第8話 彼ら彼女らは嘘に騙された

 ゲーム初日の対抗戦。

 AチームとBチームの対抗戦は、始まって1時間ほど経過した頃に決着を迎えた。

 画面には「Victory!」と文字が表示されている。

 俺たちがやってきた開始地点には、すでに両チーム全員が集まっていた。

 その中に一人、時雨の姿もあった。

 その服装は1時間前に見た時よりもあちこちボロボロになっている。

 顔色もだいぶ悪そうだった。


「皆お疲れ様! いやぁ、まさかこんなに早く決着がつくとは思わなかったよ。Aチームは強者揃いだねっ」


 フーちゃんが拍手とともにAチームへ賛辞を送る。


「ふっ、当然だ。他はともかく、この僕がいるんだからね」


 間宮がこの結果が当然のものだと受け止めている。

 間宮以外の仲間もあっさりと勝てたことに自慢げな表情を浮かべていた。

 ただ一人、宮崎だけは俺を鬱陶しいもののように睨んでいる。


「ではでは、さっそくAチームには権利を選んでもらうよ。どれにする?」


 フーちゃんが間宮に権利の選択を迫る。


「そうだな。やはりここは権利4を――」

「ちょっと待ってっ」


 間宮の言葉を遮って宮崎が出てくる。


「私は権利1を使いたい」

「何だ、損得よりも感情を優先して僕を追い出すつもりか?」


 嫌われている自覚はちゃんとあったらしいものの、間宮は宮崎の考えに否定的な反応をする。

 けど、違うぞ間宮。宮崎が追い出したいのはお前じゃない。


「あんたもムカつくけど、実力はある。私が追い出したいのは――あいつよ!」


 宮崎が指さすのは俺だ。

 Aチームのメンバーはおろか、Bチームも宮崎の言葉に驚く。


「なぜ彼なんだ? 確かに役立たずだが」

「私が戦っている間、あいつも近くにいたんだけどことごとく邪魔なのよ! ただのお荷物ならまだしも、足を引っ張るやつは勘弁してほしいわ!」


 本気で苛立ちをぶつけるように宮崎が吠える。


「今の話は本当か?」


 間宮が俺に確認を取ってくる。


「助けになればと思ったんだが、上手くいかなかった」

「そうか。なら君はもう不要だ。出ていってくれ」


 情も情けもなく告げられた宣告。

 自分のチームの足を引っ張る、いや、自分が敗者となるリスクを間宮は除外したいはずだ。

 加えて、こうしてチームの仲間を少しずつ追い出すことは間宮にとって好都合だろう。

 間宮はおそらく、ジョーカーを見つけ出して一人勝ちを狙う以外に、保険としてチームで勝つ方針も見据えているはずだ。

 その際、チームメンバーが減っていればいるほど報酬の額は多くなる。


「ま、待ってよ! 一度足を引っ張ったくらいで追い出すなんておかしいわよ! 徹はただ宮崎を助けようとしただでしょ⁉」


 横暴とも取れる間宮の行動に絵馬が異議を唱える。


「今回のゲームで勝利するためには、ジョーカーを見つけることは当然、ジョーカーを引き入れないことも重要だ。足を引っ張る者を残しチームが負けてしまえば、ジョーカーを手にしたチームにそいつを押し付けられてしまうことだってある」


 間宮は絵馬の異議を説き伏せにかかる。

 ゲームに勝利するためには、相手チームとの対抗戦に勝利し盤面を有利に進める必要がある。負ければ負けるほど、流れは他のチームに向いてしまう。

 ゆえに前提として勝たなければならない。そのためのチームの総合力。

 チームの結束だけでは勝てない戦いもある。

 今回のBチームとの戦いがまさにそれだった。

 全体像を見たわけじゃないが、それでもお互いの結束力には雲泥の差があるように感じられた。

 それでも総合力の強いAチームが勝った。


「だ、だけどっ……!」


「話は終わりだ。君がいくら彼を庇おうと、権利を選択するのはリーダーである僕だ。もし、それでも納得できないようなら君もいなくなってもらって構わないが」

 間宮はそう言って絵馬も追い出そうとする。

 絵馬は悔しそうに唇を噛む。

 俺はそんな絵馬に言った。


「いいんだ。このままじゃ足を引っ張るだけだし、俺が出ていく」

「徹……、――わかった。なら、あたしもこんなチーム抜けてやる!」


 我慢ならなくなったのか、絵馬がついにその一言を口にしてしまう。

 上手く俺の望んでいた言葉を引き出せた。

 絵馬の脱退意思に、間宮は迷うことも疑うこともなく承諾する。

 間宮は権利1を使い俺と絵馬をAチームから排除した。

 ほぼ間宮の裁量で決まった選択。

 黙って見過ごすんだな。

 間宮の裁量に対し、零士義兄さんは何も言わない。

 けど、それなら好きに動かせてもらうだけだ。



 乗ってきた船が島から離れていく。

 俺はその光景をしばらく眺めていた。


「よかったの?」


 後ろから時雨に声をかけられる。

 その質問には、二つの意味があるように思えた。

 Aチームを抜け出したことと、ゲームからリタイアしなかったことに対して。


「ああ。元からこうするつもりだったからな」

「……そう」


 納得はいっていない様子の時雨。

 そんな俺たちの会話を横で見ていた絵馬が疑問を抱く。


「ちょっと、何普通に話してるのよ? それに元からこうするつもりだったって何?」


 俺の戦略を知らない絵馬は問い詰めるように聞いてくる。


「私とお兄ちゃんは兄妹なんです」


 まず時雨が俺との関係を答える。


「い、妹?」

「はい。初めまして、私は相良時雨と言います」


 時雨は僅かに警戒を覗かせて絵馬を見る。

 けど、警戒心を抱いたのは絵馬も同じだった。

 その理由をすぐに察した俺は、絵馬が何かを言ってしまう前に口を挟んだ。


「時雨はあのこととは関係ないからな。ここで会ったのも7年ぶりなんだ」


 絵馬はきっと、俺を売った家族という括りの中に時雨も含まれていると考えてしまったはずだ。

 それは真っ先に否定しておく。


「そ、そう。ならいいわ」


 絵馬は安堵し、時雨に向き直った。


「あたしは鏡耶絵馬よ。変な態度を見せてごめんね。徹とは、そうね……」


 チラッと一度俺を見てくる絵馬。

 このまま言わせると、色々と面倒そうだな。


「なあ、一旦場所を変えないか?」

「そうだね。皆には私から後で説明しておくよ」


 時雨も頷き俺たちは場所を変えた。

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