宣戦布告

 昼休み。勇人は授業中に戻ってきた美雨に話を聞いていた。美雨は美波と萌香と会った事とそれまでの出来事を隠して笑顔で接する。


「――それで結局見つかったのは211円だけでした」

「うーん、奏美が嘘をつくなんて無いし、単に見間違えだったのかな?」

「私もそう考えましたが奏美ちゃんは嘘を言わない性格ですよね」

「そうだが絶対とも言えないしな」

「そうですよね。残る可能性として消えたもしくは盗まれたが妥当かと思います」

「そうだよな〜まあいいやこの拾ったお金で飲み物奢るよ」

「えっ!?勝手に使っていいんですか?」

「大丈夫大丈夫。内緒にしとけばいいんだよ」

「えー……」


 自販機の元に行き、勇人は美雨が飲みたい飲み物を買って渡すと美雨は戸惑いながらもジュースを開けて飲む。


「ん、美味しい……ゲホッゲホッ」

「大丈夫か?」


 咳き込み口元を抑える美雨にハンカチを渡そうとする勇人だったが美雨が咳き込んだ口と手には血が付いていた。


「美雨それって血だよな、大丈夫か?」

「ぜ、全然平気ですよ!ただ……――」


 笑って誤魔化す美雨だったが途端に意識が途切れてその場に倒れた美雨。


「おい大丈夫か?美雨?美雨!」


 勇人は急いで美雨を抱き上げて保健室に向かった。


「――うん。疲労ですね」

「……良かった」


 保健室の先生は落ち着いた様子で診断結果を教える。


「良くないわよ、女の子なんだからちゃんと彼氏くんが見ないと!全くこれだから男は……」

「はい、すみません……」


 女性の先生でありながら女の子に対して優しく男に厳しいと噂の保健室の先生は勇人に聞こえるぐらいに愚痴愚痴と文句を言いながら女の子を大切にすることを言い続ける。


「あ、あの〜血を吐いたことは……」

「うーんそれも疲労からだと思うけどそれは精密に検査はした方がいいわよ。女の子の身体はデリケートなんだから、それと……――」


 またもや話し続ける先生に勇人は途中途中相づちしながら聞き続けること数分間。


「――ともかく、凪さんが目を覚ますまで傍にいることいいわね!」

「はい……」

「私は職員室に用事があるからまた戻ってくるけど君が居なかったらクビが吹き飛ぶと思いなさい」

「ひぇ……怖っ」


 先生はそう言い残して保健室から出ていく、勇人は美雨が静かに眠るベッドの横で椅子に座る。


「はぁ……疲労かー、絶対に疲労じゃないだろ。それに血だって……」


 あの時に聞けなかったが確信に変わった。


「美雨はゲームキャラだと言ったけどなんで血が出るんだよ、おかしいだろ……」


 それが疑問だった。美雨は最初会った時に自分達はゲームのキャラだから死んでも大丈夫だと言っていた、そして天音も同じく自身達をゲームのキャラだと言っていた。だが今考えると矛盾があった。


「なんでゲームキャラがなんでゲームキャラがなんでゲームキャラが


 これまでの行動が全てが多かった。


「もう分からない……美雨は……君達は一体何者なんだ……」


 混乱する勇人、その時小刻みに震える勇人の手に優しく触れる美雨。


「……ごめんね勇人君」

「美雨!大丈夫か?」


 美雨はゆっくりと上体を起こす。


「ううん大丈夫じゃない、やられた神村 萌香。アレは敵に回すべき相手じゃないね、ゲホッ」

「奈々?まさか例の二人に会ったの?」

「まぁね、それよりこれからどうする?」

「どうもこうも今は休んでなきゃ」

「こうしてる間にも敵はいずれ出てくる早くしないと」

「美雨。それよりも先に話してくれ」

「まだ言えない。だから……」

「――美雨っ!」


 初めて声を荒らげる勇人に美雨はビクッと体を強ばらせた。


「頼む。教えてくれ、美雨は君達は本当は

「…………」


 美雨の手を強く握る勇人は真剣な眼差しで美雨を見つめるがその瞳の奥には悲しさを感じた美雨は顔を逸らす。


「――み……」

「はーい。勇人さんそこまでです」

「なっ!?奈々っ!?」


 突然、勇人の隣に現れた奈々に驚く勇人。


「うーんまさか仲間内で状態異常デバフとは萌香さん恐るべしですね」


 奈々は美雨の顔を覗き込みじっくり観察する。我に返った勇人は奈々言うデバフに首を傾げる。


「デバフ?」

「そ、萌香さんが掛けたデバフは『毒』。軽いものなのでおそらく『毒霧』による持続ダメージ系統ですね」

「えっとじゃあ早く解毒とかしないとヤバいんじゃ……」

「ちょっとここは私に任せなさい」

「じゃあ俺はここで」

「勇人さん。美雨さんのハダカ見たいんですか〜?」

「んなっ!?!?そそそれは……分かった俺は外で待ってる」


 急いで保健室の外に出ていく勇人にニヤニヤして見送った奈々はフッと普通の表情に戻る。


「……ありがとう奈々」


 弱々しい声でお礼を言う美雨に奈々はため息を吐いた。


「はぁ……全く嫉妬深いとは言え弱みさえ見せない美雨を見ていると私はいつもドキドキしていたんですよ」

「……ごめん」

「そういうところ、ほら後ろ向いて制服脱いで」

「うん」


 美雨は奈々に背を向け制服を脱ぎ背中を見せると奈々は背中に手を添えてゆっくりと呪文を唱える。


「毒はあまり回ってないね、軽い処置で大丈夫そうよ」

「うん……」

「その反応、やっぱさっきの言葉?」

「聞いていたのね。そう、なんて言えばいいのか分からなくなっちゃった」


 奈々は先程までの会話全て聞いていた。


「そうね。私達はだって言えないですのよね」

「ゲームのキャラと偽ってるけどさすがにもう無理がある」

「別にバラしてもいいんじゃないですの?」

「ダメよ、勇人君には隠し通したい」

「もしかしたら『カッコイイ!好き』とかならない?そしたら勇人君を我が物に出来ちゃうじゃん」

「全く相も変わらずね奈々は」

「いつも通りだよ、はい終わり」

「ん……」


 美雨は制服を戻して奈々の方に振り向く。


「お礼は言わないの?」

「別に貴方を許した覚えはない」

「あっそ、それでどうするんですの?そもそも私含めそれ以外のヒロインの性格上結託するのはほぼ不可能。どう敵を、ボスを倒しますの?」

「私一人でやる」

「本気で言ってるの?」

「この戦いで私達が負けたら『BADEND』。そうなる前に勝ちに行く」

「別にボス倒すことには賛成する、でも美雨さん一人は無理よ」

「誰にも勇人君を渡さない。奪わせない。もうこの『感情』は動かしたくない」

「いいの?この世界の『勇人』は本物の『主人公』じゃないのよ」

「『そっちの主人公』はいずれ貴方が奪う。ならこの『感情』が動く前、動き出す前に私一人の物にしてしまえばいい」

「…………それは宣戦布告?」

「かもしれない。でもこの世界はただ一つ。『たった一つのルート』しか存在しない。だとしたら私自身のルートだけにする」

「あぁそう……じゃあ私が美雨さんの本当の事をバラしてもいいわけ?」

「構わない。私はそれでも勇人君を守り続ける」

「そう、じゃあ分かった。一応今は友人として今日は帰るわ、次会った時は必ず、ね」

「次と言っても妹側にいるならすぐに会えるじゃない」

「ええ、でもその次会うときは時が来た時の次よ」

「それが来なければいいけどね」


 奈々は保健室から出て行くと入れ替わりで勇人が入ってくる。


「美雨!大丈夫!!」

「大丈夫で――っ!?」


 勇人は美雨を抱きしめた、美雨は驚きで声も出なかった。


「良かった、本当に良かった」


 涙ぐむ勇人の声に美雨は優しく抱き返す。微笑ましい光景だったがその背後、保健室のドアから先程出て行ったはずの奈々がそれを見ていたが同時に美雨はそれに気づきながらも勇人を優しく抱きしめたまま奈々を睨みつけていた。

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七人のヒロインはファンタジーゲームの職業を使って世界を救います 水無月 深夜 @Minazuki1379

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