな。順番に入るとするか」


 目で合図して、先にボタンとサザンカが個室に入り、あたしとザクロは入り口に移動する。


「しっかしまあ」

「どうしたんすか姉御」

「こんなとこまで来て女のトイレに入ってんの、なんでだろな」

「なんででしょうね。理解したくもないですね」

「……怒ってる?」

「――あれは、ある夏の夜のこと」

「なんかあったんだな」


 静かなものである。

 こうしている間も、この島のどこかでまた一人、命を落としている。


「あと42人死んだら、うちらの優勝ですね」


 あたいが携帯情報端末を取り出すと、ザクロが覗き込んできた。

 残りの生存人数は、46人だから、そうだな、あと42人がいなくなれば勝ち。


「一億は山分けですよね?」

「2500万ずつ。あんたたちと均等に分けるつもりだよ。そ……何か不満か?」


 2500万、と聞いて、ザクロのピクッと眉が動いた。

 あたいは「不満か?」と言葉を変える。


「それだと、姉御の夢は叶わないから」


 ああ、そのことか。

 ザクロが気にすることじゃない。


「あたいはここで手に入れた2500万をからよ」

「増やすって、ギャンブルですか?」

「おうよ。元手があれば一攫千金よ」


 増えたぶんをあたいの夢に注ぎ込む。

 ゼロになったときは、そんときゃそんときよ。


「殺しちゃえばいいのに」


 ザクロは向かいの壁の一点を見つめて、大真面目な顔で言う。


「姉御ができないっていうなら、あたしがやる。最後の1チームとして、残ってから。姉御が7500

「あんた、滅多なことを言うんじゃないよ」

「元手は多いに越したことない。そうでそ?」


 そうではある。

 そうではあるけども、そうではない。

 あたいはあたいの夢を叶えるのに、金が必要で、金を得るために、あんたたちを巻き込んだ。


「おーおーおー、秘密の相談かーい」


 ボタンが話に割って入ってきた。

 すっきりとした顔は、していない。


「穏やかじゃないわねー?」

「どこから聞いてた?」

「うーん、最初のほうから?」


 ザクロとボタンがにらみ合っている。

 最初のほうからというと、ザクロの「殺しちゃえばいいのに」は聞いていた、だろう。


「ザクロ、考え直せ。あたいたちのチームは、この四人であってこそ」

「姉御こそよく考えてくださいよ」

「なんだねザクロくんはよー。やんのかー?」


 ピピッ。


「……うん?」


 ピッ。


「なんでしょう?」

「今、ピッて聞こえたよな」

「うん」


 ピッ。

 ピッ。

 ピッ。


「みんなー! トイレの中に爆弾があったでござるー!」



【生存 41(+1)】【チーム 16】

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