【Roster No.19@ウランバナ島北東部】

 人生は選択の連続だ。正しい選択をできた人間だけが、長生きできる。そういうふうにできている。ぼくは、間違えてしまったっぽい。こっちではなかった。


「この島に医者はおらんのか!」


 他チームに遭遇しないことを祈るしかない。

 会ってしまったら終わり。


「耳元で騒がないでくれ!」


 チームメンバーの一人、ミナトはパラシュートのひもが首に絡まって空中で気絶し、そのまま川に着水。さっき引き上げたが、なかなか目を覚ましてくれないのでぼくが背負っている。ソウタに肩を借りて片足立ちでぴょんぴょんと進んでいるのがアユム。こちらは着地に失敗してパラシュートに引きずられてしまい、皮膚が地面で擦れて血まみれだ。

 四人のうち二人がこのような状況なので、もはやデスゲームどころではない。

 こんな状態からでも優勝できる保証があるんですか!?


「スタート地点からやり直してえ……」


 弱音を吐いてしまう。リセットボタンが欲しい。ぼくはどこで道を踏み外してしまったんだろう。ボタンもかけ違えたまま、流されてウランバナ島。


「うわ」


 いま目の前にある、この道は迷わないように。運営から渡された携帯情報端末で地図を見る。この先に見えるあの白い建物が『盂蘭総合病院』で正解のようだ。


 島には参加者以外の人がいないから、医者はいない。医者はいなくても、そこまで行けば、人間のケガの手当ができるようなアイテムは揃っているだろう。例えば包帯とか添え木とか。


「どうした?」

「人が死んでる……」


 デスゲームなのでこれからこういうシーンに何度も出会さないといけない。


「今更何言ってんのさ!」


 言われなくともわかってはいるけど、こうして倒れている人を見ると、なんだか、助けなきゃという気持ちにさせられる。――そうして、ぼくはあとから『偽善者』と言われるのだ。それでもいい。言いたいやつには言わせておけばいい。


 ぼくは背負っていたミナトをその場におろして、ついさっき自分で「死んでる」と判定してしまった人たちのもとへと駆け寄る。脈を取ろうとしてしゃがんだ。


「かかったな」


 頭から血を流して倒れていた四人組が、不意に起き上がった。声が出ない。


「うわっ!」


 声を出せたソウタを、四人組の一人が狙った。四人ともコルトガバメントを持っている。


「あばよ!」


 <<タイヘイ は M1911A1 で ソウタ を キルしました>>


「お、おい、おいおいおいおいおい!」


 支えにしていたソウタに三発撃ち込まれ、胸から血を吹き出して倒れた。アユムがバランスを取れなくなって尻餅をつく。次に狙われたのは、気絶しているミナトだった。


「やっぱオレの作戦、よかったやん」

「さすがアニキっ」


 作戦?


「こんなところでもお人好しなあんちゃんに教えたる」


 今しがたソウタを殺したスキンヘッドの男が、ぼくを見下ろす。ぼくは足がすくんでしまって、一歩も動けない。


「これな、血じゃないんよ。血糊ちのりっつーの?」


 自らの頭を触って、その血糊の一部を取る。人差し指と親指をくっつけたり離したりして、べちゃべちゃとした質感を見せてきた。ドラマとか映画とか、そういうもので人を殺すわけにはいかないから。そういうものの撮影のために、血に見せかけるための小道具。


「病院にあったんよ。そんでうちのアニキがピンときてな」


 一人だけ黒スーツ姿の男。さっきから『アニキ』と呼ばれている男が、拳銃をぼくの頭に突きつける。


「死んでるように見せかければ、る気満々のやつはスルーするし、あまちゃんは看取ってくれるってな」

「あ」


 またぼくは選択をミスった。リセットボタンが欲しい。今回は切実に。この世に神様仏様が本当にいるのなら、ぼくを助けてほしい。お願いします。


「おいそこ! 逃げられると思うなよ!」


 ぼくがこんなやりとりをしている間に、這いずって逃げ出そうとしたアユムが撃たれた。うギュッ、という悲鳴が聞こえて、それでも逃げようとして、もう一発撃ち込まれる。


 <<キョウヘイ は M1911A1 で アユム を キルしました>>


「そっちのも殺しとくか」

「へい、アニキ!」


 <<コウヘイ は M1911A1 で ミナト を キルしました>>


 神様仏様は現れず、銃声と、目の前の男たちの笑い声だけが聞こえる。ぼくは目をつぶった。死んだらこの人生がやり直せるのなら、次の選択は間違えないように、頼むぞ来世のぼく。


「じゃあな」


 <<タイヘイ は M1911A1 で ユウキ を キルしました>>


【生存 90 (+1)】【チーム 24】

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