【Roster No.16@ウランバナ島北西部】

 ミオが泣いているからおれも悲しんでおく。

 けれども、心の中では「よっしゃああああああああああああ!」とガッツポーズしていた。


 <<サユキ は ドラグノフ で ユウ を キルしました>>


 実際ガッツポーズするような状況じゃない。


「ミオ、隠れなきゃ」


 ユウくんには悪いが、やっぱりおれが正規の彼氏なんで。これからはミオをおれが守っていかないとね。幸いにもおれにはこのショットガンもあるし。輸送機の中でカッコつけて『ぼくがミオを守るから』って言ってくれちゃってたけど、死んだら意味ないよな。ミオを庇って死んだんだから守ってはいるか。いいやつだったよ……って言いたいところだけど、なんだっけ、ど底辺ぶいちゅーばー集団と戦った時にはなぁんもしてくれなかったからプラマイゼロ。おれがタックルしてなかったらあそこで全滅してたからね。


「触んな」


 おれが差し出した手は払われた。えぇ……。なんでぇ……?

 ライフルの弾で首を抉られててどうにもなんないユウくんの死体から離れてくれない。かわいいミオはおれの彼女だけど、こうもわがままされてしまうと萎える。おれがミオにいくらかけたと思っているんだ?


「そこにいたら、次はミオが撃たれる」

「そうですよ! 危ないですよ!」


 ぶいちゅーばー集団の最後の生き残り・ユーコちゃんがおれと並んでミオを説得する。敵ながら、ミオの左耳を手当てしてくれたのでいい子だ。ハムスターみたいなかわいさがある。小動物的な。ミオとは方向性の違うかわいさ。あざとかわいいっていうのかな。こういうのが好きな男もいると思う。ぶいちゅーばーとしてじゃなくて顔出しで配信しても人気出てたろうに。


「はぁ?」

「大事なマネージャーさんが殺されちゃったのは残念ですが! 切り替えていきましょうよ!」


 なんでも「わたしゃこんな人殺しの大会に出たくなかったのに、リーダーが『どうしても』って言うから参加させられたんですぅ」とのことで、仲良し営業に辟易していたところ、らしい。チームを組んでいたほうが、コラボ配信やら大会への参加やらがしやすいからってんで所属していただけ、だとか。ミオにケガをさせてしまったお詫びといってはなんだけども、最後の2チームになるまで共闘してくれるっぽい。ユウくんをどっかから狙撃してくるようなやべー参加者がいるとわかった現在、敵だけども素直に付き従ってくれる味方がいるに越したことはない。


「うるせぇよアニメ声! 耳がキンキンすんだよ!」


 ジュンはどこに行ったんだろう。おれたちよりも先に輸送機から降りてしまって、別行動をしている。おれは携帯情報端末を取り出して、死亡者のリストを見た。上から下まで、ジュンの名前はない。ちょっと安心した。


「しゅいません……地声なんですぅ……」


 輸送機で思い出したけど、ミオが「邪魔」って言って突き飛ばした女の子も可愛かったな。一瞬しか顔見えなかったけど。高所恐怖症みたいで、ヘナヘナ座り込んでいたのが! って感じで、よかった。そんで、そばに執事っぽい人が二人とクラシカルメイド服のお姉さんが付き従っていた。だから、マジモンのお嬢様なんだろう。そんな子がなんでこんなデスゲームに参加しようと思ったのかはわからない。そこまでお話できるほどお近づきになれなかったしね。敵だもん。


 賞金が目的じゃないだろう。賞金が目的じゃないのだとしたら、何の為なのか……おれは、ほら、ミオの彼氏だから?


「ユウくんが死んじゃったら、参加した意味、ないじゃん! オタクが代わりに死ねよ!」

「オタクって、おれ?」

「他に誰がいるんだよ」


 おいおいおいおいおい。

 おーいおいおいおいおいおいおい?


「おれはミオの彼氏だから、他のリスナーとは違う」


 というか、リスナーのことを〝オタク〟って呼ぶのはよくなくないか。ジュンもおれのこと『オタクくん』って言ってたけど。裏でコソコソ言うぶんには、……よくはないけど、まあ、いいこととして。一旦はね。前に、地下アイドルがファンのことを〝オタク〟呼ばわりして問題になったじゃんか。ミオはそういう育ちの悪い地下アイドルとは違う、トップライバーなんだから、言葉遣いには気をつけないと。このシーンも中継されている、かもしれないから、今後の活動を考えても。


「カレシぃ?」


 ミオが明らかにバカにしたイントネーションで言い放った。おれの隣で「あちゃぁ」とユーコちゃんがこめかみを押さえている。それともあれか。一億手に入ったら配信活動をやめて専業主婦になってくれる? それはそれであり。


「カノジョになったつもり、ないんだが」


 えっ?


「ま、ま、まあ! 落ち着いてくださいよ! 今ここでお二人が修羅場っても、敵の思うツボですよ!」


 ミオの言葉を、脳内でうまいこと噛み砕こうとする。ま、まあ、そういえば、ミオから、直接のお返事はもらっていない。告白は、こっちからした。した。あの日は一文無しになって、そのことを追及してもはぐらかされて今日まで至る。


「そうね。……ユウくんが死んで、取り乱してた」


 ようやくミオがユウくんから離れてくれた。よろよろと立ち上がる。ミオは納得できたかもしれないけどおれは納得してない。ユーコちゃんの言うこともわかる。ここでミオとおれが言い合いしてても、どうしようもないもんな。


「なら、今ここでもう一度、おれがミオに告白したら、彼女になってくれる?」


 ユーコちゃんがまた「あちゃぁ」と言った。


「なるわけないじゃん」




【生存 69(+1)】【チーム 23】

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