【Roster No.6@中央部から北西部へ移動】

  ユキチはドローンの近づいてくる音で目を覚ました。ウランバナ島中央部。とっくのとうにプレイゾーンからは外れていて、現在は立ち入り禁止エリアとなっている。――という事実は知らされていない。

 上半身裸の状態で草原の上に仰向けになって転がされていた。身につけていた黄色いジャージと白いタンクトップは、それぞれ手首と足首に巻き付けられている。外そうとしても固結びされていて思うように動けない。


「なんだこれぇっ!」


 指定された場所にのこのことやってきたユキチは、待ち構えていたハルを口汚く罵った。思いつく限りの暴言を叩きつけられながらも、ハルは楽しくて楽しくてしょうがなくてニコニコしていたし、その態度がユキチの神経を逆撫でして怒りをさらに増幅させる。おかげで、背後から近付いてくるノブには一切気付けない。怒りの感情は周囲への警戒心を鈍らせてしまっていた。ノブの思惑通り、ユキチは殴りつけられて昏倒する。着用していた衣服で手足を拘束され、放置された。


『よぉやく気が付いちゃったぁ?』


 ご丁寧に頭の近くに置かれたトランシーバーから、ハルの声が聞こえてくる。


「テメェ! おい!」

『そこ、もぉ入っちゃいけない場所になっちゃったからぁ。助けに行けないぶん、自分で頑張ってねぇ』

「はぁ!?」

『俺とノブくんの二人であとは優勝しちゃうから、ここまでのご協力感謝感激雨霰★』

「ふっざけんなよ!」


 ハルはユキチの現在地から遠く離れたプレイゾーン内にある一軒家の二階から、Mk47に装着したスコープでユキチの様子を観察している。ユキチを起こしたドローンは、ユキチを取り囲んだ。今、四台のドローンがユキチの上空を周回している。『ウランバナ島のデスゲーム』の参加者であるか否かの確認をしているのだ。


「助けてください! ハメられたんです! 見てくださいよこの! これ!」


 照合完了。Roster No.6の【Deadly poison】のメンバーがプレイゾーンの外にいる。位置情報も正しい。現在地に、Phase2の終了した現在、参加者がいるのはおかしい。ここは立ち入り禁止エリアとなっている。

 ドローンに命乞いの言葉は届いたが、間もなく発射されたミサイルはユキチの膝を叩き割った。


「んぎゃあ!」

『少しずつダメージを与えて脱落させるんですね。即死させるよりも残酷なのでは』

「感心してんじゃねー!」

『耳がキンキンしちゃうから、ボリューム下げちゃっていい?』

「いでえ……いでえよぉ……助けに、お前らどっちでもいいから、助けに来いよォ! 仲間だろぅが!」

『僕の仲間はハルくんだけです』

『だぁよねぇ! 俺もそう! ノブだけがみ・か・たっ!』


 次に、ドローンは腹部を狙って弾を撃ち込んだ。仮に、なんらかの手段を用いて移動できたとしても――そんな手段はないのだが――早急に手当てをしなければ失血死は免れないだろう。現実は非情である。そもそもこのチームメンバーがユキチを救助しに行く可能性はこうなるにいたった経緯から考えても皆無。他の参加者が自ら危険を冒してユキチを守ろうとする必要性もまたゼロパーセントである。意識がもうろうとする中で最期に見た景色は、どうしようもなく広がる青空の中で、一仕事を終えたドローンが次なる標的に向かって移動していく姿だった。


 <<ユキチ が エリア外ダメージ で 死亡しました>>


 ノブは次の安全地帯を確認するために携帯情報端末の地図を開いて、その異変にすぐさま気が付いた。地図上に点がいくつもある。先ほどまでは自分の現在地しか表示されていなかったはずだ。目で点の個数を数えれば、75個ある。その点はどれもプレイゾーンの中に表示されていて、現在の生存人数もまた、自分を含めて75人だ。


「ハルくん」

「なぁに?」

「これ、もしかしたらかもしれない」


 ハルはノブの携帯情報端末の画面を覗き込むと「やばやばの激アツじゃぁん!」と小躍りした。現在の彼らが潜んでいる一軒家の位置は、ウランバナ島の北西部エリア。ノブはVSSで周囲を確認すると、集落に停車している軽自動車がかろうじて見えた。手元の地図では点が4個ある。点の数がイコール生存人数という仮定が正しいのであれば4人いるはずだ。


「殺しちゃおっか♪」


 ハルはスコープを覗き込んで、照準を合わせる。その先にいるのはRoster No.13のメンバーなのだが、チーム番号までは表示されないのでわからない。


 <<ハル は Mk47 Mutant で カササギ を キル しました>>


「なるほど。ハルくん、あと3人います」


 画面に表示されたメッセージを見て、ノブは確信した。理由はさておき自分の携帯情報端末には、自分だけでなく、も表示されるようになったようだ。他の参加者が全員死ななければ自分たちの優勝とはならないのだから、この情報があるとないのとでは大違いだ。他の参加者の携帯情報端末にも同じように表示されているのかもしれないので、後ほど死人の携帯情報端末を回収して確認することにする。


「おっけぇー★ もうひとりぃ、出てきちゃったり見つけちゃったり!」


 死体に近付いていく人影を見つけて、リロードしたMk47を撃ち放つ。お世辞にも射撃のスキルは高くないので、何発か家屋の壁にぶつけてしまっているが、敵の頭部にも命中したようだ。まさに『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』である。


 <<ハル は Mk47 Mutant によるヘッドショットで シトロン を キル しました>>


「いいねぇいいねぇ! どんどんぶっ殺しちゃお♪」


 Mk47の弾数を気にかけるのはハルではなくノブの仕事になりそうだ。もしくは、床に落ちている適当なアサルトライフルに持ち替えさせればいいか。



【生存 73(+1)】【チーム 23】

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