第13話 ユースさんをメロメロに!?

 ユースさんと意見交換をし、デートのおねだりをしてしまったわけなんだけど……その答えが手紙で来た。その手紙には、この日の朝、家で待っててくれと書かれていた。


 丁度ベストセラー祝いに、マリーと一緒に色んなお店を見て回って、新しいドレスを買っておいて良かった。早速出番が来たって感じ。


 でもこのドレス、一つ大きな問題があるの。その……ちょっと肩とか胸元が結構出ちゃってるっていうか……攻めすぎっていうか……端的に言うと、凄く恥ずかしい。


 これをスタイルがいい人が着ればいいかもしれないけど、私は別にスタイルが良いわけではない。むしろぺったんこな部類……これをユースさんに見られるって思うと、今にも爆発しそう。


「大丈夫ですよ。とてもお似合いです」

「ま、マリー……やっぱりこの前の、露出が控えめなドレスの方が……」

「ダメです。このドレスで更にメロメロにしてきなさい」

「め。メロメロって……」


 マリーは子供の様にクスクスと楽しそうに笑いながら、私の髪のセットとお化粧もしてくれた。


 これで準備はばっちり……なのはいいんだけど、やっぱり恥ずかしいわ! 気合い入れすぎだって笑われるかも!?


「さあ、そろそろユース様がお越しになる時間ですし、外で待ってましょう」

「そ、そうね」


 私はマリーと一緒に家の外に出ると、丁度こちらに向かってくる馬車の姿が見えた。


 もしかして、今日も馬車に乗って来たのかしら……? そう思っていると、その馬車は私達の前で止まり、中から黒と赤を基調とした服を着た、ユースさんが颯爽と降りてきた。


 ……ユースさんに惚れちゃったからなのかしら。降りる姿だけでも、凄くカッコよく見えちゃう……本当、好きすぎてしんどい……。


「ティア、マリー、おはよう。迎えに来た」

「お、おはようございます! 迎え、ありがとうございます!」

「おはようございます。ユース様、今日はティア様の事、よろしくお願いいたします」

「ああ、任せろ。さあ、行くぞ」


 前回と同様、ユースさんの手を取って馬車に乗った私の後に続くように乗ったユースさんの言葉を合図にするように、馬車はどこかへと向かって動き出した。


 前回はおいしいレストランに連れていってもらったわけだけど、今回はどこに連れていってくれるのかしら……楽しみだわ!


「ティア、今日の服もよく似合っているな」

「ほ、本当ですか? ちょっと攻めすぎたかなって思ってて……引かれたり笑われたりしないか心配で」

「随分と無駄な心配をしていたんだな」

「も~! 無駄って何ですかっ! 私にとっては大問題だったんですからねっ!」


 隣に座るユースさんと身体を寄せ合い、手を繋いだままプリプリと怒る私を乗せた馬車は、何事もなく目的地へと進んでいく。


 はふぅ……胸も身体もポカポカして、とても幸せな時間だわ……このままずっとユースさんとこうしていたい。


「ところでユースさん、今日はどこに行くんですか?」

「デート兼仕事だ」

「……?」

「今回の話、貴族の女と、屋敷に転がり込んできた異種族の男の話だろう? なら、屋敷でデートをするシーンが出てくる可能性がある。それを実際に体験するという趣旨だ」


 な、なるほど……だからデート兼仕事って事ね。さすがユースさん、私には到底思いつかないような事を簡単に思いつけるのね!


 でも、都合よく体験できる屋敷なんてあるのかしら? 貴族の人達にお願いすれば使わせてもらえるかもしれないけど、そんなお人好しっている……? 私の基準がエクエス家だからというのがあるせいかもしれないけど……そんな貴族がいると思えないわ。


「まあ……ここだけの話、俺もティアとデートがしたかったから、体験という名のデートという表現が正しいかもしれない」

「ユースさん……も、も~ダメですよ? 仕事とプライベートを混同したら!」


 ユースさんも私と同じ気持ちだったのが嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて……咄嗟にからかうような言葉が出てしまったわ。私のバカ……素直に嬉しいって言えばいいのに、なに照れてるのよ!


「互いにいつも真面目にしているんだ。たまには良いだろう? それに、ちゃんとした仕事でもあるんだしな」

「そ、そうかもですけど……」

「お話し中に申し訳ございません。この先揺れますので、しっかりおつかまりください」


 話を遮るのを申し訳なさそうに言う御者の言葉通り、先程までよりも馬車が大きく揺れ始めた。こ、この辺はあまり道が整備されていないのかしら!?


「ティア、俺にしっかり捕まってろ」

「ひゃあ!?」


 私に何かあっても大丈夫なように、ユースさんは私の肩を力強く抱き寄せてくれた。


 あ、あわわわ……か、顔が近い……! 身体ががっしりしてる……! 咄嗟に私の事を守ってくれるの優しすぎ……カッコイイ……! ユースさんで永遠に妄想できそう……!


 ううん、妄想なんかじゃ満足できそうもないわ……! もっと触れたいし、もっと恋人らしいことがしたい……! たとえばもっと抱きしめ合ったり……き、キスをしたり……そ、そそそその先とか……キャー!!


「おい、顔が真っ赤だけどどうした? 熱でもあるのか?」

「ら、らいりょーふれしゅう……」

「大丈夫そうに見えないが……調子が悪いならすぐに言え」

「ひゃい……」


 男らしくて優しいユースさんにメロメロになりながら、更に馬車に揺られ――気づいた時には、既に馬車は目的地についたのか、動きが止まっていた。


「着いたぞ。動けるか?」

「えーっと……まだちょっと動けないっていうか……離れたくないかなーなんて……」

「……気持ちはわかるが、一応人を待たせている。続きはまた今度な」


 う~……人を待たせてるなら仕方がないわね……今度またやってくれるって言ってくれてるし、今日は潔く諦めましょう。本当は諦めたくないけど……。


「よいしょっと……」


 先に降りたユースさんの手を借りて馬車を降りると、目の前には大きな屋敷が建っていた。エクエス家の屋敷程の大きさはないけれど、それでも十分に立派な屋敷だ。


「えっと、ここは?」

「男爵の爵位を持つ、ボーマント家の別荘だ。もしかしたらティアは屋敷にいた頃に聞いた事があるかもな」

「だ、男爵!?」


 ボーマント家の名前は、まだエクエス家にいる時に聞いた事がある。私は直接関わった事は無いけどね。


 爵位だけで見たら、そこまで高いわけではない。けど、貴族には変わりない。そんな家と繋がりがあるって事? 本当にユースさんって何者……?


「ユース・ディオス様。お待ちしておりました」

「出迎えありがとうございます。さあティア、行くぞ」

「は、はい」


 小柄なメイドに出迎えられた私達は、そのまま屋敷の中へと入っていく。


 わわっ、本当に招かれていたのね……もう何が何だかわからないけど、とにかくユースさんについていけば大丈夫よね! うん!

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