03 小手指原へ

 足利高氏の策は図に当たった。

 だが、誤算が二つあった。

 一つは、幕府が新田義貞に多大な戦費を強要したこと。

 一つは、義貞が、単なるでなく、用兵にけていたということである。


 義貞は戦費要求の幕府の使いの傲慢さに憤り、斬って捨てた。

 そして、かねてからの高氏の策に従い、挙兵。

 上野こうずけから武蔵への進軍の際、千寿王と合流。

 足利家の嫡子を大将としたためか、高師直の事前工作の結果か、軍勢は二十万に膨れ上がった。

 千寿王はまだ四歳のため、補佐役の紀五左衛門きのござえもんが、その軍を取り仕切ることに奔走しているうちに。

「新田が、抜け駆け?」

 五左衛門は腰を抜かしそうになった。

 大軍をもって鎌倉に圧力をかける。

 そういう策ではなかったか。

「と、とにかく、く返すように言え」

 だが時すでに遅く、義貞率いる七千の軍は小手指原に達し、桜田貞国率いる三万の軍に、猛然と襲いかかっているところだった。



「矢合わせしない?」

 弟の脇屋義助の問いに、新田義貞は鷹揚おうよううなずいた。

 矢合わせとは、合戦の前に、互いの軍が鏑矢かぶらやを交わすという作法である。

「ああ。ンなを合わせちゃ、負ける。そんなことより、おろしのように、攻める!」

 義貞は、千早の戦いで、楠木正成のを見ていた。

 やり方を合わせないというを。

「寡兵で多勢を相手するにゃあ、をこちらのいいようにするのさ」

 義貞は全軍に入間川を渡河するように命じた。

「渡れ! 利根川よりはやすく渡れるはずだ! く渡るのだ! 一番早く渡った者を、一番槍とする!」

 沸き立つ軍を前に、義貞は、まずは手本をと入間川に入った。

「つづけ! 早くしないと、おれが一番槍ぞ!」

 新田軍は我先われさきにと渡河を始めた。

 その渡河は素早く、幕府軍がに終わる。

 そして新田軍はそのまま、幕府軍へと突撃した。


「かかれ!」

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